初音ミクがブームの火付け役に!? 識者が語る“絵師”の変遷と未来

エンタメ
2022.06.18
今、多くの分野で活躍する絵師の存在。世界で注目を浴びる理由は? 絵師の未来は? 注目絵師100人がイラストを展示する「絵師100人展」のプロデューサー・石坂太一さんに伺いました。

初音ミクの登場やSNSの普及が転機に。

そもそも、漫画やアニメ、ゲーム、ライトノベルの表紙や挿絵などを手掛けるイラストレーターや漫画家たちを“絵師”と呼ぶようになった起源は…?

「もともと絵師とは浮世絵の下絵を描く専門的な職人に対して使われていた呼称ですが、25年ぐらい前からファンの間で自然発生的に使われ始めました。当時は美少女ゲーム全盛期で、そのゲームなどでイラストを描く人たちのことを敬意を込めて“絵師”と、2ちゃんねるなどで呼んだのが始まりだと思います」

絵師がフィーチャーされる大きなきっかけとして「初音ミク」の存在を挙げる。

「美少女ゲームは一部のファンの人たちが楽しむ狭い世界だったと思いますが、初音ミクが登場したことで、イラストを描く文化が広く周知されていった。さらに、キズナアイなどのVチューバーの登場も認知度を高めた要因だと思います」

現在の活躍ぶりや歴史を語る上で外せない絵師は存在するのだろうか。

「『絵師100人展』にも出てもらっていますが、初音ミクのキャラクターデザインを手がけたKEIさんは代表的な存在だと思います。ただ、誰か一人のクリエイターがこの文化を牽引しているのではなく、一人一人の力が合わさって、この盛り上がりを作っていった気がします。例えば、初音ミクを見て自分も描いてみたいという人たちが真似して描き、それをpixivなどに上げる。SNSの普及により、気軽に発信することができるようになったのも、今のムーブメントを作っている大きな要因ですね」

優れた作品に国境はない。まさにボーダレス!

毎年、GW時期に開催される「絵師100人展」の立ち上げから参加し、絵師の活動を追い続けてきた石坂さんが、いま注目している絵師は誰なのだろうか。

「まずは、藤ちょこさん。彼女の絵を見たら、世代・性別問わず、“美しい”“楽しい”と感じる。平面の絵だと思わせない奥行きのある世界を描き、卓越した表現力を感じます。2人目は高野音彦さん。長年活躍されている方で、神秘的かつ不思議な情景を描かれるのが特長。物語の一瞬を写真で切り取ったような場面を描かれる荻poteさんも他の作家さんにはない独自性を有していて注目です」

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藤ちょこ「狐の嫁入り」初出:「絵師100人展 12」(2022年4月) ©産経新聞社/藤ちょこ

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高野音彦「まよいみち」初出:「絵師100人展 12」(2022年4月) ©産経新聞社/高野音彦

「絵師100人展」には韓国や中国など、海外のファンも来場。「人々を魅了する作品に国境はない」と石坂さんは話す。

「絵を見て感じる“かわいい”“キレイ”“かっこいい”といった感情は世界共通。だからこそ、海外の人にも受け入れられ、その人たちが『もっとこうしよう』と工夫して、逆に日本に影響を及ぼしてくる。例えば昔の日本のキャラクターは、頭が大きくて体が小さいややアンバランスな構図のものが多かったと思いますが、海外のイラストレーターさんはより人間に近い体の構造で描く傾向が強い。それを日本の絵師さんたちも取り入れ、さらに進化してきたのだと思います。今後もこういった交流は広がっていくはず」

絵師の活躍が認められるようになった背景には、こうした文化への偏見がなくなってきたことも作用しているよう。

「『絵師100人展』では中学生以下の入場者も年々増加。訪れた人の中には『○○先生のファンで自分も描き始めました』みたいな若者も多い。いわゆるデジタルネイティブ世代の子供たちは生まれた時からこうした絵に触れているので、偏見もなければ、カルチャーへの優劣もない。今後はこうした世代が発信していく時代になるので、ますます盛り上がっていくと思っています」

一大ブームを巻き起こしたブームの火付け役。

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Art by KEI ©Crypton Future Media, INC.
https://piapro.net/

歌詞とメロディを入力して、誰でも歌わせることができる「ソフトウェア」初音ミク。大勢のクリエイターが「初音ミク」で音楽を作り、インターネット上に投稿したことで一躍ムーブメントに。

お話を伺った方・石坂太一さん 絵師100人がテーマにそった作品を出展する産経新聞社主催の「絵師100人展」。今年で12回を数えた同展の第1回からプロデュースを務める。

歴史を語る上でハズせない! VOCALOIDと絵師の関係性。

ボカロ楽曲を世に送り出す上で欠かせないのが、曲の魅力を視覚的に伝えるMVイラスト。「音声合成ソフトとイラストは親和性が高く、2007年の初音ミク登場時から描かれている。ボカロと絵師は切っても切れない間柄ですね」と話すのは、ニコニコ超会議の「超絵師展 Powered by The VOCALOID Collection」を手掛けるドワンゴの脇本拓弥さん。両者の関係性や絵師の傾向の変遷なども伺ってみた。

「大きな変化といえば、初音ミクのようなキャラクターそのものを描くのではなく、曲の歌詞や世界観を表現する絵に変わったことですね。ボカロP・柊キライさんの『ボッカデラベリタ』という曲のイラストは人気絵師のWOOMAさんが担当されていて、それ以降、似たようなエッジの利いた絵が増えた気がします。また、Adoさんの『うっせぇわ』のヒット以降は、毒吐き系のロックナンバーには狂気的な女性が真ん中にいるような尖ったイラストが定番に。こちらもWOOMAさん作で、絵師界においてWOOMAさんの影響は大きいと個人的に感じています」

お話を伺った方・脇本拓弥さん ドワンゴ主催のニコニコ超会議内で行われたボカロ楽曲のイラスト/MV作品展「超絵師展 Powered by The VOCALOID Collection」を担当。

※『anan』2022年6月22日号より。取材、文・関川直子

(by anan編集部)

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