DIVA・ゆっきゅん「私のような存在が地方に住んでいる繊細な中高生たちにまで届け!」
――小さい頃から歌手を目指していたのでしょうか?
ゆっきゅん:小学校低学年のとき、将来の夢は“エイベックス”ってカタカナで書いたことを覚えています。イメージとしては浜崎あゆみさんのことだと思うのですが、ジャストAYUになりたいというわけではなくて…。姉がいたので影響を受け、5歳くらいから音楽に触れて歌うことは好きでした。Perfumeとかも元々好きでしたが、中学2年生の頃にモーニング娘。にハマってアイドルに開眼して。世代的にAKB48とかも全盛期で。でも当時私は岡山県に住んでいたので、好きなアーティストたちは47都道府県ツアーでも組まない限りやってこない。音楽はテレビやCDやPCの中にあるものという感覚で、同じステージに立ちたいと思うこともほぼなかった。それに、好きな女の子アイドルグループには自分はどうやっても入れないということも、もはや考えないくらいわかっていたし。別に女の子になりたいわけでもなかったし、ただそこに自分の枠はないんだと自然と理解していました。別段それが悲しいとかつらいとかもなく、普通に振りコピとかは全力でしていて。で、部活して、勉強して、高校は自由な校風の進学校へ通って。だから、東京に出て歌手になってやるんだという夢や信念を幼少期からずっと抱いていたというわけでもなく、都内の大学に進学というごく普通の理由で上京をしました。
――それでも大学1年の2014年にはゆっきゅんとして初ステージを踏み、その後2016年には男女2人組アイドル〈電影と少年CQ〉も結成。活動の場を確実に広げていきます。
ゆっきゅん:東京へ出たら面白い人がたくさんいるんだと勝手に思っていたんです。高校時代の私は、文化祭のクラス演劇で『下妻物語』をやりたくて、脚本を書いてクラス全員にプレゼンしたり、一人6役ででんぱ組.incを踊ってみせたりと、まあ学校の人気者という感じではあったんですけど…でもそれは素人の輝きってだけだと自分では思っていたんです。東京に来たらそれより衝撃を受ける圧倒的な人たちと出会えるはずだ、と。でも大学でも断然、自分が面白かった。アイドル業界もその頃からちょっと飽和状態で、何をやってもいいような空気感が漂っていた。それなら「…じゃ、私やる?」と(笑)。自分が好きなようにやってもいいなら私も“アイドル”ができる。学業と並行してじわじわと表舞台に立つようになりました。
――ステージに立って変わったことはありましたか?
ゆっきゅん:自分が好きな格好をして人前に立ったり、歌を歌ったり、何かしらの自分らしさを発信することで他の誰かにいい影響を与えることができるんだと実感したときに、あ、自分はこれがやりたかったんだと確信しました。それはXのポストひとつでも同じです。短い文章でもそれが誰かの希望や心の解放のきっかけになれるなら、自分のような人間が光り輝いているところを見せなければいけない、と。私が思春期の頃にはそんなロールモデルがいなかったんです。自分が10代のときにこういう人がいてくれたらもう少し楽だったかもと思うので。今はまだ小さいですが、私のような存在が地方に住んでいる繊細な中高生たちにまで届け! と思っています。感度高くすでに好きでいてくれる方々も当然大事ですが、まだまだ届いてない人に知ってもらいたい。それは大きなモチベーションのひとつです。
「DIVA ME」で自分にしか描けないことがあると知った。
――そして2021年にセルフプロデュースで〈DIVA Project〉を始動。過去のインタビューで「私にとってDIVAは、孤独なまま立っていて、人々に勇気を与え続けてくれる存在」と語っています。まさに誰かの光になりたいと願うゆっきゅんの集大成のような活動の始まり。
ゆっきゅん:ですね。まっさらなプロジェクトを立ち上げたというより、私が26年間生きてきた中で散らばっていた思いや感情をわかりやすくまとめた“ツイートまとめ”みたいなものが「DIVA ME」です。だからこの曲を出したときに「わかる!」と多くの方に反応をいただけたことがうれしかった。お披露目の配信のあとすぐにこの一曲について長文でnoteを書いてくれた方とかもいて。ああ今までとは違う速度でみんなの心に届いていると思えた。「DIVA ME」ではじめて自分が歌詞を書く意味があると実感できたんです。J‐POPが好きでこの世の中にいい曲がたくさんあることは知っていたから、私があえて歌詞を書かなくてもいいかもと思っていたけれどそうじゃなかった。自分しか見てない景色があって、自分にしか描けないことがある。それを歌詞に落とし込んでいいんだ。それならいっそ宇宙一の作詞家になりたい、と思うようになりました。
――飾らない言葉で聴く人に時に寄り添い、時にエンパワーしてくれる歌詞はいつも高く評価されています。WEST.やでんぱ組.incなどに作詞提供をされていますし、その才能を、いきものがかりの水野良樹さんやBase Ball Bearの小出祐介さんも絶賛。歌詞を書くときに大事にされていることはありますか?
ゆっきゅん:日常的なことを落とし込んで描く手法はハロプロを手がけてきた、つんく♂さんと大森靖子さんの影響が大きいのではと思います。でも、それも一片でしかなく、これまで聴いてきたJ‐POPや見てきたもののすべてが私のリファレンスで。ただ、どのエッセンスがどの組み合わせで出てしまうのかというキュレーションが少し独特だから、みなさんに面白いと思っていただけるのかな、と自己分析しています。あとは、友達が大切ですね。おしゃべりが好きで、そこで得たことは歌詞になりやすいです。先日もラブサマ(ラブリーサマー)ちゃんと話をして、いい歌詞とは個人的で、普遍的で、嘘がなくて、誰にでもわかる言葉で新しいことを歌っているものだと、質問されてすぐに考えを言えた。歌詞らしい歌詞じゃなくていい。人生に対し、自分の言葉で素直にいたい。Xにポストするように、普段しゃべっていることに引き寄せながら、さまざまなかけがえのない人生を描いていきたいです。
――活動10周年を記念してリリースされたセカンドアルバム『生まれ変わらないあなたを』はまさにそんな人生のオムニバス映画のような一枚です。全12曲の中にさまざまな場面があり、聴く人が私のことだと共感できたり、励まされたり。心の支えとなるポップ・アルバムだなと思いました。
ゆっきゅん:ありがとうございます。椎名林檎の『勝訴ストリップ』、浜崎あゆみの『LOVEppears』…歌姫のセカンドアルバムはたいてい名盤です。それに倣い、私もこのセカンドは、絶対にいいアルバムにしたいと思いました。ひとつ柱になったのは、ファンのみなさんの「『DIVA ME』を出勤時に聴いています」という言葉。人生は出勤のみにあらず…と思いまして。自分の心を押し上げ鼓舞してくれるダンスミュージックはもうあるなら、次は休憩時間とか退勤のときにも聴いてもらえるものがあってもいいのかな、と。そこでいろんな人のいろんな気持ちをストーリーテリングするようなアルバムを想像しました。サウンドも打ち込みだけじゃなく生音も取り入れて、聴く方も、歌う私にとっても自由度の高い一枚にしたいと思いました。
退勤するときにも聴ける自由度の高いアルバム。
――退職したばかりの心許ない自由を謳歌する「ログアウト・ボーナス」や友達の結婚をうれしくも寂しく感じる「シャトルバス」など、聴く人の人生に入り込んでくる歌詞がぐっと響きます。
ゆっきゅん:アルバムの中で3回も“友達の結婚”が歌われてるんですよ。大人の友情をまっすぐ描きたいなと思いました。でも今回のアルバムでは自分の話だけじゃないものも描きたくて、失恋ソングやルームシェア解消ソングも書きましたし、1曲ごとに方向性が違います。どれか1曲でも1フレーズでもこれは自分のためのものだと思ってもらえたら、それが正解です。
――君島大空さんとデュエットされた「プライベート・スーパースター」もバンドサウンドで突き走る壮大な友情ソング。二人の旅行を切り取った飾らないMVも話題ですね。
ゆっきゅん:今回は歌詞の着想だけでなく、実作業の面でも同世代の友達の力をたくさん借りています。作曲だけじゃなくあらゆる場面で協力してくれた君島くんや、えんぷていの奥中康一郎くん。友達と泣いて笑って作業できたこともとてもいい経験でした。大手レーベルに所属しているわけでもなく、メールを書いてオファーするところからすべて自分ひとりでやっているので。私の自己実現にこんなに多くの方が付き合ってくれるなんて、みんな本当に優しいです。
――それはやっぱりゆっきゅんがひとり頑張っているからではないですか。どこにもよらずかけがえのない孤独をキラキラと歌う姿はとても現代のDIVA的です。
ゆっきゅん:孤独とは向き合う日々ですね。「ログアウト・ボーナス」の歌詞に“生まれ変わらないあなたを 私が見てる”とあるのですが、それは見ているくらいならできるかな、と思ったんです。みんなにひとりステージに立つ私を見ていてほしいと思うし、私もみんなの抱える孤独を見ていて、言葉に、歌にしていきたい。ひとり悲しいときもあるけれど、でも音楽はいつも私を救ってきてくれました。だから自分がやる音楽もそういうものでありたいです。
発売中の10周年記念セカンドアルバム『生まれ変わらないあなたを』は4か月連続先行配信された「ログアウト・ボーナス」「シャトルバス」「だってシンデレラ」「プライベート・スーパースター」を含む全12曲収録。ジャケット撮影は岡﨑果歩によるもの。アルバムを引っ提げて東名阪を巡るバンドセットツアーも開催される。
ゆっきゅん 1995年5月26日生まれ、岡山県出身。青山学院大学大学院文学研究科比較芸術専攻修了。2021年から「DIVA Project」を始動。これまでにアルバム『DIVA YOU』などをリリース。柚木麻子、竹中夏海とのTBS Podcast『Y2K新書』は現在シーズン2を配信中。小誌のほか『SPUR』『TV Bros』『新潮』などで連載を持つ。
※『anan』2024年9月18日号より。写真・Nae.Jay インタビュー、文・梅原加奈
(by anan編集部)