社会のじかん

ノーベル委員会の思い切った判断だった? 「2021年ノーベル賞」を振り返る

ライフスタイル
2021.12.11
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「2021年のノーベル賞」です。

受賞を通して世界の社会問題にぜひ目を向けて。

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12月10日にノーベル賞の授賞式が開催されます。今年のノーベル物理学賞は、アメリカ・プリンストン大学の真鍋淑郎さんら3名が受賞しました。真鍋さんは気候変動の研究をしており、二酸化炭素による地球温暖化の現象を50年以上前に予測していました。

今回、真鍋さんのお名前を初めて知った人は多かったと思います。なぜなら、日本出身ですが、アメリカ国籍の方だからです。1967年に、世界で初めて大型のコンピューターを使い、二酸化炭素の濃度が2倍になると、地球の平均気温が2.36°C上がるという計算をしました。東京大学に在籍していましたが、日本では気象の研究をしていても働く場所がなく、「あなたの研究は未来につながる」とアメリカに招かれて渡米しました。会見では国籍をアメリカに変えた理由について、日本の同調を求める風潮が苦手だったと語っておられました。周囲から特異に思われようと、淡々と独自の研究を積み重ねることが結果につながります。今回の受賞は、日本国内の研究現場の課題を浮き彫りにしたと思います。

平和賞は、フィリピンのマリア・レッサさんとロシアのドミトリー・ムラトフさんが受賞。ジャーナリストにノーベル平和賞が贈られるのは、86年前のドイツのカール・フォン・オシエツキーさん以来でした。フィリピンのドゥテルテ政権、ロシアのプーチン政権下で表現の自由のために闘うジャーナリストに賞を授与したということは、現役の国家首脳に対して圧力をかけたということですから、ノーベル委員会は思い切った判断をしたと思います。

この数年間にも、たくさんのジャーナリストが殺害、勾留されました。パナマ文書報道に参加していた女性記者のダフネ・カルアナガリチアさんはマルタで爆死。サウジアラビアの反体制記者ジャマル・カショギさんはトルコのサウジアラビア総領事館で殺されました。6月には香港の『蘋果日報』が休刊に追い込まれ、事業者は国家安全維持法違反で逮捕されました。いま世界で再び、言論の弾圧が広がっているということを実感させられます。今年は、これまで以上に社会課題に目が向けられたノーベル賞だったと思います。

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堀 潤 ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。

※『anan』2021年12月15日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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