松居大悟、池松壮亮主演映画は「最後に流れるクリープハイプの曲が素敵に聴こえたら…」
松居大悟:尾崎くんが作った曲「ナイトオンザプラネット」を聴きながら、池松くんも一緒に3人で映画を作った時は楽しかったなぁっていうのを思い出して、またこの3人で何かやりたいなって、止まっていた時計を動かしたい気持ちになったんです。
池松壮亮:出会った頃の松居さんは、演劇からキャリアが始まったという自負があって、映画コンプレックスみたいなものをずっと抱えていました。でも映画が好きで、映画を自分なりに解釈して、外側から来た自分はそれをどう自分のものにすることができるのか、ということを信条にしていたというか。それが今回4年ぶりでしたが、今やすっかり中堅の映画監督のような風情になってました。
松居:それは頼もしくなったってことでいいんだよね?(笑)
池松:そう思います。僕はずっと、作家としても人としても、松居さんのすごく素直なところに惹かれていると思っています。
松居:僕が池松くんを好きなのは、役者としてどういう芝居をするのか、わからないところがあるんですよ。想定していた角度とは違った背景を持った人物として台詞を言ったりとか。とくにこの映画は、大きな事件があるわけでもなく、何気ない日常だけを描いた、観ている人に想像してもらう余地が多い作品なので、池松くんみたいな俳優が必要でした。
池松:今回は、松居さんのフィルモグラフィーの中でも異色の代表作を作るために、その一つのピースとして自分は参加するんだっていう意識が強くありました。そのためには、決して照れすぎずに、恥ずかしがりすぎずに、“人を想うこと”を描くことが必要だったと思います。
松居:当初は最後にタクシーが空を飛んでいくシーンを考えていたんですけど、まわりから「今回はそういうの入れなくていい」ってたしなめられました。ラブストーリーはどうしても恥ずかしくて、非現実的な要素を入れたくなっちゃうんです。
池松:ずっと青春を追い続けてきたような人なので、今回だけは青春と決別してほしいと思っていました。そのことがこの映画には何より必要だったと思います。
松居:いやいや、成長して青春とは決別したから。でもどうだろう…。
池松:僕自身も、いわゆる恋愛ものと呼ばれる作品にほとんど出てきていないんです。だけど、この作品には可能性を感じました。コロナ禍で、差はあれど誰もが自分の人生を振り返ったと思うんです。あの頃やこれまで、当たり前にあった風景や場所や人について、単純に「昔はよかった」と振り返るのではなく、あくまで「今はもう大丈夫」「ちょっと思い出しただけ」という、小さくて繊細な感情を描く物語になってほしいと思いました。
松居:何かを強く伝えたいというよりも、最後に流れるクリープハイプの曲が素敵に聴こえたらいいなと考えていたので、登場人物というよりも、二人が過ごした年月を主役にしたいと思っていたんですよね。
池松:この映画の話が来る前に、海外で予定していた3か月の撮影がキャンセルになって。その頃は国内よりも海外での活動に自分の思考が向いていたんですが、コロナ禍で国内の映画業界ではミニシアターの存続をめぐる議論があり、改めて自分は何ができるのか考えていました。この映画は、世界中でミニシアターのブームを起こしたジム・ジャームッシュ監督の遺伝子を色濃く受け継いでいる作品ですから、今こそこの作品に取り組むべきだなとも思わせてもらえました。
『ちょっと思い出しただけ』 照生(池松)の誕生日である2021年7月26日から、1年ずつ同じ日を遡り、別れてしまった男と女の“終わりから始まり”の6年間を描く。監督・脚本/松居大悟 出演/池松壮亮、伊藤沙莉ほか 2月11日より公開。©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
いけまつ・そうすけ(写真右) 1990年、福岡県生まれ。『ラスト サムライ』で映画初出演。近年の主演作は、映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『宮本から君へ』など。来年は庵野秀明監督作『シン・仮面ライダー』主演を控える。
まつい・だいご(写真左) 1985年、福岡県生まれ。劇団ゴジゲン主宰。2012年に『アフロ田中』で映画監督デビュー。主な監督作は、テレビ東京『バイプレイヤーズ』シリーズ、映画『君が君で君だ』『くれなずめ』など。
※『anan』2022年2月16日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・FUJIU JIMI(池松さん) インタビュー、文・おぐらりゅうじ
(by anan編集部)