ラブホで見た人の誠意に愛おしさを感じました。
「以前は居酒屋で働いていたのですが、そこでのお客さんと店員という関係が苦手だったのと、学生時代によくある人間関係のいざこざで、人と関わりたくないなと思っていました。そこで、誰とも顔を合わせずに済む、ラブホテルでも働こうと思ったんです。驚かれることもあるけど、ラブホテルに対して嫌な気持ちがなかったし、居酒屋のバイトと同じ感覚でした。でも、そこで、いろいろな人がいるんだということを知りました。部屋の使い方が一人一人、全然違っていて、それが面白かったです。絵本にも描いていますが、なかには納豆を使う人もいました。ビックリしたけど、ちゃんとブルーシートにくるみ、さらにビニール袋に入れて置いてくれていて。部屋は臭いし、床とかも拭き残しがあってベタベタしているけど、背徳感のある行為をした後でも礼儀をきちんとわきまえた感じや、誠意がたまらなく愛おしいと思いました。ほかにも、掃除をして帰る人もいて、スポンジでこすった掃除の痕跡が残っていたり、使った洗剤を忘れて帰っていく人もいました。性的な嗜好においてはマイノリティと言われるかもしれないけど、それを押しつけるのではなく、周りの人と共生しようとする姿勢に感動し、勝手にほっこりしていました」
何でもしていい場所だからこそ見える人の意外な一面が、カキヌマさんの心に影響を与えたこともあった。
「受付でお客さんの顔を少しだけ見る機会もあるのですが、強面の人が使った後に部屋がきれいに片付けられているのを見て意外だと思ったことがありました。逆に、すごくキチンとしてそうに見える人が、ベッドをぐちゃぐちゃなままにしているのを見て、“そうだよね、いつも全力でちゃんとしているわけじゃないよね”と、不思議に安心した経験もあります。そんな時に、人間って、きれいな丸じゃなくてもいいよね、凹凸があったりボコッとしていてもいいんだと感じられました。それからは、たとえ居酒屋のバイトで怖いお客さんに冷たくされても、“今日はたまたま何かがあったのかな、しょうがないよね”と思えるようになったんです」
恋愛やセックス、そして生き方にも、いろいろな形があって当たり前だと思うようになったという。
「ホテルにはいろんなカップルや人がやって来ます。年齢差のある二人もいれば、サラリーマンが一人でやって来て、女の子を呼ぶのも日常茶飯事ですから。そこで働いていると、人にはいろんな在り方があっていいよねって考えるようになりました。自分が受け入れられたいと思うなら、理解できない人のことも受け入れないといけないですから。生きていくうえで思想や哲学を持つことは必要だと思うけど、それを人に強要するのは違うし、人を否定する権利もないなって。セフレみたいな関係だとしても、それが何より必要な時だってあると思うんです。道徳的にはよくないことかもしれないけど、自分と相手で解決できるなら、誰にも何も言われない世の中になればいいなと思っています」
自分より若い世代にも、この絵本を手に取ってほしいそう。
「内容が内容なので、大人向けの絵本と謳っているけど、中学生や高校生にも読んでほしいです。それは、自分が、その頃に読んだ大人向けの漫画や作品から、パワーをもらって生きていた経験があるから。持っているだけで強くなれるバイブルみたいな作品を、人それぞれ持っているじゃないですか。この絵本が、多くの人にとって、そんな存在になれば嬉しいです」
カキヌマカナさん 1997年7月4日生まれ。現在は東京の大学に通いながら、ラブホテル清掃員、最近は物書きとしても活動。noteで日記を更新している。https://note.mu/07041997
『人のセックスでご飯を食べる』 自分に自信のない主人公のヤンちゃんは、人と関わることを避け、ラブホテル清掃の仕事を始める。ヤンちゃんの心の変化を、本当にあったホテルの面白い使い方と一緒に届けます。¥2,000(http://mikke.co.jp/)
※『anan』2019年8月14日-21日合併号より。取材、文・重信 綾
(by anan編集部)
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