伊藤沙莉「タヌキ側に属する私にしかできない」 オファー殺到の理由は?

エンタメ
2020.09.26
あどけない表情に、個性的なハスキーボイス。彼女には、自然体で、媚びない愛らしさがある。公開を控える作品を含め、今年は8本もの映画に出演。もっとも勢いのある若手女優のひとりにお話を聞きました。
itou sairi

子役から始めて、芸歴17年。長いキャリアの中で、これまでに伊藤沙莉さんが演じてきた役は、誰もが憧れるような美人役では決してない。ヒロインに嫉妬する小娘、モテないOL、SNSで毒を吐き続けるフリーターなど、どこか自分に自信が持てずにいる、等身大で飾らない普通の女の子が多い。そしてこの秋、出演映画が立て続けに公開され、映画『タイトル、拒絶』では、主人公のカノウを演じる。これは伊藤さんが、絶対に誰にも渡したくなかったと話すほど意欲的に臨んだ役だそう。

「カノウは、ウサギに憧れるタヌキのような、イケていない普通の女性なんですが、まさに自分自身がそう。ウサギ側に属するきれいな女優さんは、キラキラしているし憧れますが、私は自分のことをタヌキ側の人間だと思っているので、なりたいとも、なれるとも思っていません。映画やドラマでは、タヌキをウサギ側の人が演じることも多いんですね。でもカノウ役でそれをしたら彼女の苦悩が全く伝わらない気がするんです。カノウのいじらしかったり、不器用だったり、人間っぽい魅力を引き出せるのは、同じタヌキ側に属する私にしかできないと思いました」

自分をタヌキ側の人間だと堂々と宣言できるって、なかなかできないこと。

「小学校高学年くらいの時には、自分の身の程は知っていました。小学4年生の時がモテ期のピークだったんですが、それ以降、パタリとモテなくなったので(笑)。本来ならばもっと早く気づくべきだったんですが、末っ子で甘やかされて育ったので、時間がかかった。でもタヌキ側だからといって卑下していません。タヌキのヒロインって、突き詰めれば突き詰めるほど、ウサギのヒロインよりかわいく見える時があるんです」

伊藤さんが演じると、ごくごく普通の役も、たちまち光り輝き、印象的な人物になる。それは、持ち味でもあるハスキーボイスを生かし、喜怒哀楽をチャーミングに爆発させたり、メランコリックな表情で、心の機微を静かに見せたり、感情表現が実に巧みだからだろう。大胆さと繊細さを兼ね備え、親しみやすさの中にブレない芯の強さが垣間見えるからこそ、彼女の演技に惹きつけられ、演技派女優としても高い評価を得ている。

「演技派とか言われますが、ぶっちゃけ○○派って自分にはよくわからない。自分自身、芝居やテクニックに納得したことはないので。ちょっと逃げのような言い方に聞こえるかもしれませんが、芝居は上手下手ではなく、好き嫌いだと思うんです。たとえば感情を乗せて豊かに表現する演技が好きな人もいれば、無表情で、セリフが棒読みに近くても、感情が見えてくるような演技が好きな人もいる。お芝居には正解がないので、私も毎回悩みながら演じていますし、もしそれを評価していただけているなら、私が普通に近い人間で共感を得やすいからだと思います」

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そんな彼女の無邪気さ、親しみやすさ、サバサバキャラは、同性たちからも支持されている。

「サバサバしている、姉御肌、男勝りとかよく言われるけれど、そんなことは全くない! 生粋の妹キャラだし、すごくめんどくさい女だと思います。でも応援してくれている人は、やはり同性の方が多くて、よく『友達に似てる!』とか言われるのですが、友達にいそうな親近感があるのかな。私を小さくして胸ポケットに入れておきたい、そんなマスコット感があるのかもしれないですね。女の子はキャラクターが好きだから!」

彼女は作り手からも愛され、『タイトル、拒絶』で彼女を主演に選んだ内田英治さんは、『獣道』『全裸監督』でも伊藤さんを起用。また、今年公開された『ステップ』をはじめ、飯塚健監督作品にはこれまでに7作に出演。何度もキャスティングされる理由を、伊藤さんはどう考えているのだろうか。

「ありがたいことです。理由はわからないけれど…、私を使って、監督が自分のホームで遊びたかったからですかね(笑)。何度もご一緒して現場の雰囲気がわかっているから使いやすいだろうし、任せてももらえる。その期待に応えたいし、頑張った分だけ楽しい。短い時間でも爪痕を残せる役者だと褒めていただくことはありますが、それは監督さんをはじめスタッフさんの力量であって、私の技術や技量ではないと思います」

黒木瞳さんがメガホンをとった『十二単衣を着た悪魔』でも物語の中盤に登場し、重要な役どころを演じている。女優の大先輩でもある黒木監督の作品に出演したことで、新しい発見があったとか。

「女優として長く一線で活躍されている黒木さんだからこその魅せ方を教わりました。セリフや表情だけに頼るのではなく、ちょっとした仕草や動作で、解き放たれていく感情を美しく魅せていく方法は、とても刺激的で! これは、私が今までにしてこなかった表現の仕方だったので、最初は戸惑いましたが、黒木さんが、そっと寄り添い、導いてくれました。そうやって監督や共演者たちと突き詰めていく時間が楽しいんです」

無邪気で一途、全身で芝居を楽しんでいる。彼女が愛される理由は、そこにあるのかもしれない。

これから公開を控える出演作

『小さなバイキング ビッケ』

itou sairi

果てしなき大海原を舞台に贈る、感動の冒険ファンタジー。主人公・ビッケの声を担当。小さくて力もないが、知恵を使って危機を乗り越える勇敢な海賊の少年に、伊藤さんが息吹を注ぐ。10月2日(金)より全国公開。©2019 Studio 100 Animation‐Studio 100 Media GmbH‐Belvision

『十二単衣を着た悪魔』

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自信を失ったネガティブ男子が、『源氏物語』の世界へタイムスリップする異世界トリップエンターテインメント。監督は、女優の黒木瞳さん。伊藤さんは、主人公の妻を演じる。11月6日(金)より全国ロードショー。©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー

『タイトル、拒絶』

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事情を抱えながらも力強く生きようとするセックスワーカーたちの姿を描く。主演の伊藤さんが、デリヘル嬢たちの世話係・カノウをどう演じるのか期待大。11月13日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開。©DirectorsBox

『ホテルローヤル』

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桜木紫乃さんの直木賞受賞作が待望の映画化。釧路のラブホテルを舞台にした愛と哀の群像劇。伊藤さんは、物語の重要な鍵を握る女子高生を熱演。11月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー。©桜木紫乃/集英社 ©2020映画「ホテルローヤル」製作委員会

いとう・さいり 1994年5月4日生まれ、千葉県出身。9歳でドラマデビュー。子役時代から安定感のある演技力に定評があり、数々の作品に出演。映画『獣道』(2017年)で長編初主演を飾る。テレビアニメ『映像研には手を出すな!』やドラマ『これは経費で落ちません!』(共にNHK総合)などでの活躍が評価され、今年、第57回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、さらに映画『生理ちゃん』(2019年)で第29回日本映画批評家大賞助演女優賞に輝いた。

シャツワンピース¥28,000(BRAUNGE/MIC TEL:046・224・3636) スカート¥9,900(SOMETHING/EDWIN TEL:0120・008・503) シューズ¥22,000(W&M/INDLE CO.,LTD TEL:03・5808・3977) イヤリング¥7,500(253Bijoux/DRESSUNREVE TEL:03・5468・2118)

※『anan』2020年9月30日号より。写真・阿部裕介 スタイリスト・吉田あかね ヘア&メイク・aiko 取材、文・鈴木恵美

(by anan編集部)

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