熱狂は個人から生まれる時代に。
SNSが発達したこの時代、熱狂の生まれ方にも変化が起きているという。
「大きなムーブメントの誕生に大きく影響しているものが、個人の口コミやSNSへの書き込みです。インターネットとSNSの普及によって情報の拡散スピードが圧倒的に速まり、あっという間に多くの人に共有されるようになったことがポイントです。たとえば映画でいうと、公開したばかりの頃はあまり知られていなかったのに、観た人がSNSでおすすめすることで、人気に火がつくケースが増えています。『ボヘミアン・ラプソディ』や『カメラを止めるな!』などが、そのいい例といえるでしょう」(映画ライター・よしひろまさみちさん)
「タピオカブームも、その一つといえます。流行を作り出すメイン層であり、セルフィーカルチャーの中核を担う10~20代にヒット。インスタグラムなどを通じて一気に広がりました。メディアで取り上げるより先にムーブメントが生まれた、まさにストリートが作り出した熱狂でしょう」(甲南大学文学部教授・栗田宣義さん)
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取捨選択が自由にできる今、狭く深く刺さるものが熱狂につながる。
世界中のあらゆる情報を、インターネットやSNSを通じて自分で探せる今。私たちが好きになる対象や選択肢は、無限に広がっているといえる。
「個人がより自由に、多くのものから取捨選択できるようになったことで、それぞれが熱狂する対象は細分化していきました。ある意味、社会全体を包み込むような一大ムーブメントや、カリスマ的な存在が誕生しづらい時代であるともいえます」(マーケティングアナリスト・原田曜平さん)
「僕が思う熱狂とは、寝ても覚めてもそのことを考えずにはいられない状態。そして、時に人生すら変えてしまうほどの大きな影響を人に与えるものです。でも、今の時代、たとえばものすごい動画の再生回数を叩き出すような、とんでもないアーティストですら、必ずしもマスに受け入れられた存在ではないのが面白い。なかには、ファン以外の人にはほぼ知られていないケースも。幅より、狭くてもグサッと心の奥底まで突く深さこそ、今の熱狂には不可欠なのだと思います」(SHOWROOM代表・前田裕二さん)
スマホというデバイスそのものに熱狂。
選択の自由が増える中で、みんながおしなべて持っているものといえば、スマートフォン。
「私たちが肌身離さず携帯しているスマホは、手元にないと不安になるほどの大切なアイテム。iPhoneは、新作が発表されると、必ずある程度は話題になりますよね。そんなふうに世間の大多数の人が気にしているモノって、実はなかなかなく、ガジェットそのものに、みんなが熱狂してるといえるでしょう。それに、スマホの登場以前は、1デバイス1機能が普通だったのに対して、スマホはオールインワン。自由にカスタムもできるので、何かに取って代わられる心配も少ない。しかも、SNSや、ネットフリックス、YouTubeなどのストリーミングと、今の人たちが楽しんでいるエンターテインメントへの入り口が、すべてその中にあるのだから、熱はしばらく冷めないと思いますよ」(よしひろさん)
「今は、リアルの世界より、スマホの中にある“リアリティらしい”ものに熱狂している時代。小さな液晶の中に、私たちの本質があるといえます」(栗田さん)
興味と好奇心の赴くまま! ディグる喜びがたまらない。
インスタグラムやツイッターが普及し、個人が手軽に発信できるようになったことで、世界中のモノを見つけやすくなった。
「特に、インスタグラムにお買い物機能が登場してから、インディペンデントなものや、個人で作っているものを購入しやすくなりました。ピンタレストで画像を次々とサーフィンしながら探すように、世界中のアカウントへアクセスし、気になるものや感性に合うものを掘って、見つけて、買う。そのディグる行為そのものに熱狂している人が増えているように感じます。日本で売られていないアイテムを販売者に直で連絡をして購入した人の話ですが、『初めての日本のお客さんです』と言われた時には、お店で買うのとはひと味違った深い喜びがあったそう。また、最初は個人的であった熱狂が、SNSを通じて売り手や同じ感性を持った人とつながり、一つのコミュニティが生まれる可能性もありますよね。そうして熱狂を共有する範囲が大きくなることも面白いと思います」(「She is」編集長・野村由芽さん)
よしひろ まさみちさん オネエ系映画ライター、編集者。小誌をはじめ、『otona MUSE』『sweet』『SCREEN』など、さまざまな雑誌で執筆。『スッキリ』の映画紹介コーナーに出演している。
栗田宣義さん 甲南大学文学部教授。美容化粧服飾と流行を主に研究。著書に『マンガでわかる社会学』(オーム社)など。『新社会学研究』(新曜社)にて「ファッション&パッション」を連載。
原田曜平さん マーケティングアナリスト。若者やメディア文化を中心に次世代の研究を行う。著書に『平成トレンド史』(角川新書)など。「マイルドヤンキー」の名付け親。
前田裕二さん SHOWROOM代表。著書に『メモの魔力』(幻冬舎)など。『スッキリ』(日本テレビ系)の火曜レギュラー。ラジオ『SHOWROOM主義』(TOKYO FM)ではMCを担当。
野村由芽さん ライフ&カルチャーコミュニティ「She is」の編集長。“自分らしく生きる女性を祝福する”ことをモットーに、カルチャーや思想などを発信している。https://sheishere.jp/
※『anan』2019年12月18日号より。イラスト・山中玲奈 取材、文・重信 綾
(by anan編集部)