
映画『ハリー・ポッター』シリーズ全作で、ハリー・ポッターの吹き替えを担当した小野賢章さん。その小野さんが、ついに舞台でハリーを演じる。いま改めて思う、ハリーという存在とは?
2022年に開幕。劇場を専用劇場に改装し長期ロングランをおこなってきた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が今年12月に閉幕する。そのニュースとともに“ハリポタ”ファンをざわつかせたのが、ハリー・ポッター役での小野賢章さんの出演だ。小野さんといえば、映画の吹き替え版声優として、12歳からずっとハリーと歩んできた、まさに理想のキャスティング。
── 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』ですが、以前に一度、出演のオファーを断っているそうですね。今回出演を決めたのは?
小野賢章(以下、小野) 『呪いの子』は映画シリーズの19年後の世界を描いた作品ですが、最初にお声かけいただいた時は、この作品のハリーを演じるには、自分が年齢的に追いついていなくて、今のタイミングでは難しいなと思ったんです。でも、あれから数年が経って自分も歳を重ねましたし、今年がラストイヤーということで、もし今を逃したら、自分がハリー・ポッターを演じられる機会はもう訪れないかもしれないというのもありました。まだ自分に演じられるか不安はありますが、挑戦してみたいなと。
── 出演が発表されてからの反響はどう受け止められました?
小野 すごくありがたかったですけれど、その期待がプレッシャーになっていたりもします(笑)。
── 俳優さんの中でも、ひとつの役を長く演じられる人ってそんなに多くないと思いますが、小野さんにとってハリー・ポッターはどんな存在ですか?
小野 10代の頃から自分の要所要所にあった作品で、1年か1年半に1回はハリーとしての仕事があったので、身近な…夏休みにおばあちゃんに会いに親戚の家に行くような感覚でした。ただ、シリーズ最終作の公開から15年が経っていますから、今回の舞台は、新たな作品に挑戦する感覚です。
── それにしても、『ハリー・ポッター』のような大作の主役の声を担当する、というのはどういうお気持ちだったんですか?
小野 1作目の時は12歳で、もともと兄が原作のファンだったので、家族が喜んでくれたのが嬉しいとか、アフレコが楽しいぐらいの感じでした。ただ、中学生の頃には、知らない先輩からいきなり「セリフ言ってみろよ」と言われたりすることもあり、嫌な時期もありました(笑)。大人になって…シリーズが終わってからの方が、すごい作品に携わらせてもらっていたんだなと実感しているかもしれません。いろんなところで、「幼い頃から観てました」と言っていただくことも多くて、改めてありがたい経験だったなと。
── 成長したハリーに対してはどう思われました?
小野 想像していた姿とはまったく違いましたね。子供がいて、息子との関係性に悩んでいるとは、です。しかも仕事場でもいろんな重圧にフラストレーションを抱えていたりして、意外とサラリーマンなんだなぁと思ったりして(笑)。
仕事が終わった瞬間、仕事の話は一切しません

── 子役の頃から俳優として活動されていますけれど、当時から演じることは好きでした?
小野 放課後に劇団に行ってレッスンしたり、仕事したりという感じでしたから、僕の中で仕事という意識より部活に近い感覚でした。
── では、俳優を仕事として続けようと思われたのは?
小野 高校を卒業するタイミングだったと思います。これを仕事にしたい、と思えるようなものが他に見つからなかったというのが理由です。子供の頃からお芝居しかやってこなかったので、これしかなかったんです。やり続けようというよりも、辞めようと思うタイミングがなかったというか。
── そんな中、ご自身としてのターニングポイントというと?
小野 いっぱいあるんですよね。『ハリー・ポッター』シリーズをやらせていただいたのもそうですし、その前からやっていたミュージカル『ライオンキング』のヤングシンバ役は、その後も舞台をずっと続けていくきっかけになったひとつでもあると思います。アニメ『黒子のバスケ』の黒子テツヤ役は、それまでハリー・ポッター以外、仕事の中心が映像や舞台だったのが、声優の仕事の方に変わるきっかけになった作品ですし。
── 声優としていろんな作品に出演されていますが、舞台に立ち続ける理由はなんですか?
小野 芝居をやる上での役へのアプローチの仕方とかって、やっぱり舞台で培ってきたものという意識があるので、そこに立ち返るチャンスがあるならば、という気持ちがあります。ただ、若い時はノリと勢いで乗り切れていたものも、30代後半になるとそうはいかない瞬間が増えてきてはいて。声の仕事と並行でやっていくのが大変になっているというのが正直なところではあります。でも、今回のハリーもそうですが、仕事に関してはわりと自分の気持ちに正直に選択していると思います。
── どんな作品に心が惹かれがちですか? 傾向はあります?
小野 僕、詳しくはないんですが日本の歴史が好きなので、時代ものは楽しいですね。
── 声優は声での表現ですが、舞台は体全体を使った表現です。それぞれの難しさと面白さ、ご自身の中でのスイッチはありますか?
小野 違いというとテクニック的なことがほとんどです。声のお芝居は、声だけで表現していくので、たとえば誰かが入ってきたのに気づいた時に、気づきの息を入れたりするわけですが、それは声の表現ならでは。そういう表現の違いはあるけれど、役作りだったり、役や作品への向き合い方やアプローチには違いはないですし、変えないようにしています。
── 役を深めていくために大事にしていることというと?
小野 基本的には、自分の中の経験と照らし合わせて共感していくところから始まってきますね。
── とはいえ、アニメーションだと、なかなか想像力が及ばないような世界だったりしますよね。
小野 それでも、このセリフをどういう意図で言っているのかひとつひとつ読み解いて、その点と点をつなぎ合わせて線にしていく作業をしていけば自然とできてくる感じです。ただ、自分に引き出しがないものはどうしても難しい。引き出しがない場合、勉強して足していくこともありますし。
── その引き出しを豊かにしていく作業として、具体的にどんなことをされるんでしょう。
小野 たとえば、イラッとした時とかに、自分を俯瞰するのはよくしています。自分が今、何に対して、なぜこんなにモヤモヤしているんだろう、どこにイラッとしたんだろうって分析するのは、よくやっているかもしれません。
── それは昔から?
小野 俳優を仕事にしていこうと意識するようになった後ですが、このままではこの仕事で食べていけないかもと思った時期があって。じゃあどうしたら使ってもらえるようになるのか、考えるようになりました。それまで声の仕事はずっと独学でやってきたんですけれど、自分が素敵だなと思う方の作品をたくさん観て研究したりして。
── どなたか伺っても?
小野 山寺宏一さんです。『新世紀エヴァンゲリオン』や『攻殻機動隊』を観て、真似から入っていって…みたいなことはしていました。
── 研究の成果としては?
小野 山寺さんってわりとセリフの入りのトーンが下からのことが多いんだなということに気づいたんですよ。だからといって、言い回しを真似たりはしないですけれど。
── 分析が好きなんですね。
小野 そうかもしれません。この人はこういうタイプなんだ、って知って満足するというか。
── ちなみに、ハリー・ポッターを長くやってきて、ご自身の人格形成に影響したなと思うことはあったりしますか?
小野 どうだろう…ハリーを演じたことで勇気をもらって一歩踏み出しました、みたいなことはたぶんなかった気がします。ただ、何がとは明確化できないですけれど、僕の人格を形成する上で、何かしらの影響はあったと思いますよ。
── 舞台でも声優でも、今後のキャリア形成として、何か考えていることはありますか?
小野 とにかく楽しい作品をやっていきたい、というくらいです。エンターテインメントの世界でお金が発生する以上、僕は楽しい気持ちで帰りたいというのがあるんです。これは完全に個人的な好みですけれど、お金を払ってすごく暗い気持ちになりたくないって思っちゃうタイプなんです。だから、自分が参加する作品も、ご覧になった方に楽しい気持ちになってほしいという気持ちが強いし、そういう作品になったらいいなと思いながらやっています。あとは、少し前に自分がやりたいと思っていたことを事務所の方が形にしてくれて、『平家物語』の朗読劇を国立能楽堂でやらせていただいたんです。それがすごく有意義で楽しい時間だったので、また自分の興味のあることを自分発信で何か形にしていけたらいいですね。
── 今、お仕事以外で幸せだなと思う瞬間というと?
小野 家に帰った瞬間です。もともとオンオフがはっきりしていて、仕事が終わった瞬間、仕事の話は一切したくない人なんです(笑)。自分の時間を大切にしたくて。今、MLBのカードを集めるのにハマっているんですけれど、たまに知らない選手が出ることがあって、それを調べたりするのも楽しいんです。そこから、毎朝メジャーの試合をチェックするようになりました。知らないことを知っていく喜びみたいなものは仕事でもあって。携わる作品の時代背景や関連する歴史を調べるうちに興味を惹かれていく、ということが多いんです。たぶんもともと自分が持っている性質なんだと思います。

Profile
小野賢章
おの・けんしょう 1989年10月5日生まれ、福岡県出身。声優、俳優。子役として、ミュージカル『ライオンキング』などに出演するほか、2001年より映画『ハリー・ポッター』シリーズでは10年にわたり主人公・ハリー・ポッターの吹き替えを担当するなど、声優、俳優として活躍。現在、アニメ『黄泉のツガイ』に出演中。
information
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』
原作者であるJ・K・ローリングの構想を元に脚本化し、2016 年にロンドンにて初演。開幕と同時に大きな話題を呼び、世界各地で上演。日本では'22年にTBS赤坂ACTシアターにて開幕し、ロングラン上演中。今年12月に千秋楽を迎える。小野さんは8月16日(日)~ 10月31日(土)の期間の全23公演に出演。
写真・小笠原真紀 スタイリスト・DAN(kelemmi) ヘア&メイク・Masashi Saito インタビュー、文・望月リサ
anan 2498号(2026年6月3日発売)より






























