生活環境・働き方の変化や、価値観の多様化により、時代とともにチームの在り方も大きく変わってきた。次世代リーダーの育成に従事する伊藤羊一さんは、時代的背景からその理由をこう分析する。
「現代が求めるチームの在り方に大きく転換したのが、インターネット元年といわれている1995年。それまでは自動車や家電など、モノづくり産業が中心でしたが、Windows95の発売が引き金となり、サービスを中心とした産業革命が起こりました。モノづくり産業が盛んだった時代は、典型的なヒエラルキー型組織が多く、上意下達なコミュニケーションで、上の命令に従って正確にモノを大量に生産できるチームが理想的とされていました。しかし’95年以降、インターネットが普及すると、個人の感覚で自由に創造できるようになり、個の力が加速。ダイバーシティが進んだチームが理想とされるようになってきました。これまでの働き方が見直されたコロナ禍以降この傾向は強まり、多様な視点を持っていることが、今求められるチーム像だと思います」
“みんな違って、みんないい”がチームの新しい定説になりつつある今、これからの時代に求められるリーダー像にも変化が。
「チームをまとめる役割であることは変わりませんが、チームの力を最大化するために柔軟に動けるファシリテーターシップを活かせる人が次世代のリーダーとして重宝され始めています。かつては、いつもチームの先頭に立ってグイグイ引っ張っていく人がリーダーにふさわしいとされていましたが、多様な考えや価値観を許容する現代では、中立的な立場で意見をまとめ、より良い結論に導けるのがリーダーの役割になってきました。ただしリーダーがとるべきスタンスも局面によって異なってくるので“平時はアフター・ユー、有事はフォロー・ミー”の姿勢を持ち合わせていることも大切。普段はみんなを立てる役回りだが、緊急時は率先して行動してリーダーシップを発揮できる。そんなリーダーがいるのが、今どきの良いチームといえるでしょう」
柔軟な働き方ができるようになり、組織に属さずに個人で活動している人も多いが、どんな雇用形態であってもチーム力は身につけるべき大切なスキルだそう。
「社会の中で働いている以上、複数の人とチームを組んでプロジェクトを遂行していくことが多々あります。そんな時に、自分から率先してチームの力を高められるような働きかけができれば、メンバーが能力をフルに発揮できるだけでなく、信頼度も上がります」
HOW TO DEVELOP TEAMWORK 01
コロナ禍を経て、リモートと対面のハイブリッドなチームコミュニケーションが重要に。
オンラインツールを使って仕事をすることが浸透した今、チーム間のコミュニケーションの仕方が改めて問われているそう。
「多くの人がリモートワークを体験し、一人で集中できる環境の作業は効率が上がるけれど、ただ淡々とこなすだけになり、仕事ってそれだけじゃないな、と気づいた方も多いのでは。良いアイデアは、顔を合わせて何度も話し合いを重ねることで、ブラッシュアップされていくもの。オンラインツールは情報を共有する連絡手段としては優れていますが、議論には不向き。リモート、対面を組み合わせ、チーム内でのベストバランスを決めることが大切です」
家族間や友人関係など、ビジネス以外のチームでもチーム論は活用可能。
苦楽を共にしながら充実した人生を築いていく家族や友人関係においても、良いチームを築くためには、ハイブリッドなコミュニケーションが大切。「便利なツールを連絡手段に使うのはありですが、それだけに頼るのは避けて。相手が何を考えているか感じたり、信頼関係を深めるためには対面コミュニケーションが必要不可欠」
HOW TO DEVELOP TEAMWORK 02
フラットさが重視される時代の価値観が、「良いチーム」の条件にも反映。
社会の構造が縦軸から横軸に変わりつつある今、チームづくりも“フラット”がキーワードに。
「どんな立場であっても個を尊重し、一人一人が活発に意見を発しながら主体性を持ってアクションを起こせる“フラットな関係”ができているチームこそ成果を上げやすい。さらに、頻繫に情報交換し多様な価値観を受け入れ、成果に向かって高いモチベーションで共に進むことができる“フラットな場づくり”も大切です」
そういったフラットさを重視したチームこそ、率先して変革を起こし、新しい価値を生み出すもの。2024年現在の理想的なチームには必要不可欠といえる。
自分の所属しているチームをチェックリストに当てはめよう。
今の時代が求める良いチームの4つの条件をピックアップ。当てはまる項目が多ければ多いほど、フラットな関係や環境づくりがしっかりできている、望ましいチームといえる。チェックが少ない場合は、チーム全員で話し合いを設けて、見直しを検討してみよう。
□メンバーが、どの組み合わせでもコミュニケーションをとれる。
メンバー一人一人が、1対1で円滑にコミュニケーションをとれる関係性をちゃんと築けているか。交流が活性化すればするほど、絆が強まり、強固なチームが生まれやすくなる。
□立場に関係なく対等に話ができ、心理的安全性が担保されている。
誰に対しても恐怖や不安を抱かずに、言いたいことを言い合えるチーム環境ができているか。互いをリスペクトし、心理的安全性が高いチームは、高いパフォーマンスを発揮しやすい。
□強み・弱みを補い合うことができる。
一人一人の個性や価値観を尊重できている。みんな強みがあるのと同時に弱みもある。その部分もその人らしさだと認めて、さらに補完し合えると、チーム力は一段とアップする。
□向かうべき目標(ゴール)のビジョンが共有できている。
チームを作る目的は、大きな目標を達成することなので、みんなが同じ方向を向いて、突き進めているか。ビジョンが共有できていれば、各自自分の役割を認識し、細かな判断で迷わない。
HOW TO DEVELOP TEAMWORK 03
私たちがチームに惹かれるのは、単純な1+1=2でない、それ以上のパワーが生まれるから。
団体スポーツ、アイドルグループなど、チームで切磋琢磨しながら突き進んでいる姿は、私たちの胸を打ち、大きな感動をもたらす。
「人はチームを組むことで、個人では到底成し得ない大きな目標や成果を達成することができます。それは、チームの一員になると、自分の役割がはっきりわかり、いつも以上に力を発揮しやすくなるため。また、同じ目標を持った仲間から刺激を受けることにより、個人でチャレンジする場合よりも大きく成長でき、モチベーションもどんどん向上していくため、思ってもみなかったパワーが生まれやすい。チームには、そういう無限の可能性があるんです」
熱狂のパリオリンピック。チームスポーツに注目が。
TEAM JAPANの活躍が記憶に新しいパリオリンピック。「特にチームプレーが際立ったのが女子サッカー日本チームのブラジル戦。強豪ブラジルを相手に一歩も引かず、チームが一体となり最後まで勝負を投げなかったからこそ、あの逆転勝利が生まれた」。良いチームをお手本にすれば、自分が属するチーム力を高めるきっかけにもなる。
伊藤羊一さん アントレプレナーシップを抱いて活動する次世代リーダーを育成するスペシャリスト。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長、スタートアップスタジオ「Musashino Valley」代表も務める。代表著作に『1分で話せ』『「僕たちのチーム」のつくりかた』など、著書多数。
※『anan』2024年9月18日号より。イラスト・jentwo(visiontrack) 取材、文・鈴木恵美
(by anan編集部)