
小説『神の代役 HBD調査鑑別室』の作者、乾ルカさんにインタビュー。
“人間も、悲しみで死ねたらいいのに”という台詞を書いたことで
絶望すると死ぬ──そんな現象が発現し、「HBD(Heart Break Death)」と名付けられた社会。この現象を利用した殺人が可能なため、日本政府は法整備を開始、国の委託を受けて北海道ほかで調査鑑別室が始動する。乾ルカさんの『神の代役 HBD調査鑑別室』は、故人の死の引き金となった絶望は何だったのかを探る、調査鑑別室の面々の活動を描く連作集だ。
「きっかけはふたつあります。まず、過去に『葬式同窓会』という小説で、“人間も、悲しみで死ねたらいいのに”という台詞を書いたことです」
もうひとつは、ドラマの『アンナチュラル』だという。
「すごく好きで、こういうものを書けたらいいなと憧れましたが、私には法医学の知識がないから無理で。だったら死因を作ればいいじゃない、と。その時に以前書いた台詞を思い出し、人が悲しみで死ぬ世界で、その悲しみが何だったのかを突き詰める話にしようと思いました」
主人公は調査鑑別室に配属されたばかりの新人、一ノ瀬美羽。
「主人公は読者の方と同じように、何も知らないところから知識を得ていく立場にしました。一ノ瀬は平凡だけれど、挫折経験もある。傷ついた経験があり、自分が人を傷つける可能性もあると自覚的な人でないとこの調査はできないと思いました」
個性的な同僚たちに揉まれながら、一ノ瀬は様々なケースと対峙する。
居酒屋で盛り上がっている最中に突然死した女性、一人ベンチに座っている時に亡くなった男性…。
「何に絶望するかは人それぞれで、誰もそれを否定できない。そこを丁寧に書こうと思いました。人は私も含め“そんなことで絶望しないはず”と、自分の物差しで測ってしまう。その戒めをこめて、上司が一ノ瀬に『それはあなたの価値観でしょ』と言う場面を書きました」
真実は故人にしか分からない。だからこそ調査鑑別室の面々は安易な判断はしない。そんな彼らにも、一人一人にドラマがありそうだ。
「調査鑑別室の人たちの背景はかなり念入りに作りました。こういう環境でこう育ったからこう考える、ということが分かっていないと説得力が出なくて。ただ、ノイズになるので作中には書きませんでした」
ぜひシリーズ化して、少しずつ彼らの事情も明かしてもらえたら!
Profile
乾ルカ
いぬい・るか 2006年「夏光」でオール讀物新人 賞を受賞。著書に直木賞候補となった『あの日にかえりたい』、ドラマ化された『てふてふ荘へようこそ』のほか、『メグル』『愛する男』など。
『神の代役 HBD調査鑑別室』
あるウイルスの抗体保持者が絶望すると死に至る「HBD」。殺人も可能なため、事件性の有無を調べる調査鑑別室が始動。彼らの活動を描く。
ポプラ社 1980円
anan 2507号(2026年8月5日発売)より































