『大奥』はよしながふみが描く予定ではなかった!? 今明かされる16年前の裏話
ついに完結! 大奥という場所が私たちに見せてくれたこと。
「マンガは難しいメディアで、買っていただかないと続きを描くことができないのですが、3~4巻の時点でここから10年はかかるとわかり、読者の方々に申し訳ないなと思っていました。将軍を女の人がやっても、男の人がやってもうまくいくわけではないというのを長々と描き、苦しんできたことに対するひとつの答えがラストでようやく出るので、辿り着けて本当によかったです」
男女が逆転する構想自体を思いついたのは、マンガ家になる以前。壮大すぎて実現には至っていなかったが、もともと’83年のドラマ『大奥』が好きだったのに加え、’03年にもドラマがヒットしたことで「男女逆転」と「大奥」が結びついたそう。
「だけど歴史ものだし、絶対に大変になることはわかっていたので、ほかの先生に描いてもらったらどうでしょう、と担当編集さんに提案したんです。私は1円もいらないのでって(笑)。自分が読みたいものと描くのが楽なものは違うんですよね」
完結して改めて気になるのは、200年を優に超える時間の流れを物語にするにあたり、最初にどの程度の青写真があったのかということ。
「大まかな流れや、赤面疱瘡(あかづらほうそう)が蔓延して解明されていく時代背景も決めていましたが、人間模様の細かいところはライブ感でした。たとえば5代・綱吉は生類憐みの令を出す人だから、あまりいい将軍ではなかったんだろうなっていう程度のイメージしかなくて。さらっと終わらせるつもりだったのですが、描き始めたら面白くなって長くなりました。史実をガイドに、どうしてこんなことをしたんだろうと遡って人物像を考えていくのは、楽しい作業でした」
多くの将軍にとって重責となるのが、世継ぎを作ること。愛する人とは子宝に恵まれない家光や、子どもを亡くして人生が狂う綱吉、反対に子だくさんゆえに幕府の財政を逼迫させ、人を信じられなくなる家斉。
「血を繋いでいくシステムは、性別関係なく悲しさがつきまとうものなのだと思います。一方で、家茂と和宮のように女の子同士で心を通わせる名前のつかないような関係や、赤面疱瘡を解明しようとするチーム男子も予想以上にブロマンスっぽくていい感じに。描く前は大奥の話だから男の人がたくさん出てくるのかなと漠然と思っていましたが、将軍と老中の女性同士の関係が意外と熱くなりました」
連載中に映画化・ドラマ化され、キャラクターについて俳優と議論をしたり、演技のアプローチを目の当たりしたことで、登場人物それぞれの人生をより深く考えるようになったという、よしながさん。読者としては、全編通した映像作品を見てみたいという欲も……。
「1年くらいのドラマでは、尺が足りなそう(笑)。ひとりのキャラクターが20~30年タームで年齢を重ねていく感じも、マンガ表現ならではの楽しさだと思って、自覚的に描きました。製作コストもかけた時間も、マンガだからこそ実現できた物語なのかなと思います」
至極ごもっとも。未読の人は今こそ通読するチャンス。ため息の漏れるフィナーレを堪能してください!
『大奥』19 ついに江戸城を明け渡す最終巻。大奥では何が起こる? 雑誌掲載時のイラスト集のほか、対談などを収録した「公式ビジュアルファンブック」がセットになった特装版も。白泉社 748円(通常版)/1980円(特装版) ©よしながふみ/白泉社
よしなが ふみ マンガ家。代表作は『西洋骨董洋菓子店』『愛すべき娘たち』など。『きのう何食べた?』は『モーニング』で連載14年目! 劇場版が今年公開予定。
※『anan』2021年5月5日-12日合併号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)