国際協力により開発中の、未来のエネルギーに注目。
水素のような軽い原子核同士が融合すると重い原子核に変わり、非常に大きなエネルギーを生み出すことができます。核融合エネルギーは、主に海水やトリチウムによって作られ、次世代の夢のエネルギーといわれています。核分裂によってエネルギーが作られる原子力発電では、放射能レベルの非常に高い放射性廃棄物(核のゴミ)が出ます。人に影響を与えないレベルに抑えるまで10万年隔離しなければいけないという処理問題があります。その点、核融合炉から出される放射性廃棄物の毒性は100年で100万分の1になり、減容年数がぐんと圧縮されます。
核融合実験炉の実現は、一国でできるものではなく、国際共同研究のもと、超大型国際プロジェクトとして進められています。「ITER(イーター)計画」という名で、1985年にジュネーヴで開かれた米ソ首脳会談をきっかけにスタートしました。対立する大国同士が技術開発で協力し合おうと、国際チームが中心となり始まったのです。ITER計画は2025年の運転開始を目指し、日本、欧州、アメリカ、ロシア、韓国、中国、インドにより進められています。
いま、ウクライナ危機により、欧米諸国とロシアの対立が深まっています。原油や天然ガスの供給を止めたり、ウクライナの原発がロシアの攻撃対象になっています。その一方で、各国が技術を提供し合って核融合実験炉を共同で組み立てている事実を知るということ自体が、国際協調への強いメッセージ性があると思います。
日本では、茨城県那珂(なか)市にある量子科学技術研究開発機構・那珂研究所(旧・那珂核融合研究所)で研究開発が進められています。日本にとって核はセンシティブなテーマ。理解を深めてもらうため、この研究所では1人からでも見学を受け付けています。研究開発費には限りがありますし、世間の関心が低いと、こうした分野の研究継続は難しくなります。福島の事故が起きるまで、原発について深く知ろうとしてこなかった反省も込めて、新しいエネルギーに関して、その恩恵に与るだけでなく、どういう使い方、リスクや効果があるのか、いまから関心を持ち、皆で見守れたらと思います。
堀 潤 ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。
※『anan』2022年5月18日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)