蓮沼執太「無関心で生きてきたりしたことが…」コロナ、BLMで思うこと

エンタメ
2020.10.19
ソロのミュージシャンとして活動を始め、その後、26人編成の現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ“蓮沼執太フルフィル”や芸術面などでも注目を集めることとなった蓮沼執太さん。8月にはニューアルバム『フルフォニー|FULLPHONY』を配信リリース、10月28日にはアナログ盤とCDが発売されます。そんな蓮沼さんに、多岐にわたる創作の根底にある思いを聞きました。

環境の声に耳を傾ける。いまこそそれが大事では。

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――蓮沼執太フルフィルのニューアルバムが8月に発売されましたが、それこそ大人数で会うことがなかなか難しいいま、フルフィルでアルバムを出された意味とは?

実はこのアルバムは、昨年の春頃にレコーディングしたものなんです。年末くらいにはリリースしようとしていたところ年が明けて、そうこうしているうちにコロナ禍になり…。全10曲のうち前半5曲は、合奏が自由にできた時代の生演奏です。後半5曲は、前半5曲のリミックスバージョン。後半を作ったのは今年の3月とか4月で、それこそコロナ禍の只中。そもそも合奏とは何だったのだろう。合奏した音源をリミックスとして再構築することで、その意味を自分なりに考えようと思ったんです。

――アルバムのアートワークは横尾忠則さん。アナログやCDになると、美しさがより映えますよね。

もとは「大沼と駒ケ丘」という横尾さんの作品で、今回のアルバムのビジュアルのイメージにピッタリだったので、この絵を貸していただけないか、お願いしてみたんです。するとデザインしてくださるとのことで送られてきたのが、ジャケットの表と裏用の2枚の絵。一見すると同じようなんですけど、裏の絵からは鳥など動物が消されていて…。このアルバム自体、前半5曲がいわば原形で、後半5曲はそこからの波形とかスコアを見ながら音を削っていって再構築したもの。つまり、表と裏があるんです。そういう関係性を伝えていないのに、すごいですよね。横尾さんの言葉を借りると、超自然的とでもいうのかな。自分ごととして体験すると、リアリティを感じます。

――表と裏然り、以前といまでは社会が変わってしまいました。制作を続けるうえで、この状況とどう向き合おうと思いますか?

いま、世界中のアーティストから環境音を集めているんです。要はフィールドレコーディングなんですけど、いまこそ環境の声を聴くことが、すごく大切だと思っていて。それを無視したり、無関心で生きてきたりしたことが、コロナとかブラックライブズマターで噴出したんじゃないかと。音楽もそれを一つとして聴くのではなく、音楽のなかにたくさんの音があって、その楽器を通して生の営みを感じるわけで。それが生きているということ。今後はそういう声にどんどん耳を傾けるクリエイションになっていくんじゃないでしょうか。あとは自分自身に向き合わないと、とも思っています。

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――コロナ禍での試みといえば、5月にフィルでデジタル配信シングル『Imr』をリリースされましたが、こちらはメンバーそれぞれによるリモートでのレコーディングですよね。

本来ならフィルは、全員でスタジオに入って「せーの」で録るんです。つまりライブ感があるんですけど、一つのやり方として会わずにつくるのもおもしろいよねっていう話は、コロナ以前からしていたことがあって。それならいまがその時期かもと、メンバーが自宅でレコーディングした音を、僕が集めて一曲にしました。

――この方法は新たな一手として確立しそうですか?

違った空間で違った時間で録られているから、違った音が集まってきてそれはそれでおもしろかったけど、個人的にはみんなで「せーの」で録ったほうがやっぱり好きです。ただ、トライアルとしてはすごくいい勉強になったし、やってよかったと思いますよ。でも、改めてみんなでスタジオで録ったら、それもおもしろいんじゃないかなって。というのも、いまの『Imr』は音楽が身体化していないんです。フィルやフルフィルの音楽って、スコアと楽器の関係性だけでなく、僕との人間関係であったり、全員との人間関係であったり、さまざまなものが繋がり合って初めて音楽になっていくから。だから、ライブで演奏するとまた違った展開になるとか、そういう変化を楽しみたいと思っています。

はすぬま・しゅうた 1983年生まれ、東京都出身。2006年、アメリカのWestern Vinylより『Shuta Hasunuma』をリリースし、音楽活動をスタート。’10年、蓮沼執太フィルを結成。’17年にオーディションで選ばれた新メンバーが10人加入し、26人編成の蓮沼執太フルフィルに。’19年、「第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞」受賞。

「windandwindows」など全10曲が収録された蓮沼執太フルフィルのアルバム『フルフォニー|FULLPHONY』。管弦楽器などの豊かな響きに、蓮沼さんや木下美紗都さんの歌声と、環ROYさんのラップが心地よく乗る。いつの日か野外ライブで聴きたい。10/28発売。CD¥2,545 アナログ盤¥4,546(Caroline International/Universal Music LLC)

※『anan』2020年10月21日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) インタビュー、文・保手濱奈美

(by anan編集部)

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