アンアン読者にとっては、お父さんと同世代であろう奥田瑛二さん。“渋みのある大人の男”のイメージがありますが、実は’80年代には、“トレンディドラマ”と呼ばれた若者の恋愛模様などを描いたテレビドラマで、女性たちをメロメロにした過去があるのです…。
奥田瑛二

――30年以上ずっと“かっこいい奥田瑛二”をキープしてこられたのに、2月に全国公開の映画『洗骨』では、情けなく、かっこ悪い男性を演じていますね。

そう。僕が演じた信綱という役は、最愛の妻を亡くし、酒に溺れ、世捨て人のように暮らしている男。ここ5~6年よく演じていた、検事や刑事、会社の重役といった役とはまったく違うタイプの男。まあね、年齢的にそういう役回りなんだろうけれども、恫喝したり、あるいは経済や政治に関する専門用語をバーッとまくしたてたりすることが多くて、こっちは年をとるのに覚えるセリフはどんどん増えるわけだから、正直ちょっと疲れちゃってさ(笑)。それで一昨年の夏に、“もうそういう役、やーめた”って思ったの。それで今後は、父親でもいいし、もちろんジジイでもいいんだけど、人の心にある喜びや悲しみ、痛みに寄り添うような役柄をやろうって決めて。そんなときにこの話をいただいた。脚本を読んですぐに監督に会いたいって思って、渋谷のルノアールで話を聞いたんだよね。

――照屋年之監督、ガレッジセールのゴリさんですね。

うん。笑えるところがあって、切なくなって、また笑えてまた涙が出て。読み終えたとき、それこそ珠玉のため息が出たんです。脚本を読んで、自分から監督に会いたいと思ったのなんて、それこそ25年ぶりくらいじゃないかなぁ。それで「なんで僕なんですか?」って聞いたんですよ、監督に。

――監督はなんと?

「目です」、と。

――ほう…。

その時点で、“こいつ、俳優を殺しに来やがって…”って脳裏で思ったんですけど(笑)、さらに続けて「奥田さんの目の奥にある眼差しには、悲しみと切なさがあるのがいい」と。おいおい、倍かけて口説いてきてるよって。もう僕が女性だったら、すぐに相手のものになっちゃうくらい、すごい口説き方だったんです(笑)。承諾して、家に帰る道すがら、今まで積み上げてきた〈俳優・奥田瑛二〉を取っ払うんだろうなぁと思いつつ、自分を再構築したいと思っていたところだったから、もう一度原点に立ち返るのにはすごくいいタイミングだったんですよ。

奥田瑛二

――作品の舞台は沖縄の粟国島。そこで奥田さん演じる信綱は、家に閉じこもって酒浸りの日々を生きているわけですが、先ほど「人の痛みに寄り添う役をやりたかった」とおっしゃいましたけれど、ここまで情けない男を演じることに、躊躇はなかったんですか?

まったくなかったよ。ファーストシーン、信綱はケツのたるんだダルダルのブリーフにくたびれたランニングで登場するんだけど、衣装合わせのときに伸び切ったブリーフをはいたらさ、「おぉ~、これだこれだ!」って。自分はもちろん監督も、いわゆる〈奥田瑛二〉を崩していくことが、結構楽しかったんだと思います(笑)。

――奥田さんがここ最近演じてきた役柄として挙げたのは、検事や刑事といった職業でしたが、信綱はもはや職業もない“ただの沖縄の離島の男”ですよね。役作りのアプローチは異なりますか?

うん、違うね。まず、その役に対しての責任の度合いが違うんだよな。そこに生きている人を演じるって、すごく責任が大きいんだよ。もちろん検事をやるときにも、実際に検事の方にお会いして話を聞いて、リサーチを重ねるわけだけど、信綱のような男はもっと土着性が必要になる。なんだろうね、その土地に溶け込む才能っていうのかな。今回は1か月ちょっと粟国島や沖縄本島に住んでロケをしたんだけど、島の土、風、自然、人々、すべてに好奇心を持って近づき、そのあとは一切考えないようにして、ネイティブの空気感を身につけるんだ。こういう役は形より、心を掴むことが大事。そういう意味では、今までで最も難しい役どころだったかもしれないね。

おくだ・えいじ 1950年生まれ、愛知県出身。’79年『もっとしなやかに もっとしたたかに』で映画初主演。’86年のドラマ『男女7人夏物語』を機にブレイク。’89年の映画『千利休 本覺坊遺文』で日本アカデミー賞主演男優賞を受賞。映画監督としても活躍しており、’06年『長い散歩』でモントリオール世界映画祭でグランプリを含む3冠を受賞した。

『洗骨』死んだ人を一度土葬あるいは風葬したあと、縁深き人たちの手により骨をきれいに洗うという風習、“洗骨”。4年前に妻を亡くし、沖縄の粟国島で世捨て人のように暮らす信綱の元に、島の外にいる娘と息子が帰ってくる。家族の思いがすれ違う中、洗骨の日が近づいてきて…。共演に、筒井道隆、水崎綾女、筒井真理子ら。沖縄で先行公開中。2月9日より、丸の内TOEIほか全国公開。

※『anan』2019年2月6日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) インタビュー、文・河野友紀

(by anan編集部)

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