時間の概念を超越するリアルと異なる存在感。
昨今、バーチャルヒューマンが増えている理由を、雑誌『CGWORLD』の編集長を務める沼倉有人さんはこう説明する。
「フォトリアルなCGキャラクターはハリウッドに代表されるVFX(CGやデジタル合成などの視覚効果)のなかで’90年代から研究されてきました。その技術が日本でも普及してきたのです」
現在は頭部を3DCGで作り、首から下を実在のモデルの写真と合成するのが、制作方法の主流。
「メリットは時間を超越できること。年をとらずにもいられるし、10年後の姿も表現できるので」
これまではファッション分野で活躍することが多かったが、キャスターや手話通訳のキャラクターなどその幅も広がっている。
「動画技術も進んでいるので、テレビなどで活躍する機会も増えてくるのではないでしょうか」
実在する人間のような写実的なビジュアル。
実写と見分けがつかない、透明感のあるルックスで人気の女子高生Saya。これまでミスiD 2018で賞を獲得したり、多言語案内サービスのキャラクターなどに起用され、彼女ならではの役割を模索しながら、成長過程も見せている。「より高度なフルCGによるSayaは、人と話すかのように音声や表情、視線を用いたマルチモーダル対話の技術も取り入れ先行しています」©TELYUKA
顔から考え方まで、個性豊かなキャラクター。
2016年にInstagramアカウントを開設したカリフォルニア出身のリル・ミケーラは、海外におけるバーチャルヒューマンの火付け役といえる存在。親しみのある表情で、モデルのほかシンガーとしてデビューも果たしている。「タブーやセンシティブな話題をただ客観的に述べるのではなく、『私はこう思う』と意思表明できるのもバーチャルヒューマンの強みです」写真:bfa.com/アフロ
SNSやファッションとの高い親和性。
今年7月に活動開始したASUは、NOWEAR(https://www.instagram.com/nowear.gram)のファッションデザイナー。「バーチャルヒューマンの多くは、SNSのなかでも写真に特化したInstagramを拠点に活動中。それがファッションと親和性が高い理由のひとつでもありますが、洋服はアイテム数や移り変わりが多いなか、反響をチェックしやすい点も大きいでしょう」
既成概念にとらわれない自由で勇ましい生き様。
やや目立つあざと、そばかすがあるMEMEは、“バーチャルヒューマン=完璧な美形”というイメージを逸脱した女の子。「コンプレックスはあるけれども、自分らしく生きるという強さを感じます。腋を脱毛していない大胆なポーズで広告にも起用されているのですが、腋毛はNGという既成概念にアンチテーゼを示す、多様性の時代を象徴するキャラクターといえます」
絶大な信頼感で、企業のオリジナルキャラも続々。
「バーチャルヒューマンは基本的にトラブルを起こさないので、企業と相性がいいという側面があります」。女性200人から算出した平均体型を参考に作成したGUのYU(写真・上)は、モデル体型でなくても似合う着こなしがあることをアピール。サントリーのバーチャルヒューマン社員・山鳥水生(写真・下)は、手作り料理やお酒の情報をInstagramで発信している。
ぬまくら・ありひと 『CGWORLD』編集長。2000年4月より東北新社のオンライン・エディターとして、CMやVPの編集に携わる。’05年10月からCG・映像クリエイター総合誌『CGWORLD』編集部に所属。’12年7月より現職。
※『anan』2020年12月23日号より。取材、文・兵藤育子
(by anan編集部)