――主演ドラマ『シジュウカラ』で演じる忍は、若くして結婚し、40歳を迎えて少し疲れた雰囲気を醸し出す売れない漫画家の女性。山口さんのように華やかな雰囲気の女性とは相反する印象がありますが、役にはどうアプローチを?
山口紗弥加さん(以下、山口):いえいえ。普段はメイクもしないので地味ですし、スーパーで買い物をして料理、掃除に洗濯に…と日々の雑務に追われながら働く普通の40代です(笑)。なので生活感のようなものをとくに意識することはありませんでした。ただ、私は体を動かすことが大好きでよくジムに行くのですが、忍には不要だと思って、撮影中はトレーニングをお休みしています。
――忍は自分の人生を諦めているようにも見える女性ですが、共感できる部分はありましたか?
山口:忍は売れない漫画家だったのに40歳という予期せぬタイミングで突然セカンドチャンスが訪れた人。私自身も実際に30代後半で同じような奇跡体験をしているので、リンクするところがありました。それから忍は、漫画家としての現実と、母、そして妻であることの責任や呪縛によって、“私”としての熱意や願望を抑え込み続けた結果…気づいたら思考停止のような状態に陥ってしまっていたんだと思います。そういうことを想像しながら台本を読んでいたせいか、私の頭まで働かなくなってしまって焦りました(笑)。こんな経験は初めてです。でも18歳年下の千秋(板垣李光人)と恋に落ちることで自分を取り戻していく忍と呼吸を合わせるように、私の心も動きだして、ああしたい、こうしたいという欲が出てきたり、本当に不思議な体験をしています。
――28年もこのお仕事を続けてこられて、それでもまだ初めての体験があるってすごいことですよね。
山口:まだまだ未熟者の証です(笑)。大九(明子)監督の演出も心情を切り取るというより、鋭利な刃物でえぐり取られるような感覚なんです。「演技(嘘)はいらない、その瞬間のリアルを見せろ」と迫られているようで、毎日、必死です(笑)。大九監督はひらめきの天才でカット毎に新しい演出が足されることも刺激的。今日は何が起こるんだろうって未知との出合いに期待しちゃう自分がいます。
――ちなみに山口さんは、恋愛に年齢は関係あると思いますか?
山口:全然関係ありません、と言いたいところですが…本当に18歳下の方だったら私のほうが確実に老いるのが早いわけだし、将来的に迷惑をかけることになるんじゃないかとか、いろいろ心配はしますよね。でも! もしそういう出会いがあったとしたら、社会通念は一切無視して、“好き”という気持ちを大事にしたいなとは思います。だっておかしくないですか? 男性が18歳上だったら全然アリって言われるのに(笑)。やっぱりまだまだ平等ではないし自由でもない。この作品が、何かを訴える力になれば嬉しいなと。18歳差の恋愛をファンタジーとしてではなく、リアリティある物語として視聴者の方にお届けするのが私の任務なんじゃないかなと思っています。
――原作には忍が「私は結婚に逃げたんだろうか」と考えるシーンも登場します。山口さんは20代前半の頃、ずっと仕事を辞めたいと思っていたと過去に語っておられましたが、忍のように結婚したほうが楽なんじゃないかと思ったことはないですか?
山口:そもそも私は結婚に興味がないのと、仕事があまりなかった時も、事務所の社長だったり、マネージャーだったり、励ましてくださる方が常にそばにいたので、「結婚したほうが楽なのかな」という考えには1ミリも至らなかったんですよね。それよりは「辞めたら何しようかな」って(笑)。だけど結婚って一つの選択肢であって、逃げだと考える必要はないのかなと。家のことを一手に引き受け、家族の健康を守り…重要な役割を果たしているのだから、負い目に感じることはないし、私の仕事は家を守ることです! って、自信を持って言い切っていいのになって。
――山口さんは、恋愛や結婚に求めるものはありますか?
山口:恋愛に対して求めるものは…、一人の時間を邪魔せず、許してくれること(笑)。それでたまに会えたら幸せだなと思います。
――たまにで十分ですか?(笑)
山口:気持ちって慣れが出てくるじゃないですか。一緒にいすぎるとおろそかになって、大事にできなくなる気がして。大事な人ほどあんまり会いたくないかも(笑)。
―― 一人の時間は何を?
山口:先ほどお話ししたように掃除して洗濯して料理して…っていう地味な毎日です(笑)。あとは、その時興味があるものですね。少し前は沖縄の離島にハマって島巡りを。興味が湧くとじっとしていられない性分で、気がついたら飛行機に乗ってたってことはよくあります。
――親しい人には、どんな人と言われることが多いです?
山口:(近くにいるマネージャーさんに「私ってどんな人?」と聞いて…)自由人、だそうです。そうかなぁ(笑)。編み物にハマっていた時は寝るのも食べるのも忘れて3日間編み続けたことはあるけど…。あ、たしかに欲望には忠実で、西表島では洞窟に20年間ひとりで住んでいる方に会いに行ったり。
――楽しそうですね…!
山口:最高でした。大興奮(笑)。手作りのサメの唐揚げやハブ酒まで振る舞っていただいて。私、未知なる刺激が大好きみたいです(笑)。
やまぐち・さやか 1980年2月14日生まれ、福岡県出身。1994年に芸能界デビューしたのち、数多くのドラマや映画、舞台で活躍。2018年に初主演を務めたドラマ『ブラックスキャンダル』や’19年『絶対正義』での衝撃の演技も注目を集めた。映画『彼女が好きなものは』が公開中、また『劇場版 ラジエーションハウス』が4月29日に公開。
ジャケット¥121,000 ブラウス¥40,700(共にリュンヌ/ラトリエ・エム TEL:03・6805・1215) デニムパンツ¥24,750(サージ/ショールーム セッション TEL:03・5464・9975) パンプス¥15,950(ダイアナ/ダイアナ 銀座本店 TEL:03・3573・4005)
『JOUR』(双葉社)で連載中の同名コミックを実写ドラマ化。売れない漫画家の忍(山口)は、18歳下のアシスタント・千秋(板垣)と恋に落ち、忘れていたときめきや仕事への情熱を取り戻していく。出演/山口紗弥加、板垣李光人、池内博之、宮崎吐夢、酒井若菜ほか。ドラマ24『シジュウカラ』はテレビ東京系にて毎週金曜24:12~放送中。
※『anan』2022年1月26日号より。写真・上澤友香 スタイリスト・三浦由美子(W) ヘア&メイク・松本幸子 インタビュー、文・菅野綾子
(by anan編集部)