社会のじかん

ここで諦めたら世界は破綻? 「SDGsの今」を堀潤が解説!

ライフスタイル
2022.03.26
2015年の国連サミットで採択され、2030年のゴールまでちょうど折り返し地点の今、SDGsは本当に正しく浸透してる? 本誌連載「社会のじかん」の堀潤&五月女ケイ子が、持続可能で、課題のない未来実現のために大切なことを考えます!
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国連サミットで「誰ひとり取り残さない」ことを誓い、SDGsが採択されたのが2015年。17の持続可能な開発目標を掲げて、2030年までに達成することを目指しています。しかし、残り8年となった今、実際はどこまで実現できているのか。

「SDGsという言葉は世の中に着実に浸透して、“何かしなければ”という意識は広まったと思いますが、実際に行動や社会に変化が起きているかというと、そこにはまだ至っていないですね」と、堀潤さん。

環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんら若い世代は、大人たちは言い訳ばかりで何も行動に移していない。今すぐ行動を、と強い口調で訴え続けています。

堀さんは、SDGsの一部の目標に注意するだけにとどまり、全体を見渡すことや本来の目的にまで思いが届いてないのではないかと心配しています。

日本の現状は? いま私たちが知るべきこと、やらなければいけないことは? 五月女ケイ子さんを聞き手に、2022年、SDGsの今を堀さんに解説していただきました。

番号はあくまで入り口。そこに囚われないで。

――SDGsの目標期限は2030年です。あと8年で達成できるのでしょうか?

17の目標(ゴール)には、さらに169の細かな指標(ターゲット)があるんですよ。

――えー! 宿題が多すぎます。夏休み最終日の小学生みたいな気持ち。間に合うのか心配になっちゃいます…。

皆さんが、すべての目標を達成しようとする必要はないんです。17の番号はあくまでも“入り口”。気になった項目を見つけて、そこから考えてみませんか? という提案なんですね。平和に関心があるから16の「平和と公正」から始めてみようとか、LGBTQの友達がいるから5の「ジェンダー平等」から考えてみようとか。ただ、企業を見ていると、「私たちは環境にコミットしています。ただし、人権問題に関しては政治問題に絡むのでノーコメントです」とか、「飢餓をなくそう」というキャンペーンに賛同しているのに、社員の賃金を上げることには及び腰だったり…というのが気になります。

――ある項目を頑張って解決しようとすると、別の項目が解決できなくなるってことですか?

いえ、その逆です。社会問題は、根本の原因を探っていくと、環境も人権も平和もジェンダーも皆絡み合っているんです。たとえば、貧困問題を例に挙げると、原因はいくつも考えられます。お金を稼ぐための知識や技術がない→4「教育をみんなに」。男女で賃金差がある→5「ジェンダー平等」。災害に見舞われて食糧が生産できない→13「気候変動」。戦争が続いていて働けない→16「平和と公正」。搾取される側にいる→17「パートナーシップで目標を達成」。このように、ある問題は他の多岐にわたる項目とつながっているので、それらを解決することでようやく改善できます。SDGsの目標は、そんな巧みな設計になっているんですね。

――なるほど! どこから始めてもいい理由が、よくわかりました。

SDGsという言葉は広まりましたし、掲げる企業も増えました。でも、SDGsを知っているだけでは問題解決にはなりません。グレタさんが大人たちのお尻を叩いているように、実際に行動を変えていかなければなりません。国連はSDGsのゴール達成を呼びかけていますが、皮肉なことに戦争や紛争、環境汚染に歯止めがかからない状態。飢餓人口の増加も深刻になっています。ここで諦めたら世界は破綻してしまいます。諦めずに問題解決に向かえば、未来に希望はあるかもしれない。その瀬戸際に立たされています。

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――SDGsというと、どうしても“=環境問題”というイメージが強いです。

そうですね。企業などではそのテーマが一番謳いやすいのだと思います。環境問題の解決法は、石炭火力をやめてCO2を減らすことと思われるかもしれません。もちろんそれは大切なことですが、環境を汚染しているのは石炭だけではありません。戦争によって、モノが破壊されて土壌が汚染されたり、原発事故により放射線物質で汚染されることも。経済成長のために過剰な開発を進めて、汚染水が排出されるというケースもあります。SDGsは「森を再生させよう」「CO2を削減」「ペットボトルをやめてマイボトルに」ということにとどまりがちですが、本を正せば、戦争を起こす政治の対立や民族紛争、人権侵害や貧困格差も原因にある。そこにも目を向けて解決していかないといけないと思います。でも、中国の新疆ウイグル自治区の人権侵害問題があっても日本の企業は、政治的な問題に関わるからと触れないようにしているところが多いですね…。

――企業が政治的な発言を避けるのはどうしてですか?

問題になっている国とのビジネスができなくなるかもしれないとか、政治色がつくと商品を買ってもらえなくなるのではないか、という心配があるのかもしれません。ただ、欧米では、ウイグル問題が明らかになったときに、いち早くアディダスが「(ウイグル自治区の強制労働に関わっていないか)うちのサプライチェーンを見直します」と発表し、それに多くの企業が続きました。一方、テスラは「中国の市場は大事なので、ウイグル自治区にショールームを作ります」と対抗。このように、欧米では企業のスタンスを明確にすることが、信頼や価値を得ると考えられていますね。

――SDGsが目標達成から遅れている理由は何ですか?

いくつか考えられますが、日本の場合、企業がまだこれをビジネスチャンスと思えていないことが大きい気がします。ただ、ESG投資といって、環境や人権に感度の高い企業にしか投資をしないという潮流ができてきているので、欧米諸国にならい、日本の企業も次第に関心が向くようになりました。Appleが「環境に負荷をかけている企業とは取引を見直す」と発表したことで、その動きは加速しています。たとえば、日本の電力は火力発電がベースになっていますが、「再生可能エネルギーを増やしてほしい」と企業が政府に陳情し始めているんですね。

――日本は、課題のなかでもジェンダー問題が遅れていると聞きますが、どうでしょう?

ジェンダー関連では、国会議員に占める女性議員の比率が世界平均は25.5%、日本はいまだ9.9%です。参議院は22.6%ですが、衆議院は圧倒的に少ない。世界経済フォーラムでのジェンダー・ギャップ指数ランキングで、日本は2021年では156か国中120位です。政治分野では、“各政党はジェンダーに配慮する目標を作る”という法律が作られて、選挙のときに、男女の候補者数ができるだけ均等になるよう目指す、という合意をとりつけました。罰則規定はないので、すぐには実現しないかもしれませんが、大きな変化ではありますね。

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堀 潤さん 1977年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。NHKアナウンサーを経て2013年独立。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)に出演中。著書に『わたしは分断を許さない』(実業之日本社)。

五月女ケイ子さん 1974年生まれ、山口県出身。イラストレーター。『親バカ本』(マガジンハウス)、『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)ほか著書多数。2018年には台湾にて展覧会「五月女桂子的逆襲」を開催。LINEスタンプ「淑女のご挨拶」も大好評。

※『anan』2022年3月30日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 取材、文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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