
小説『その手は明日を紡ぐために』の作者、五十嵐大さんにインタビュー。
ライターという仕事をもっと多くの人に知ってもらいたい
聴覚障害のある親を持つ聞こえる子ども「コーダ」として育ち、社会的マイノリティに焦点を当てた執筆活動などを数多く行っている、五十嵐大さん。本書の主人公の伊賀紡(つむぐ)もコーダで、親元を離れ、東京でライターをしている。自身の来歴とも重なる部分が多い主人公だ。
「小説って、登場人物と著者とが一定以上の距離を保っていないと成立しないと思って固辞していたんですが、半自伝的小説と謳わせてほしいと担当編集さんから言われたことで、ちょっと楽になったんです。それなら自分のリアルな経験や感情が出てしまってもいいのかなと。何より、ライターという仕事をもっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちが強く、書いてみたくなりました」
物語は、紡が仕事を通して味わう違和感を読み解きつつ進む。たとえば第一話では、紡は障害児の療育を支援する女性起業家のインタビュー記事を引き受ける。現場が、ヤングケアラーだった彼女の過去を型にはめるような空気感になってしまったために、紡はもやもやを感じて…。
「“ヤングケアラー”もそうですが、言葉や概念が広く知られるといい面もある一方で、簡単にわかられてしまうことで、『理解できているつもりで、実はできていない』という齟齬が生まれることもある。こうした事象は世の中にたくさんあって、題材にしてみたかったんです」
推し活、自分の存在意義、マイノリティ、承認欲求など5つの連作の中で取り上げるモチーフや問題はどれも現代的。そんな中、紡自身も、己の大きな悩みと対峙する。
「親のそばにいて支えるべきなのか、自分の人生を優先するのがいいのか。深く悩んでいるつもりはなかったのですが、実はずっと考えていたことなのかもしれないと」
作中で、紡には、図書館司書として働く幼なじみの柏樹優平というルームメイトがいる。精神的にも助け合い、互いの夢を語り合ってきた優平との決意の違いも読みどころだ。
「僕自身も本作を書いたことで整理され、初めてわかったり、見えてきたりしたものもありました。ただ、どっちが正しいみたいなものはないと思うし、結局大事なのは、自分で問題と向き合って、自分で考え抜いて答えを出していくことだなと」
迷える人への応援歌のような物語を、ぜひ味わってほしい。
Profile
五十嵐大
いがらし・だい 1983年、宮城県生まれ。ライター、作家。エッセイ『しくじり家族』、小説『エフィラは泳ぎ出せない』、映画化されたエッセイ『ぼくが生きてる、ふたつの世界』など著書多数。
information
『その手は明日を紡ぐために』
取材の事前準備やアポイント取りの大変さなど、著者が実際に経験してきたライター仕事のリアルもわかる。お仕事小説としても秀逸。KADOKAWA 2090円
anan 2498号(2026年6月3日発売)より






























