エンタメに造詣が深い3人が語る、いま人々が求めるヒーロー像

古今、あまた描かれてきたエンターテインメントにおける不朽のテーマ、“ヒーロー”。その姿は形を変え、様々な文脈で語られるようになってきています。では、いま人々が求めるヒーロー像とは何なのか。時代の変遷と、現代の感覚から考察していきます。

Index

    お話を伺った方々

    Profile

    飯田和孝(ドラマプロデューサー)

    TBSテレビコンテンツ制作局ドラマ制作部所属。『御上先生』『アンチヒーロー』『VIVANT』『マイファミリー』『ドラゴン桜(2021)』など、多数のドラマを手掛ける。『VIVANT』第2シーズンは、7月26日から2クール連続で放送開始。

    上坂あゆ美(歌人、文筆家)

    2022年、第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。パーソナリティを務めるPodcast番組『私より先に丁寧に暮らすな』も人気。新刊『会社ではおならをしてはいけません』(双葉社)が絶賛発売中。

    山縣みどり(ライター)

    海外セレブウォッチャー。出版社勤務を経て、フリーに。女性誌やカルチャー誌、Webなどで映画評やインタビュー、セレブ・ゴシップ、翻訳記事などを執筆中。現在の推しヒーローは、宇宙飛行士のジョニー・キムさん。

    タイプで読み解く現代ヒーロー像

    今回は、作り手からウォッチャーまで様々な立場でエンタメ作品に造詣が深い3人に取材。まずはそれぞれが考えるヒーロー観や彷彿させるイメージについて聞いてみました。

    いつの時代のヒーローも“未来の自分の延長線上にある憧れの存在”(飯田和孝)

    数々のヒットドラマを生み出してきた飯田和孝さんが思い描く理想のヒーローは、意外にもアニメに原点があった。「昔からアニメ好きで、僕の中で『るろうに剣心』『幽☆遊☆白書』『SLAM DUNK』の主人公が3大ヒーロー。圧倒的な存在感とポテンシャルの高さで、一挙手一投足から目が離せず、物語を引っ張っていく一方で、単に強いだけでなく、弱さや挫折などパーソナルな部分もさらけ出していく姿に引き込まれました。誰しも人間は汚さや弱さを持っており、それぞれ痛みを抱えながらも前進するヒーローは、“未来の自分の延長線上にある憧れの存在”であり、いつの時代も愛され、尊敬されるのではないでしょうか」

    役割を自覚して周りに明るさをもたらし、希望を示す覚悟がある人(上坂あゆ美)

    上坂あゆ美さんは、ヒーローは崇める対象ではなく、あくまで役割だと話す。「推し活ブームの今、推しにヒーロー性を感じる人も増えたのではないかと思います。同時に人権意識も高まり、『ヒーロー(推し)だって一人の人間だよね』という見方も。勝手な理想を押し付けたり、私たちの心の弱いところまで全てを背負わせるのは違うし、一方で何をしても許されるわけではなく、言動が批判される可能性もある。個人との境界が曖昧になってきた現代のヒーローとは、“どんな状況でも、人々に明るさや希望をもたらす役割への覚悟”がある人のことを指すのではないかと思っていて、それは極めてアイドルに近い構図ですよね」

    ヒーロー像は、善悪二元論から葛藤や多面性を持つ存在へ変化(山縣みどり)

    国内外のエンタメ作品に長らく触れてきたライターの山縣みどりさんが感じる、ヒーロー作品やヒーロー像の変化とは。「かつては、困った庶民や社会的弱者を守るために立ち上がって戦ったり、社会平和や人類の進歩に尽力する主人公の物語を描いた“ヒーロー作品”が主流でした。しかしSNSの普及や社会情勢の変化によりヒーロー像が複雑化し始めたことで、善悪を明確にする物語が成立しにくくなってきた。そんな背景もあり、最近は、主人公が葛藤や多面性を持ちながらも奮闘し、物語が広がっていく作品が増加。私たちが受け入れやすい、より身近に感じるテーマや無名のヒーローを題材にした作品が時代の潮流に!」

    支持される現代ヒーローの姿

    広がりを見せるヒーロー像とは、具体的にはどのような特徴を持っているのか。大きく5つの方向性から、3人に読み解いていただきました。

    成長を見守りたい「物語性ヒーロー」

    ヒーロー自身の物語に惹かれて、応援したくなるような存在

    壮絶な過去を乗り越えていく姿に視聴者は目が離せなくなる(飯田)

    「特にドラマでは、主人公自身の物語性の深さこそが、1クール見続けてもらうための重要な要素に。『VIVANT』の乃木憂助は、気弱なサラリーマンとして登場し、“別班”に所属するエリートであることが明らかに。複雑な生い立ちを抱え、それを克服していく姿が多くの人に支持されたのでは」

    YouTuberらが市民権を得るまでの過程はまさに物語(上坂)

    「新しいジャンルとして確立され、いまやYouTuberやVTuberはなりたい職業のひとつに。初期は配信者一人ひとりが、この界隈を盛り上げていくという宿命を背負い、新しいファンダムを作り上げた過程に惹かれる。この10年で劇的に市場が拡大した彼らの活躍ぶりは、まさに物語性を感じます」

    自分の物語を通して、いろんな生き方を教えてくれる(山縣)

    「#MeTooムーブメント以降、ジェンダー問題やフェミニズムを取り入れた、女性の尊厳を守ることの大切さを教えてくれる作品が増加。たとえば映画『バービー』は、ただ可愛いだけの存在だった女の子の自我の目覚めと、現在を生きる女性としての成長を感じられる、まさにお手本にすべきヒロイン像!」

    充足感をもたらす「救世主型ヒーロー」

    全ての困難や苦しみからみんなを解放してくれる存在

    登場した瞬間、物語の全てが持っていかれるような力強さ(飯田)

    「映画『爆弾』で、山田裕貴さんが演じた類家は、登場した瞬間から救世主感が半端なく、彼の推理で物語自体が完結に向かいワクワクが止まらなかった。それが仮に脇役だった場合でも、これまでのストーリーや他の登場人物さえも凌駕していくような存在がいると、作品自体の品質も格段にアップします」

    破壊的なことが、現代においては救済になることも(上坂)

    「生きづらい時代だからこそ、この世界をぶっ壊してくれるような存在が救世主になり得る。社会不適合な殺し屋の少女たちを描いた映画『ベイビーわるきゅーれ』や、大食いマンガ『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』を見ていると破壊衝動が満たされ、個人の秩序が保たれている部分がある気がします」

    自らの命を犠牲にしても周りを助けようとする姿勢に感動(山縣)

    「映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のグレースは、滅亡の危機に瀕した地球の運命を託され、宇宙人のロッキーと解決策を見出すのですが、人種を超えて友情を育み、利他的な行動で宇宙を救う姿はヒーローそのもの。多様な視点を持ち、弱者のために尽力するヒーローこそ今の時代が求める存在では」

    寄り添いの伴走者「代弁者的ヒーロー」

    名もなき声や言葉にならない感情を拾い、社会に立ち向かう!

    肩を並べて目指すべき方向に進んでいくのが今っぽい(飯田)

    「旧来の代弁者的ヒーローは、先導して引っ張っていくイニシアティブ型だったが、多様性を尊重する現代では寄り添い型が新潮流に。生徒たちに愛情を注ぎながら一緒に肩を並べて進んでいく姿が人気を集めたドラマ『御上先生』の御上孝のように、みんなで一緒に進んでいく目線の近さが現代的だと思います」

    誰も言葉にできなかった苦しみをさらけ出してくれるありがたさ(上坂)

    「自身が人生に何を求めているのか探し続ける女性を描いた映画『ナミビアの砂漠』と、お笑い芸人のドンデコルテの渡辺銀次さんの孤独なおじさんのネタは、全く異なる形ですが多くの人が共感を寄せました。今まで誰も言ってくれなかった苦しみを見せてくれる人物の存在が希望に」

    揺るぎない道徳観と正義感を持った人にこそ、頼りたくなる(山縣)

    「周囲の声に耳を傾けながら行動できる芯の強い人に、私たちは身を委ねたくなるもの。社会派ドラマ『LAW&ORDER:性犯罪特捜班』のオリビア・ベンソンとその仲間たちは、性犯罪被害に遭った人に深い思いやりを示しながら、悪辣な犯罪者を容赦なく逮捕していく、その逞しさにうっとりします」

    憧れの先に立つ「理想系ヒーロー」

    “こんな人に自分もなりたい!”と思わせてくれる憧れの存在

    “なりたい自分”の先にある理想はみんなに共通するもの(飯田)

    「自分にはできないようなことに果敢に挑戦していくヒーローたちは“なりたい自分”の先を走ってはいる。けれど、どこか近づけたり真似できるようなところがあるから憧れるし、尊敬できるからこそ理想化されやすい。ヒーローに憧れ、勇気をもらえるのは、私たちの理想を体現してくれているからでは」

    絶対に自分を傷つけない存在に言いようのない安心感が(上坂)

    理想は個人だけでなく、環境や関係性にも生まれうる。「お笑い芸人のマユリカさんのPodcast番組『マユリカのうなげろりん!!』は、視聴者を一切傷つけず、いつもふたりが素でぶつかり合っている姿が垣間見られる。そんな小学生の友達のような平和な関係性を羨ましく感じる人は多いはず」

    モラルの指標や、自分の未来のお手本にしたくなる対象(山縣)

    「志を高く持ち、歴史を変える人こそ、私たちが目指す理想像。ドキュメンタリー映画『RBG最強の85歳』のルース・ベイダー・ギンズバーグは、85歳の最高裁判所判事で、男性優位だった法曹界で活躍し、最高裁に新しい波をもたらした人物。将来はこんな人になりたいと思わずにはいられません」

    異次元の英雄「ファンタジー類ヒーロー」

    現実を忘れて、ずっと眺めていたくなる異次元な存在

    目標に向かって迷いもなくただただ突き進める無双感(飯田)

    「『キングダム』の信、『シティーハンター』の冴羽獠のような人物は、現実世界にいないとわかっていても、自分と重ねたくなるし、“もし現実世界にいたら…”と、ついつい空想したくなる。現実逃避かもしれないけれど、己の信念を曲げずに無双し続けているヒーローは、僕たちの希望です」

    普遍や不変であることも、ファンタジー要素に含まれる(上坂)

    「バイトとヒーローの二重生活を送るマンガ『生活マン』や、Vlogの流行を見ていると、私の悲しみや嬉しみに関係なく、そこにその人の営みが存在しているということに勇気をもらうことがある。変に心が動かされないという意味では、ファンタジーの中に普遍や不変であることも含まれている気がします」

    現実離れしたアクションや活躍に驚きと感動が(山縣)

    「映画『ミッション:インポッシブル』『トップガン』で、無敵な主人公を演じるトム・クルーズは、いついかなる時も悪をバッタバッタと倒していく。作品で描かれている善悪が分かれた世界は、現実においては異世界かもしれませんが、現実離れしたトムの活躍に溜飲を下げることも私たちには必要なのかも」

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    イラスト・ナカムラユウキ 取材、文・鈴木恵美

    anan 2503号(2026年7月8日発売)より
    Check!

    No.2503掲載

    ヒーローエンタメ最前線

    2026年07月08日発売

    この夏を彩る最新ヒーローを紹介する特集。プライムオリジナルドラマ『犯罪者』から高橋一生さん、斎藤工さん、水上恒司さん、映画『ブルーロック』からは高橋文哉さんなど、豪華キャストのみなさんが誌面を彩ります。

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