声には生き様が表れる。いい聴き心地も魅力に。
人の内側にあるものが滲み出て、人を惹きつける色気となることは、声や会話においても同じである。
「声には、その人の人生や信念、培ってきたものなどが表れます。人となりもわかるもの。たとえば、真面目に生きてきた方は薄っぺらくない声になるし、人生の深みとちゃんとリンクしているんです。つまり、声に色気が欲しいなら、真面目に生きろ、ということだと思います(笑)。また、『すべての道はローマに通ず』ではないですが、声の高さやスピードなど、会話におけるさまざまな要素も色気を左右します。ただ、何より大事なのは、“この人、ちゃんと話を聞いてくれているな”と相手に感じさせること。たとえば、焦らずゆっくりと話すことで、相手は“自分の話を受け止めてもらった”と包容力を感じ、“この人に委ねたい”と思います」(フリーアナウンサー・堀井美香さん)
また、落語家の桂二葉さんは、ずっと聞いていたいと思わせる耳心地の良さや、“その人らしさ”が気になるそう。
「自分が落語をやる時は、どんな音を出したいか、どんな太さでしゃべりたいか、みたいなことを考えています。(六代目笑福亭)松鶴師匠が『落語はジャズや』という名言を残してはりますけど、心地いいほうがいいもんねぇ。聴いててしんどいの嫌やもん。腹が立つような言い方を避けたり、毒のあることを言う時はいい音でしゃべることで印象はだいぶ変わります。落語は、同じネタを300年近くいろいろな人がやってきている芸能やけど、人や声によって、全く違うものになるから面白い。それほど声や話し方が与える影響は、大きいものやと思います」
ここでは、堀井さんと二葉さんが思う、色気を感じる声や話し方、言葉選びについての6つのポイントを紹介。いい声の秘密が見えてくるはず。
1、間
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「間のズレや会話の余白が生む予想外のテンポに魅了される」(堀井さん)
一見、スムーズではない会話や、一定のリズムを刻んでいない声だからこそ、相手の心に深く刺さるというケースも。「間のズレがある人は印象に残ります。それは、相手が予測していた間からワンテンポ遅れて言葉をしゃべることで、“自分のリズムが崩される”という面白さが生まれ、魅力を感じてしまうから。また、一生懸命考えて次の一言を出そうとしている時に生まれる、独特の待ちの時間や余白みたいなものも同様です。注意したいのは、間の出来・不出来を左右するのが、相手の話をちゃんと聞いているかどうかということ。絶妙なズレではなく、会話の邪魔をするような間になってしまうと、色気どころか攻撃的な印象を与えやすいです」
2、発音
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「強調する音で印象が変化。『サ行』と『ナ行』に注目を」(堀井さん)
言葉の語感と与える印象は連動しているものが多く、そのイメージを上手く使うことで、相手に色気を感じさせることもできるのだという。「たとえば、『サ行』の音をきれいに、はっきり発音すると、とても上品に、涼やかに聞こえ、相手の耳に繊細な印象が残ります。一方で『ナ行』は、マイルドな印象を与える音であり、含みを感じさせる音。発音する時に少しくねらせるようにして強調することで、相手に“この人、何かありそう”と思わせることができる、ミステリアスさが生まれやすい音といえます。たとえ、同じ『そうなの』という言葉でも、『そ』を強く言った時と、『なの』を強調した時では、全く違う印象に聞こえるはずです」
3、地声
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「まっすぐさに胸を打たれる作為的でない、その人の声」(二葉さん)
その人らしさが伝わってくる声にこそ、魅力を感じるという二葉さん。「その人の奥底から出ていることがわかる、作為的じゃない声です。以前、カンカラ三線を弾きながら政治を斬る演歌師の岡大介くんという人が歌っているのを聴いた時、ほんまに泣きそうになるくらい良かったんです。それは、すごくまっすぐで、“魂”という感じがしたからなんですよね。声だけの情報でわかることって、いっぱいあるんです。たとえばラジオを聴いていても、周りの人のことを大切に思っているかどうか、丁寧な人かどうかみたいなことまで伝わってきますから。嘘っぽかったり、わざとらしさや白々しさを感じてしまうと、なんか嫌やなって思ってしまいます」
4、ひらがな
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「相手に浸透しやすいひらがな発音の意識」(二葉さん)
会話における大きな目的の一つが、お互いの考えや想いを相手に伝えること。その時に、スムーズに理解できない言葉が続いてしまうと、ともすればノイズとなったり、相手との距離を感じてしまう一因にもなりかねない。「私が人前で話したり、相手に何かを伝える時には、できるだけ優しく、わかりやすくしたいという気持ちがあって。そのために、“ひらがなで言う意識”みたいなものを持ってしゃべっている気がします。ものすごく感覚的なことですけど、言葉をごちゃごちゃさせず、基本的なことや、大事なところだけを抽出して言う感じというか。相手が気づかないうちにスッと体の中にまで入っていくような言葉にして伝える感覚です」
5、ちょっとした一言
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「思わずドキッとする一歩、近づいてくれる言葉」(二葉さん)
「大阪に、よく行く美味しいホットドッグ屋さんがあって、注文して持って帰るんですけど、お店のお兄さんが最後に『いい一日を』って言わはるんです。すごく自然な感じやったけど、最初に聞いた時は、めちゃくちゃドキッとしたのを覚えています。京都では『おきばりやっしゃ』って言うてくれはる人も。私のことを思てくれてるような一言でうれしい」。自分のことを気にかけてくれたり、“相手の中に自分がちゃんと存在している”と感じさせてくれる人に対しては、ポジティブな感情が芽生えやすいもの。たとえ些細な一言でも声をかけられるとうれしくなり、不意打ちで言われることで気持ちが揺さぶられ、記憶に残ることも。
6、息遣い
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「懸命さが表れる『吸う息』はポジティブな色気を纏う」(堀井さん)
色気のある息遣いと聞くと、気だるいイメージのある吐息を思い浮かべる人も多いのでは。でも、堀井さんは相手の「吸う息」に意識を向けているという。「私の先輩に、話し始める前に必ず『スゥッ』と息を吸う人がいて、とても色気があったんです。ちょっと小手先のテクニックみたいにはなりますが、ブレス音って、やっぱりすごくセクシー。わざと音を吸うことで歌を艶めかせている歌手の方もたくさんいますよね。息漏れする感じもいいのですが、私はそれよりも、一生懸命に息を吸い、次の話をしようとする様にグッときます。ただ、香水のつけすぎが良くないように、多すぎるとしつこくなってしまう。ちょっとずつ、適量がいいですよね」
PROFILE プロフィール
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堀井美香さん
ほりい・みか フリーアナウンサー。ジェーン・スーさんとのポッドキャスト『OVER THE SUN』が大人気。著書に『聴きポジのススメ』(徳間書店)など。おすすめの耳コンテンツは、ドラマ『気まぐれ天使』で味わえる大原麗子さんの声。
PROFILE プロフィール
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桂 二葉さん
かつら・によう 落語家。毎月最終金曜の21:45~、大阪の天満天神繁昌亭で自身がプロデュースする「深夜寄席」を開催。おすすめの耳コンテンツは、作者の黒柳徹子さん自身が読む、オーディブルの『窓ぎわのトットちゃん』。
anan 2435号(2025年2月19日発売)より