
小説『そうだ、君を憎めばいいんだ 愛と殺意と七つの条件』の作者、桜庭一樹さんと斜線堂有紀さんにインタビュー。
このキーワードがなかったらこの寄り道はしなかったなと思う
誰もが持つ危うい愛憎を描き、読者の心を揺さぶってきた’70年代生まれと’90年代生まれのカリスマ、桜庭一樹さん、斜線堂有紀さん。『そうだ、君を憎めばいいんだ 愛と殺意と七つの条件』は、ふたりが日時やキーワードなど7つの条件を決め、その共通項を用いながらそれぞれに書いた実験的な作品集だ。
「編集者さんも交え、最近の気になることや詳しいジャンルのトピックなどをブレストして挙げていきました。キーワードを3つにという話もあったのですが、7つあるからこそ、話を組み立てる道筋が見つけやすかったように思います」(斜線堂さん)
たとえば、最初に収録されている2編。ふたりが共に挑んだキーワードの一つに〈愛の定義〉がある。
「私は自分の作品で、ドラマのプロデューサーをしているシズコさんという女性が、ドラマ論を力説する場面を書いたんですね。マッチングアプリによって愛の定義にパラダイムシフトが起きた、昔の恋愛ドラマはこうで、いまはこう変わってきたと。ストーリーの枝葉といえば枝葉なんですけれど、このキーワードがなかったらこの寄り道はしなかったなと思う。そういうのが書いていて面白かったです」(桜庭さん)
同じ条件を踏まえながらも、視点が違うことでまったく別の物語が生まれてくる鮮やかさに目を瞠る。
桜庭さんの「かわいそうに、魂が小さいね」は、愛することはできても愛されることは恐れる捨て子だった女の子の話、斜線堂さんの「その春に用がある」は、ある復讐を胸にその日を待ち続けた女の子の話だ。
「キーワードの中にセリフもあるんですよね。〈AIのお導きですね〉や〈それ、本物?〉など。その使い方もお互いで全然違うのにも驚きました。それから、3番目の競作で入れることになった〈実在する「怪談」〉。斜線堂さんのを読んで、世代によって流行った怪談がこんなに違うんだと思って、発見でした。私の世代だと“いまあなたの後ろにいるの”や“ピアスを開けたら耳から白い糸が出ていて、引っ張ったら失明した”といった都市伝説がよく聞かれました。斜線堂さんの世代だと、“ベッドの下にいる人”やさまざまな形になる立体パズルの玩具“リンフォン”が恐怖譚として広く語られているんだなと」(桜庭さん)
桜庭さんが「よくぞ書いてくれた」と斜線堂さんを称賛したのは「場外戦」という一編。カードゲーム好きのコミュニティが主な舞台だ。
「カードゲームでなくてもよかったんですが、コミュニティにおけるジェンダーバイアスみたいなものを感じた経験、そこに共感してもらえたらなと思いました」(斜線堂さん)
女性は特に「女性」というだけで何かを期待されたり、見下されたり、正当に評価してもらえなかったと感じたことがあるのではないか。
「作中でも、小瀬百華(おぜ・ももか)という女の子は、カードゲームの仲間たちから屈辱的な扱いをされているとわかっているんだけれど、同時に、そこは彼女にとって居場所ではあって。デートDVや親からの虐待も似ているけれど、愛を感じたり楽しかったと思えた、そういう瞬間がないわけではないからよけいにつらいし、だから逃げることができないみたいなことってありますよね。こういう関係性の歪みを目の当たりにしたから、自分はしないようにしてるという感想があって。実際に行動している人もいるんだと思ったら、その時の私も救われたような気持ちになりました」(斜線堂さん)
作中で描かれる犯罪や出来事は、現実とオーバーラップする重苦しいものもある。それが登場人物たちの切実な喜怒哀楽と交じることで、あまりにも切実な祈りのように見えてくる。出色のクライムサスペンスをじっくり堪能してほしい。
Profile
桜庭一樹
さくらば・かずき 1971年、島根県生まれ。'99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作入選し、デビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、'08年『私の男』で直木賞受賞。
斜線堂有紀
しゃせんどう・ゆうき 1993年、秋田県生まれ。2016年、電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞し、デビュー。『回樹』('23年)は、日本SF大賞最終候補と吉川英治文学新人賞候補になった。
information
『そうだ、君を憎めばいいんだ 愛と殺意と七つの条件』
おかちまちパンダ広場、秋葉原、神保町、飯田橋の橋の上。東京4か所が舞台の各々4作品ずつの計8編(書き下ろし含む)。書き下ろし「あとがき」も収録。ふたりの個性的な作風を代わる代わる味わえる、贅沢な読書体験に。河出書房新社 1980円
anan 2502号(2026年7月1日発売)より
































