シンガーソングライターの多野小夜子がSNS上から姿を消した。彼女の曲を聴いて、その存在を、神様のように思っていたファンの高校生や、小夜子の才能に触れ、上京を諦めた同級生、〈小夜子のことは、ちゃんと好きだったと思う〉と語る恋人など、小夜子と直接的・間接的に関わった男女6人が、その喪失をきっかけに自らの生き方と向き合っていく。川野倫さんの『取るに足らない僕らの正義』は、本を閉じた後もその余韻に引きずられる。

消えたシンガーソングライターと男女6人が織りなす青春群像劇。

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「私も昔、似た経験をしたことがあるんです。半年くらいでしたが、周りの誰とも連絡を取れなくなった友人がいて。その人がとても社交的で、結構どこかに連れ出してくれたり、人との縁をつないでくれたりしていたので、ふと気づくと私の生活や、いるコミュニティがちょっと変わってしまったんですよね。変わった部分がある一方で、周囲のみんなが学校に行ったり仕事に行ったりのルーティンは、淡々と繰り返される。自分に置き換えたときに、『もし自分がいなくなっても、周りの人の人生って当たり前に続いていくんだな』と、ちょっと寂しい気持ちになって。それを群像の形で描いてみたいと思ったんですよね」

小夜子をめぐる男女は、才能に恵まれた特別な存在として彼女に憧れる半面、コンプレックスに身悶える。だが、小夜子自身もまた低い自己評価に苦しんでいるさまを、川野さんは静かに描き出す。

「読んだらわかると思うんですけど、私自身が劣等感強くて、結構いろんな人に思うんですよね。『ああ、この人には勝てないな』とか(笑)」

登場人物がところどころでつながる全7話の連作形式。肝心の小夜子が登場するのは4話目からだ。

「朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』が好きなので、最後まで出さないのもありかなあとか考えたりもしたんですけれど」

各編の冒頭には、物語とリンクした小夜子の曲の歌詞が置かれ、小夜子が実在するかのように錯覚してしまう。詞は、川野さんの自作だ。

「文章を書くのも好きなんです。ウェブで連載を始めたとき、歌詞にメロディをつけて送ってくれたファンもいて、うれしかったです」

本書最大の魅力は、言葉の力。〈私は大切なもののためならいくらでも傷つくと。〉〈恥ずかしくて 死にたくなれよ。生きてるなら。〉をはじめ、ちりばめられた名言に胸を射貫かれる人は多いはず。

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川野 倫『取るに足らない僕らの正義』 舞台は東京・下北沢と宮崎。小夜子の高校時代と現代。2つの時空をつなぎ、小夜子という存在がバタフライ・エフェクトとなった世界を見つめる。トゥーヴァージンズ 968円 ©川野倫/トゥーヴァージンズ

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かわの・りん マンガ家。宮崎県出身。「ごめん」という別名義でも活動。他の著書に『たとえばいつかそれが愛じゃなくなったとして』(KADOKAWA)が。

※『anan』2023年3月15日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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