松任谷由実「“切なポイント”は変わらない」 ブレイクするアーティストの特徴とは?

エンタメ
2022.10.03
これまでアニメ映画『魔女の宅急便』のオープニングテーマ「ルージュの伝言」(1975年)や、同タイトルのNHK連続テレビ小説の主題歌「春よ、来い」(1994年)、JR東日本のCMソング「BLIZZARD」(1984年)など数々のタイアップ曲を手がけ、日本のカルチャーにおいても社会現象を巻き起こしてきた、ユーミンこと松任谷由実さん。ここでは“ユーミンと、カルチャー”をテーマに語ってもらいます。
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――その時代を彩る音楽を、さまざまなカルチャーと融合しながら発信してこられたと思います。「これはトレンドを先読みしたな」と思う出来事というのは一番に何が思い浮かびますか。

やった本人はその時はわかってないんですよ。後になって“あの時は早かったんだな”と思うことは度々ありました。よく言われるのが、スキーに行くのを流行らせたとか、恋人同士でクリスマスを過ごすスタイルを流行らせたとかね。まるで私が戦犯のように言われたものですよ(笑)。

――すごい影響力だったと思います。

その時どきで、面白い人物に会えていたことは大きいかもしれないです。映画『ねらわれた学園』や『Wの悲劇』などで主題歌を書かせてもらった角川プロデューサーの角川春樹さんとかね。それは私の好奇心なのか、引き寄せる力があるのか。’80年に苗場スキー場でライブを始めたのをきっかけに、西武鉄道グループの堤義明さんと知り合って、40年以上、恒例ライブ「SURF&SNOW in Naeba」をさせてもらっているのもそう。そこで音楽は商業的に成功するという実績を残せたからこそ、それが後の「FUJI ROCK FESTIVAL」の開催にも繋がったんだと思います。そういう無形のレガシーを色んなところで残せてきたんじゃないかな。

――特に’80年代後半は寝る時間もないくらいの忙しさだったそうですが。

そうね、毎日3時間くらいしか寝れなかった。でもその時は既に3回目のブームだったの。荒井由実の時代に1回、そして「守ってあげたい」(1981年)の再ブレイクからずっと続いているように思われていたけど、忙しくても初めてじゃなかったから乗り越えられたのかも。’90年代にアルバムの売り上げが200万枚を超えることもあったりで、そうした数字的な重圧もあったんだけど。でも私自身はブームは必ず終わるとわかっていたから、どこか冷静なところもあって。だからクラッシュしなかったんだと思います。

今も新しいことにチャレンジしたい。

――では現代のネットカルチャーやサブスクなどの配信サービス、音楽制作の進化に関してはどう感じてらっしゃいますか。

時代の変化に即した音楽制作も若干は取り入れていると思います。もちろん新しいことを取り入れなくても良いものは作れるんだけど、新しいことにチャレンジしたいし、チャレンジしたからにはモノにしたいっていう気持ちがあるんです。自分は実際に今も音楽リスナーでもあるので、邦楽も含めて色んな音楽を聴いてますから、後輩にもたくさん影響を受けたいですね。サカナクションを初めて街で聴いた時は衝撃を受けたし。最近は今一番会いたかったVaundyくんにラジオに来てもらって話したりもしたしね。ただ、時代や手法が変わっても、結局“切なポイント”みたいなものは変わらないと思うんですよ。音楽の中にそういうものがちゃんとある人がブレイクしていると思う。

――なるほど。ご自身はデビュー前、歌に苦手意識があり作曲家志望だったそうですが。今だったら自分で歌わずにボカロPになってたかもしれないと思うと、ユーミンの歌が聴けてよかったなと思います。

いいこと言うわね(笑)。私は本当に不器用だし、怪我の功名でユニークな曲を作ってきたんですね。何でもできちゃったら、あえて苦労はなかったかもしれない。歌も乗り越えたというより、周りに乗り越えさせられた感じだったけど(笑)。それでここまで50年、やってきたんです。

――ちなみに音楽以外のエンタメで最近気になっていることは?

お笑いもよく見るんですけど、最近はZAZYが売れたことが嬉しかったですね。6~7年くらい前から私のツボで、神保町よしもと漫才劇場まで観に行ったりしてました。好奇心が強くて、自分が“いいな”と思ったものは世の中もそういう流れになるっていう感覚はあります。

過去の自分が今の自分を支えてくれる。

――ベスト盤の特典映像では、AIによるデビュー当時の荒井由実さんと今の松任谷由実さんの対談も収録されているそうで。それも新しいことへの挑戦ですね。

はい。これも、日本では初めての試みだと思いますし、世界的にもやっているアーティストは少ないと思いますが、これから増えていくんじゃないでしょうか。私自身、映像を見てとても不思議な気分でしたね。若い頃の自分を思い出すというより、あらためて考えさせられたことが多かった。だって「50年後に生きてるなんて考えられないよ」って荒井由実が言うと、「私だって思ってなかったよ」って今の私が返すんです。自分でも思ってもみなかったところに今いるんだなと、感慨深かったです。

――ラジオで「でも50年前の私に、続けていたらこんなことがあるんだよって教えたくは、ないかな。だって荒井由実には無限の選択肢があったから」とおっしゃっていたのが印象深かったです。こんなにもひとつの道で成功されている方が、選ばなかった別の人生を想うこともあるのかなと。

そうですね。それを考えたくないし、50年前に戻りたくないけど、それはそれできっと面白いかなと思うんですよね。人に名前を知られずに生きていこうとも。自分の子供を良い学校に入れて喜んでいる瞬間もあったかもしれないし、運動会でビデオを回して幸せを感じていたかもしれない。人と比べられないのと同じように、過去の自分とも比べられない。でも今になってみると、本当に過去の自分が今の自分を支えてくれるんですね。だから今の私が、この先、何年生きるかわからないけど、未来の自分を支えるんだと思う。

――それは喜びも苦しみも全部含めてってことですか。

そうです。大人になってから、高校生の頃に読んだ本や観た絵を振り返ってみたことがあったんですけど。すごく新鮮に感じたんです。その時に、過去は止まっているものじゃなくて、引き出しの中で育ってるものだったりするんだと思った。それさえ開けられれば、新しい自分を知ることもできるんです。過ごしてきた日々は、もう終わったことじゃない。だから私の音楽をこれまでに聴いてくださった方たちも、また新しい引き出しを開けるような気持ちで、ベスト盤を聴いてくれたら嬉しいなと思います。

まつとうや・ゆみ 東京都出身。1972年、荒井由実としてシングル『返事はいらない』でデビュー。以来39枚のオリジナルアルバムをリリース。今年でデビュー50周年を迎えた。
ジャケット¥847,000 スカート¥396,000※参考価格 イヤリング¥121,000※参考価格 左手につけたブレスレット、手首側から¥225,500 ¥209,000※共に参考価格 ¥264,000 右手につけたブレスレット、手首側から¥247,500 ¥247,500 ¥176,000※以上参考価格 サンダル¥187,000(すべてサンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ/サンローラン クライアントサービス TEL:0120・95・2746) インナーはスタイリスト私物

ファンと共にデビュー50周年を祝うベストアルバムが10月4日に発売!
『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』EMI Records/UNIVERSAL MUSIC
時にさまざまな伝説を残し、さまざまな社会現象を巻き起こしながら、50年もステージに立って歌い、創作活動を続ける我らがユーミン。今作は3枚組で「中央フリーウェイ」「ルージュの伝言」「恋人がサンタクロース」「春よ、来い」など収録。51曲全てにおいて音源のアップデートが行われ、繰り返し聴いていた曲たちが一聴してフレッシュに響いて何とも嬉しい気持ちに。こうしてまたユーミンの名曲たちは時代を超えて愛され続け、これからの未来に寄り添ってくれるだろう。

※『anan』2022年10月5日号より。写真・伊藤彰紀(aosora) スタイリスト・木津明子 ヘア&メイク・遠山直樹(Iris) インタビュー、文・上野三樹

(by anan編集部)

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