
ジャーナリストの堀潤さんと社会問題への関心も高い井上咲楽さんが、日本と世界の未来について考えます。ここでは、AI時代に問われる“私だからできること”について考察を繰り広げました。
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複数のサービスが繋がりAIがマルチタスク化
── 2025年は私たちの生活のなかでもAIが活躍した年でした。調べ物から、画像の生成、チャットまで万能になりつつある印象ですが、2026年以降、AIはどう進化をしていくのでしょうか。
堀 AIの役割は大きく分けて2つ、「省力化」と「創造性」があります。省力化でいうと、メールの文面作成や翻訳、音声データの書き起こし。こういうのは全て人間の作業を代行する省力化です。もう一つは自分では思いつかなかったことやできないことを実現してくれる、創造性の分野。例えば画像生成などがそれにあたります。で、今はどちらかというと省力化がまだまだ多いという印象です。ところで、井上さんはどんなふうにAIを活用していますか?
井上 私も今は添削とか調べ物に使うことが多いです。例えばYouTube用の動画を撮りながら旅行することもあるんですが、旅のプランを立てるのが苦手なので、「自分が楽しくないものは、もうおまかせしちゃおう!」という感覚で(笑)。
堀 まさにそれは自分で調べる手間を省く、省力化ですね。そちらはかなり使い勝手がよくなっていると思うんです。さらに2026年以降は「AIマルチエージェント」というものが広がっていくと思います。今はChatGPTなどいくつかのエージェントがありますが、そういうエージェント同士がお互いに情報を共有していくことでさらに幅広いものを創り出せる時代がまもなく始まります。
もちろん今使っているAIのサービスも向上していって、私が何もしていなかったとしてもこの時間に堀くんAは原稿の下書きを進めていて、堀くんBはインタビューに答えている…みたいなことが実現すると思います。まったく同じ自分が同時にいろんな仕事を自動でこなすという未来が来る。
井上 私の仕事もこうして対談しているときに、前に収録した番組がオンエアされていて、自分の分身がたくさんあるような感覚になることがあるんですけど、一般の人にもそういうことが起きるってことかな…? なかなか想像できない、すごい未来です。堀さんは複数のサービスを使いこなしている印象ですが、2026年はそういう方がさらに増えるんでしょうか。
堀 そうですね。画像を作るならあのサービス、というように細分化されていくのはもちろん、いま人気のChatGPTやGeminiも自分たちのサービスを他の事業者が使ってくれることでより用途が広がることを期待している。それもマルチエージェント化の一環です。なので自分が普段使っているアプリの仕組みの中にすでにAIが組み込まれていて、知らず知らずのうちにAIを使っている、そんな時代がもうすぐ来ると思います。
井上 それだけ広がっていくと、使う側の人間が試される時代になってきますよね。人間にしかできないことは何か、を突きつけられる時代になりそうです。
堀 そうですね。昔、インターネットで検索したことを「調べた」と言うと先輩に怒られた、そんな時代がありました(笑)。でも今はネットを使わないでどうやって調べるの? っていうのが多くの人の感覚ですよね。それと同じことがAIにも起きると思います。
そういうテクノロジーの進化に社会的な認知が一歩遅れてついていく、そこはいつの時代も変わらないので流していいと思うんですよ。それよりも大事なのは、井上さんのおっしゃる通り「じゃあ人間の役割ってなんなの?」と問う時間が生まれてくること。これは大変豊かな時間になると思いますよ。

自分で見て、感じて。体験の価値が急騰する
── 一方で、急速な進化の中で、人間の役割は淘汰されていくのではないかという不安も広がっていますよね。
堀 そこで思い出していただきたいのが映画『スター・ウォーズ』に出てくる2体のロボット。一体はC-3POという金色のヒューマノイド。で、もう一体はいかにもロボットな見た目のR2-D2。
井上 映画を観ていない人でも知っていそうな、あの有名なロボットですね。
堀 そう。まず、C-3POは何万言語も翻訳できたり、いろんな民族文化に応じたプロトコル(儀礼)を教えてくれる。要はさっきの話で言う省力化のAIと同じなんです。そしてR2-D2は人間では思いつかないようなアイデアで窮地を救ってくれる…いわば創造的AI。1970年代に生まれた映画なのにすごい先見性ですよね?
「じゃあ、主人公のルークはいらないの?」っていうと違うんですよね。一番大切な愛や、友情や、正義。人間にはそうした本質があるからこそ、人と人が交流する価値や、生きることの面白さを感じることができる。だからスター・ウォーズの人間とロボットの関係性を思い浮かべると、私たちはこれからより人間としての活動に専業できるということが見えてくる。
先ほどの旅行についても同じ。いろんなサービスから情報収集してピンポイントで行くタイプの旅行が進化するほどに、逆に一から自分で決めて、試行錯誤で体験して帰ってくる旅が大きな価値になる。AIでは到達できないリアルを提供することが人間が提供するビジネスとしても求められると思います。
井上 私は旅先でごはんを食べに行くにしても「行ったらおいしくなかった!」っていうのは避けたいから、調べてから行きたい派です。「失敗も旅の醍醐味だよ」と父には言われますけど、やっぱりそこは失敗したくない(笑)。
堀さんがおっしゃることは私の好きな選挙ウォッチングに重ねてみると理解できます。選挙情報ならネットでも得られるけど、現地で感じる空気や情報は自分が行くことでしか得られない。旅行の話に関しても、旅先で何をしたかよりも、そこで実際に自分がどう感じたのかが大事な気がします。
綺麗な景色をネットやVRで見ることができても、それを見て自分が感じた気持ちは、ChatGPTには教えてもらえない。行動して何を感じるか。それは個人に与えられた究極の特権なんじゃないかな。
堀 まさにAIで代替不可能、人間にしかできない一番大きなものが、井上さんがおっしゃった「個の体験」です。AIに「ニューヨークはどんなところですか」と聞けば、風土や歴史はわかるけど、街の空気感や現地の人との交流などは自分が行かなくては得られない。この肉体を伴った活動の価値が、今後はぐんと高くなります。
これは職業についても同じ。先ほどの「淘汰されていくのでは」という話に繋がりますが、実際アメリカではすでにコンサルタントや銀行員などの失業が始まってきています。そして水道を工事してくれる人や大工さんなど、人間にしかできない仕事の賃金が上がっているんです。
井上 なるほど。正直、あまりにテクノロジーの進化が早くて「本当に人間じゃないとできないことってあるの?」って落ち込んでしまいそうです…。でもAIが多くのことを代行してくれる時代に、焦るだけでなく「じゃあ自分にしかできないことって何?」と問い直すタイミングが来ている気がします。その向き合う中では、いったん絶望するかもしれないけど、自分にできることが見えたその先に共存のフェーズがあるのかも。
── そして技術が進化するほどにフェイクも巧妙化の一途。フェイクニュースやフェイク動画が日常茶飯事になりつつありますが…。
堀 それについては、ネットにあることは「フェイクであることが前提」という時代に変わっていきます。僕の体感ではネットで注目されるおもしろ動画の7割近くが生成されたもの。だからスマートフォンやパソコンの中で起きていることのほぼすべては“物語”と考えましょう。
動画投稿サイトは物語を楽しむメディアに変わっていく。だからこそ、自分の目で見ないとわからない。2026年は、今以上に会えること、行けること、つまりリアルの価値が高まる時代になっていくと思います。
押さえておきたいキーワード
#省力化
今まで人間がやっていた作業をAIに代行してもらうこと。スケジュール管理や請求書作成、ネット検索まとめ等のリサーチ作業など、暮らしを下支えするものから、プログラム制作、チャットなどのカスタマーサポートといったひとつの職業だった分野もAIが代行するように。その幅は現在も広がり続け、さまざまな業務の効率化が進んでいる。
#創造性
人間の脳では処理しきれない量・速度・組み合わせで思考して、モノを生み出すAI独自の能力。例えばデパコスのスキンケア診断や転職または恋愛のマッチングなど、人間の脳では処理できない無数のパターンの検証を短時間で実現。今後は、世界中の人々のデータを学習して、より幅広い分野でパーソナライズ化が進む見込み。
#AIマルチエージェント
複数のAIが人間を介さずにタッグを組み、互いに相談して作業を進めるような将来のサービス。人間は自分の窓口となる秘書的役割のAIにお題を渡すだけ。AIは24時間ノンストップ。時間とともに個人の好みも学習するので、寝ている間にAIたちが予算、天候、現地ホテル候補を会議して、起きたら夏休みの予定が完成! なんてことが現実に!?
#リアルの価値
AI技術がどれだけ進んでも、人間の代わりにしてもらえないことがある。それは、肉体を通した体験。その場に身を置き、自分の五感を働かせて得られるもの。その瞬間にしか存在しない時間。VRやAIでの擬似体験が容易な時代になるほど、コピーや保存ができない肉体を通した体験の価値が相対的に上がっていくといわれている。
Profile
堀 潤
ほり・じゅん ジャーナリスト、元NHK アナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」 CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX 月~金曜20:00~21:00)が放送中。
井上咲楽
いのうえ・さくら 1999年生まれ、栃木県出身。選挙演説めぐり、マラソン、発酵食品など多分野で活躍。近著に『井上咲楽の発酵、きょう何作る? 何食べる?』(オレンジページ)。
写真・JOJI(RETUNE Rep) スタイリスト・池田木綿子(井上さん) ヘア&メイク・石川ユウキ(井上さん) 取材・文、大澤千穂
anan 2477号(2025年12月26日発売)より





















