
7月3日から公開の映画『死ねばいいのに』で主演を務めた奈緒さんにインタビュー。京極夏彦さんによる同名小説が原作の本作で、主人公・映子を演じて見えてきたものとは。
私たちが生きている世界に映子の存在を実感できるように演じたい
『死ねばいいのに』──衝撃的なタイトルにヒヤリとするが、その裏には「生きること」を選択する切実さが見えてくる本作。京極夏彦さんによる同名小説を、主人公を男性から女性に変えて映画化したもので、殺された亜佐美の話を、感情をむき出しにして聞いて回るのが、奈緒さん演じる映子だ。強烈なキャラクターを演じるうえで奈緒さんは「リアリティを大事にした」と話す。
「人間の奥深くにある気持ちがあぶり出される作品なので、私たちが生きている世界に映子の存在を実感できるように演じたいと思って。この状況で街の中にいたら映子は馴染むだろうか、と立体的に想像するようにしました。街を歩いている時に、情報を受け取れない人ほど気になって目を引いたりしますよね。私にとって映子はそういう存在で、きっと映子にとっては亜佐美がそうだったと思うんです。普段は役柄の内面にフォーカスすることが多いのですが、原作で主人公が言う『俺にはわからないけど』という言葉から、映子自身も自分のことをわかっていない人だと想像し、無理に映子像を埋めないようにしました。衣装合わせでもスタッフみんなの意見がさまざまで、映子像のわからなさが顕著だったのも面白かったです」
「映子が映画の中で残像的に残る色が欲しかった」という理由で、いくつもの衣装から背中に青い線のあるブルゾンを選ぶなど、丁寧に役柄を作り上げていった奈緒さん。人生に対して諦めのようなものを感じる映子だが、ひたすら相手を問い詰めるシーンでは彼女の中にある怒りと知りたいという欲求が混沌とする。

Ⓒ京極夏彦/2026映画「死ねばいいのに」製作委員会
「映子の中には、“亜佐美を知りたい”という動機が一番にあり、その過程で苛立ちや喪失感を覚えていきます。亜佐美の上司役の前原滉さんとの場面は、やり取りが平行線で、ものすごく疲れるのに、結果、亜佐美のことを何も知れず(笑)、“知る”ってこんなにも骨が折れることなんだと実感しました」
運命共同体のような強い関係性である、映子と亜佐美。亜佐美を演じた伊東蒼さんの存在が、緊張感のある現場の支えだったという。
「現場に入る前にふたりでごはんに行って、他愛もない話をたくさんしたんです。その時間がすごく楽しくて。別れる時に、もしこれが映子と亜佐美の最後だったらと思うと泣きたくなるほど寂しくなりました。ふたりに流れた時間と寂しさを知れたのは、蒼ちゃんのおかげです」
作品終盤、亜佐美の人物像が解き明かされていく中で感じるのは、相手を理解しようと思いながらも“わかった気にならないこと”の大切さだ。鋭利な言葉を投げかけながら、必死に生きる映子から、奈緒さんも受け取るものがあったという。
「私も映子のことがわかりませんでしたが、わかろうとして答えを急ぐことは、自分が安心したいだけかもしれないし、危険もあります。『辛いなら死ねばいいのに』という映子のセリフも、答えを早める言葉です。ニュースを見ていても、誰が悪くて、何が幸せなのかは他者には決めることができません。映子が訪ねた人たちもみんな、苦しくても、生きる理由を答えられなくても、今をがむしゃらに過ごしています。作品を通して私自身、日々生きることを選択しているんだと気づかされましたし、そのことを確かめながら過ごした日々でした」
映子のように、人の奥底にあるセンシティブな感情に触れる役も演じる奈緒さん。演じること、届けることに勇気がいることも多いなか、何を大事に演じているのだろうか。
「なるべく人を傷つけないようにしたいです。その一方で、自分が存在するだけで誰かを傷つけてしまう可能性もあるという事実を受け入れ、目の前の大切な人たち、作品なら現場の方々や観てくださる方がなるべく傷つかないように真摯に向き合おうと心がけています。その思いが叶い、作品が届いたら嬉しいです」
Profile
奈緒
なお 1995年2月10日生まれ、福岡県出身。2018年、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』で注目を集める。フォトエッセイ『いつか』(宝島社)が発売中。W 主演映画『シャドウワーク』は9月25日公開。
information
『死ねばいいのに』
何者かによって殺された鹿島亜佐美(伊東蒼)について、周囲に尋ね歩く渡来映子(奈緒)。上司(前原滉)や先輩(髙橋ひかる)などさまざまな証言をたどるうちに、亜佐美の人物像が浮かび上がってくる。テアトル新宿ほか全国公開中。
写真・西谷陽斗 スタイリスト・岡本純子 ヘア&メイク・竹下あゆみ インタビュー、文・羽佐田瑶子
anan 2503号(2026年7月8日発売)より































