「発端はプロダクトデザイナーの深澤直人さんからの提案でした。深澤さんといえば〈スーパーノーマル〉など普通さの魅力を提唱し、廃れないデザインを考え続けてきた方。廃れないものの本質とは一体何かを考える中で、今回こうしたテーマが浮上してきたのだと思います」
土田さんは本展の準備に際して、独創性やオリジナリティをキーワードに、今まで自分が見てきたデザインを改めて調べ、膨大なリストを作成。そこから企画協力の田代かおるさんと共に300以上の候補を出し、深澤さんも交え選定会議を重ね、今回紹介する約150点まで削り落とす作業を繰り返した。
「何をもって独創性やオリジナリティというか? それを明言するのは難しいですが、今回はフォルム、アイデアの斬新さ、従来はなかった機能を生み出しているなど、いくつかの方向から考えていきました。印象的なデザインから環境問題への取り組みまで、時代によって基準は変わるけれど、どの作品にも明確な理由がある。本展には、時代を超えて色褪せない魅力をたたえた作品が並んでいると思います」
例えばポスト・イット。見た目はシンプルなメモだが、貼ってはがせる画期的な機能は作り手の予想を超えて重宝されてきた。今では単なる文房具にとどまらず、新しいコミュニケーションツールとして、色や形も増え、ますます進化している。
会場には、そうしたプロダクトを、実際に体感できるような工夫が凝らされている。会場は導入部分を過ぎるとまず、作品を設えた実物大の部屋が登場。実際にプロダクトのある日常空間を体感することができる。続いて、写真家ゴッティンガム氏が撮影した商品写真がレイアウトされたグラフィックとともに膨大な数のプロダクトが並ぶ展示空間が広がる。実際とはひと味違った商品の表情が楽しめる趣向だ。作品は大半が時系列で並び、誕生の時代背景を同時に知ることも。さらに終盤には椅子やドアノブなど触って体感できるコーナーも登場する。
「現代って、ワンクリックで情報がたくさん集まる複雑な時代。けれど人が実際に使うものの意義はあまり変わっていなくて、そのシンプルな関係性の大切さに改めて光を当てたい。本展をきっかけに、オリジナルの意味や視点がもっと広がるといいな、と。そして先々、これが新しいオリジナルを生むことに繋がれば、もっと理想的だと思いますね」
オリジナリティの本質を問うプロダクトの数々。
接着剤の研究者であるスペンサー・シルバーが開発した弱い接着剤は、はがすことができる性質を持ったメモに搭載され、思いも寄らぬヒット作へと発展する。
スペンサー・シルバー、アート・フライ「ポスト・イット(R)ノート」(1980、3M) PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #624)”, 2022 © GOTTINGHAM IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM
FSC認証のリサイクル紙1枚で作ったゴミ箱。折り曲げているため強度が高く、遊び心あるカラフルさも魅力。紙ならではのデザイン性で収納箱としても人気。
クララ・フォン・ツヴァイベルク「ペーパー ペーパー ビン」(2020、ヘイ) PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #585)”, 2022 © GOTTINGHAM IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM
ニッチなスペースに特化し多くのデザインを生んだカスティリオーニの隠れた名作。部屋の空きスペースについて熟考した結果、このサイドテーブルが誕生した。
アキッレ・カスティリオーニ、ジャンカルロ・ポッツィ「トリオ」(1991/2017、カラクター) PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #325)”,2022 © GOTTINGHAM IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM
視認性が高く、めくってもバランスが崩れることがない美しいグラフィックのカレンダーは、誕生から半世紀以上が経っても世界中に多大な影響を与えている。
エンツォ・マーリ「フォルモサ」(1963、ダネーゼ・ミラノ) PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #489)”, 2022 © GOTTINGHAM IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM
仏語で“海藻”を意味するこちらは、先端の穴をピンで連結させることで、光や風を通すグリーンカーテンのようなパーティションを自由に作ることが可能に。
ロナン&エルワン・ブルレック「アルギュ」(2004、ヴィトラ) PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #664)”, 2022 © GOTTINGHAM IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM
つちだ・たかひろ デザインジャーナリスト、ライター。1970年、北海道生まれ。コンテンポラリーデザインを主なテーマに家具、インテリア、日用品について執筆。著書に『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ』(PRINT & BUILD)がある。
「The Original」 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2 東京都港区赤坂9‐7‐6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン 3月3日(金)~6月25日(日)10時~19時(入場は~18時半) 火曜休(3/21は開館) 一般1400円ほか TEL:03・3475・2121
※『anan』2023年3月8日号より。写真・小笠原真紀 取材、文・山田貴美子
(by anan編集部)