“性差”のゆがみを描く 松田青子の痛烈な「おじさん」批判小説

2020.8.23
『持続可能な魂の利用』は、フェミニズム小説の旗手・松田青子さんの初長編だ。痛烈な「おじさん」批判小説であり、女性たちの連帯を描くシスターフッド小説でもある。
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「おじさん」は、見た目や年齢のことではない。カギカッコ付きなのは、それが家父長的な価値観で女性について勝手に語ったり評価したり貶めたりして消費し、女性の絶望を作り出す総体としての存在だからだ。

「いまの女性たちが置かれている日本社会の理不尽な状況を、一度しっかり書いておきたいと思ったんですね。同時に、そうした『おじさん』の視線や悪意がなくなったら、女性たちはどれほどの自由を享受するだろうかとも想像しました」

物語は2つの時空を行き来する。現代のパートでは、陰湿なハラスメントで負った傷を、射すくめるような視線の媚びないアイドル〈××〉に癒される敬子、ハラスメントの真相を知って、敵を討とうと誓う歩、二次創作にハマっている元アイドルの真奈、新生児の育児に右往左往する由紀などが活躍。未来のパートは「おじさん」から少女が見えなくなった世界だ。少女たちは伸び伸びと、現代社会の性差のゆがみを研究発表という形で考察していく。

「未来の少女たちの目から見れば、なんてバカバカしいことがまかり通っていたのかと呆れることだらけ」

作中で、アイドルは複雑かつ重要なモチーフとして描かれる。

「敬子は女性アイドルに純粋に惹かれながら、その消費構造を手放しでは喜べないことにはっとします。人間は矛盾した生き物なので、女性が見られることで傷ついた心を、今度は自分が見る側に立つことで癒されるというのもあると思うんですね。私自身も実在のアイドルをモデル化して小説に登場させている時点で、やはりそこは綺麗事にならないように、自覚と自戒が伝わるような、ブーメランが自分にも返ってくる文章構造と書き方を心がけました」

それでも本書に描かれた世界に、希望を見つける人は多いだろう。

「SNSなどで女性を取り巻く問題が可視化されたことは気が重くなる部分もあるんですが、敬子の妹が言った〈鬱陶しい霧のようなままの気持ち〉のころよりは、多少は対策も立てられる。繋がれる人もいる。変化は生まれていると感じています」

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まつだ・あおこ 作家。兵庫県生まれ。2013年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞および野間文芸新人賞候補に。『彼女の体とその他の断片』(共訳)など、翻訳家としても活躍。

『持続可能な魂の利用』 見られることから少女たちが解放された世界と、そこへ至る前史ともいえる女性が生きにくい社会。描かれる事象のリアリティに驚く。中央公論新社 1500円

※『anan』2020年8月26日号より。写真・土佐麻理子(松田さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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