早乙女太一「時代劇のファンタジーのような世界をいかに身近な物語としてお客さんに伝えられるかが課題」
「これまでの赤堀作品とは真逆のような舞台なだけに、赤堀さんの色がどう入り込んでくるのか興味がありましたし、僕自身としても挑戦になるだろうなというのもありました。『マクベス』には“きれいは汚い”というセリフがありますけれど、赤堀さんの作品も人間の醜さと美しい部分が描かれている。生々しさがあって、すごく繊細で静かだけれど、そこにすごく激しい狂気もあって…。演出家として、役者の芝居の表面的な部分だけでなく、その奥にある精神的なところまで見てくれる方なので、その人のもとでやれることは本当にありがたいです」
映画では鷲津武時を三船敏郎さんが演じているが、あえて意識せず「役と直(じか)に向き合いたい」と話す。
「お城勤めの立場って、今でいえば会社員と同じだと思うんですよね。自分が築いてきた立場やプライド、信念とかがあって、それぞれが守らなきゃいけないもののためにもがいていく。武時や妻の浅茅(あさじ)だけではなく、他の人物もそこが垣間見えるよう描かれていて、それぞれの細かい心の動きを赤堀さんが丁寧に紡いでくれる。台本に書かれている点と点を、線で繋ぐだけでなく、その線自体も細かな点でできている感じ。たとえば、しゃべりながら気を遣っているときもあれば、顔を繕っている瞬間もある。そういう感情を丁寧にたどっていくのが楽しいです」
ただ、今回は時代劇。
「やっぱり身近に死がある時代だけに、登場する人たちの生へのエネルギーってとんでもない。そこは頭で考えてもわかるものではないから、とにかく稽古場でみんなで本気でぶつかっていくしかないんです。だから自然と点と点からなる線もすごく太くなる。その感情的になる熱い感じは、普段の赤堀作品にはなかなかない。でも、武士がなぜ大きい声を出すのかという意味までしっかり作ってくれているんですよ。それでもやっぱり時代劇的な表現の中では、赤堀さんの描こうとする繊細さが伝わりにくいんです。しかも時代劇って、侍言葉も含めて今のお客さんにとっては距離があるファンタジーのような世界。それをいかに身近な物語としてお客さんに伝えられるか、ちゃんとそこに生きている人間として見せられるかが課題ですね」
一昨年のドラマ『カムカムエヴリバディ』や昨年の『六本木クラス』など、近年は映像でも個性的な役柄を次々と好演。作品について語る口調からも、今、芝居を楽しんでいるように感じるけれど…。
「そうかもしれないですね。最初は女形として注目されましたが、それが嫌だった僕は、別のもので頑張りたいと殺陣を追求するようになって。でもそのうち今度は“殺陣の人”と言われるようになって、それを覆したくて芝居を頑張ってきたんです。だから10代、20代の頃は自分を否定しながらやってきたような気がします。でも最近、そういうこだわりがなくなって、チャレンジできることならなんでもやりたいと思えるようになりました。今は芝居に限らず、自分が新鮮に楽しめることならなんでもやってみたいなと思っています」
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『蜘蛛巣城(くものすじょう)』 群雄割拠する戦国時代。蜘蛛巣城の城主・都築国春に仕える鷲津武時(早乙女)は、隣国との戦いを制した帰国の途で、謎の老婆から城主になるとの予言を告げられる。それを聞いた妻・浅茅(倉科)は…。2月25日(土)~3月12日(日) 横浜・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉 原脚本/黒澤明、小國英雄、橋本忍、菊島隆三 脚本/齋藤雅文 上演台本/齋藤雅文、赤堀雅秋 演出/赤堀雅秋 出演/早乙女太一、倉科カナ、長塚圭史、中島歩、佐藤直子、山本浩司、水澤紳吾、久保酎吉、赤堀雅秋、銀粉蝶ほか S席8500円 A席6500円ほか チケットかながわ TEL:0570・015・415(10:00~18:00) https://www.kaat.jp/d/kumonosujo 兵庫、大阪、山形公演あり。
さおとめ・たいち 1991年9月24日生まれ。劇団朱雀2代目座長を務めるかたわら、自身の劇団公演のほか、数々の舞台や映像作品に出演。近作にドラマ『親愛なる僕へ殺意をこめて』。出演映画『仕掛人・藤枝梅安』公開中。
※『anan』2023年3月1日号より。写真・的場 亮 スタイリスト・八尾崇文 ヘア&メイク・奥山信次(B・SUN) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)