この10年で感染拡大中! 20~30代がかかりやすい“性感染症”を専門医が解説

2024.8.13
無症状の病気も多く、気づかないことが一番問題。セックスする人なら誰でもかかる可能性のある病気。シリアスになりすぎず、検査&早期の治療を。

この10年で感染拡大中。無症状でも人にうつります。

性感染症 健康

「性感染症は、普通にセックスをしているだけで誰でも感染する可能性がある病気。身近な病気であることを、まず知ってほしいです」(感染症専門医・三鴨廣繁先生)

この10年、感染者数が増加し続けており、社会的にも大きな問題に。特に梅毒が増えている、というニュースを目にしたことがある人も多いはず。

「性器に異変が起こる病気なので、恥ずかしい気持ちからなかなか病院に足が向かず、そのうちに症状が消え治癒したと思い込んでしまったり、また最近は症状が出にくい病気も増えていて、そもそも感染に気がつかない人もいる。無症状でも他人を感染させる可能性があるので、そういう人が誰かとセックスをし、その相手を感染させ…と、拡大しているのが現状。ただ、最初に述べたように、もはや本当に誰でもかかる可能性があり、決して恥ずかしい病気ではありません。風邪かなと思ったときに病院に行くのと同じように、違和感があったら検査をし、もし感染していたら治療をしましょう」(三鴨先生)

性感染症って、どんな病気?

性感染症とは、性行為もしくは性行為類似行動で感染する病気のこと。粘膜と粘膜の接触によって、感染する病気ともいえます。よく、“挿入のときにコンドームを使ったから、大丈夫!”と言う人がいますが、挿入だけではなく、性器同士の接触やオーラルセックス、キスでうつる病気もある。三鴨先生によると、粘膜面の損傷が起きやすい肛門性交は、腟での性交よりも感染リスクが高いとのこと。代表的な病気は下記の8つで、なかでも梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、そしてマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症の4つの感染が拡大中。

「マイコプラズマ・ジェニタリウムは細菌の培養が難しく、2022年の6月より遺伝子検査ができるようになった感染症で、なかなか顕在化しませんでした。おそらくこれから増えてくると思います」(三鴨先生)

感染する可能性がある行為

  • 性器同士の接触
  • 性器の挿入
  • オーラルセックス
  • キス

20~30代がかかりやすい性感染症

梅毒

【潜伏期間】
2~3週間後

【解説】
15世紀に世界的に広まり、日本でも江戸時代に大流行した性感染症。

【症状】
詳しくは下に。

【診察・検査】
1期梅毒の場合、性器にできる硬いしこりや潰瘍で、2期梅毒の場合は全身の赤い発疹「バラ疹」などで視診で診断。検査は血液検査。

【治療法】
症状に合わせて2~12週間程度飲み薬を服用。完治までは定期的な検査が必要。

【口からうつる?】
うつる(オーラルセックス)

淋菌感染症

【潜伏期間】
2~7日間

【解説】
淋菌による細菌感染症で、1回のセックスで感染する確率は30~50%と非常に高く、喉に感染することも(咽頭淋菌感染症)。女性は自覚症状があまりないので気がつきにくい。

【症状】
性交後腟からの出血、おりものの増加、濃い黄緑色のおりもの、外陰部のかゆみ、腫れ、膀胱炎的症状。

【診察・検査】
おりもの検査、尿検査(クラミジアと同時に検査可能)

【治療法】
症状に合わせ、1~7週間抗菌剤を注射する。約1週間後の再検査で陰性が確認できれば治療完了。

【口からうつる?】
うつる(オーラルセックス)

性器クラミジア感染症

【潜伏期間】
1~3週間

【解説】
日本で最も感染者が多い性感染症。10~20代に多く、近年女性の感染者が急増。性器だけでなく喉に感染する場合も(咽頭クラミジア)。男女ともに半数以上が無症状といわれているが、放置すると不妊の原因や、母子感染を引き起こすことも。

【症状】
性交後腟からの出血、透明なおりものの増加、生理痛のような下腹部の痛み。

【診察・検査】
おりもの検査、尿検査(淋菌と同時に検査可能)

【治療法】
抗菌剤を1~7日間服用。約2週間後の再検査で陰性が確認できれば治療完了。

【口からうつる?】
うつる(オーラルセックス)

マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症

【潜伏期間】
1~5週間

【解説】
クラミジアや淋菌に次いで、子宮頸管炎や尿道炎、喉の炎症などを引き起こす細菌。そのままにしておくと、卵管炎、腹膜炎、子宮外妊娠、不妊症の原因になることも。また妊娠中に感染がわかると、薬剤耐性のため使用できる薬が限られ、治りにくい場合もある。

【症状】
女性の場合、ほとんどが無症状で気がつかないことが多い。おりものの増加、外陰部のかゆみや痛み、排尿時の軽い痛みなど。

【診察・検査】
おりもの検査、尿検査(尿道炎の場合)

【治療法】
抗菌剤を7~14日間服用。抗菌薬服用後の再検査で陰性が確認できれば完治。

【口からうつる?】
うつる(オーラルセックス)

まだある性感染症

HIV/エイズ

【潜伏期間】
数年~約10年

【解説・症状】
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)が、免疫細胞であるTリンパ球やマクロファージなどに感染し起こる感染症。細胞の中でHIVが増殖し、免疫力が低下。普段感染しない病原体にも感染しやすくなり、さまざまな病気を発症。この病気の状態をエイズという。感染初期に発熱や咽頭炎、頭痛など、インフルエンザ同様の症状が起こり、その後無症状期に入り、その後エイズを発症。

【診察・検査】
血液検査で診断。感染初期は抗体ができていないので、思い当たるセックスから8週間以上経過してから検査を。

【治療法】
1日1回1錠、抗HIV薬を服用する。飲み続ければエイズの発症を抑えられる。

【口からうつる?】
うつる(オーラルセックス)

腟トリコモナス症

【潜伏期間】
1~3週間

【解説・症状】
トリコモナス原虫(目に見えないサイズの微生物)が外性器や内性器に感染することで起こる感染症。感染力が強く、風呂場の椅子に座るなど性行為以外での感染もある。自覚症状がないことが多い。泡状の黄緑色の生臭いおりものが大量に出る。性器にかゆみや痛みが出たり、性交痛や排尿痛も。

【診察・検査】
症状が出たら視診で診断。

【治療法】
抗菌剤を7~10日間服用(薬によっては1回の場合も)。約4週間後の再検査で陰性が確認できれば完治。腟の中に薬を入れることも。次の月経終了時に再検査が望ましい。

【口からうつる?】
うつらない

性器ヘルペスウイルス感染症

【潜伏期間】
3~7日

【解説・症状】
ヘルペスウイルスによる感染症。感染力が高く、一度感染すると体内にウイルスが棲み着くので、免疫力が落ちたり過度なストレスを感じると再発しやすくなるのが特徴。感染から数年、数十年を経て症状が出ることも。性器に小さな水ぶくれやただれができ、かゆみが出る場合も。発熱や、排尿や歩行が困難になるほどの激痛が伴うことも。

【診察・検査】
症状が出たら視診で診断。血液検査も可能だが、あまり用いられない。

【治療法】
症状に合わせ、5~10日間抗ウイルス剤を服用。重度の場合は点滴治療も。早期治療をすれば再発しにくくなる。

【口からうつる?】
うつる(オーラルセックス・キス)

尖圭コンジローマ

【潜伏期間】
数週間~3か月

【解説・症状】
良性のHPV(ヒトパピローマウイルス)によって感染。性器周辺や腟の中などにイボができる。性器のかゆみや痛みも。除去しても再発する可能性が高い。

【診察・検査】
症状が出たら視診で診断。

【治療法】
主に塗り薬を使用。場合によってレーザーなどでイボを除去する手術をすることも。

【口からうつる?】
うつる(オーラルセックス)

症状について

症状が出ないタイプが増加中。気がつかないうちに感染したり、うつしたり…。

この10年増加し続けてきた梅毒の感染者は、ようやく横ばいになってきたそう。

「梅毒は、最初に発症したあと症状が消える期間があり、そのときに“病気じゃなかった”と安堵し、診察を受けない、となる人も多い。またHIVも、感染直後に発熱などはありますが、その後、年単位で無症状期間が続きます。いずれも実際には菌は体の中に存在しており、セックスをした相手に感染させる可能性はあるわけです。また、かつてに比べて公衆衛生の意識が高まったこともあり、大昔に比べると感染者は減少。そのため医師が診察する機会が減り、例えば梅毒の“バラ疹”と呼ばれる発疹を、ただの蕁麻疹だと見間違えられ、なかなか性感染症の治療にたどり着けないことも。拡大の背景には、そんな事情もあると思います」

とはいえ、体にサインが出ることも。こんなことがあったら病院へ!

  • 性器からの出血
  • 外陰部にできものがある
  • おりものの量やニオイ、色が変わった
  • 外陰部がかゆい、痛い

無症状ってどういうこと? 梅毒の場合

1、セックスして感染

2、感染から2~3週間後
性器に硬いしこりや、口内炎のような潰瘍ができる。でも痛くない。

3、3~4週間後
症状が消える。

4、1か月後
全身に赤い発疹「バラ疹・乾癬・丘疹」などが出る。

5、2~3週間後
症状が消える。

6、梅毒の菌は体内に潜んでいる…

【その後に心配されること】

  • 神経梅毒
  • 子どもが先天性梅毒に

感染予防

セックスする以上、可能性はゼロではない! コンドームでしっかり体をガード。
日本で性感染症予防といえば、コンドーム。挿入もオーラルもコンドームを用いることが大事。

「互いに検査をしてクリーンなことが証明されている関係性であれば別ですが、妊娠を目的とするとき以外、基本的にはセックスをするときはコンドームを使う、という認識を持ってください」

性感染症はなかなかコントロールが難しいので、100%の予防はなかなか難しい。でもコンドームを使うことで予防率は確実にアップします。

検査

とにかくすべては検査から! パートナーが変わったときはもちろん、思うところがあったら受けましょう。
「予防も必須ですが、これはうつってしまう病気です。ですからとにかく検査が大事。パートナーが変わったとき二人一緒に受けるのをおすすめします。また、例えばワンナイトのようなセックスをしたときにも、念のために検査をするといいでしょう。性感染症にはそれぞれ潜伏期間があるので、思い当たるセックスから1か月以上経過してから受けるといいと思います。女性の場合、検査は婦人科でできますし、最近は郵送でできる検査も増えています」

治療

今はほとんどの病気が治せます。おや? と思ったら婦人科へGO。
上記のような症状が出たり、なんだかおかしいと思ったら、とにかく一度、婦人科に行ってみて。

「今はほとんどの病気が治療できますし、HIVに関しても薬で発症を抑えることができます。ただ早めに治療をするほうが負担は軽いし、放置するとどの病気も将来的に不妊のリスクが高まることも。早期発見、早期治療が一番です。またパートナーがいる場合は双方感染していることが多いので、二人一緒に治療をすることが絶対です」

みかも・ひろしげ 愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学主任教授、愛知医科大学病院感染症科・感染制御部部長。感染症の専門家として診断と治療を目的とする“感染症学”と、予防を目的とする“感染制御学”のプロ。

※『anan』2024年8月14日‐21日合併号より。イラスト・oyumi 取材、文・小寺慶子

(by anan編集部)