恋愛とは会話である。(三島有紀子)
友達や職場の人など、会話は人とコミュニケーションをとるための手段の一つではあるが、とくに恋愛においては、その意味合いなどほかとは異なるところがあるのだろうか。映画監督の三島有紀子さんに伺うと、
「例えば友達なら、相手をそこまで意識していなくても、その場の会話を楽しめると思うんです。それこそケーキを食べながらでも、何を話しているのかだいたい通じ合えるくらいに。一方、恋愛での会話は、相手ときちんと向き合い、観察しながら話したほうがいいというイメージです。それは会話というより、1対1の個で行う“対話”のようなもの。言葉だけでなく、目の前にいる人の表情や声のトーン、息遣いなどすべてを感じる。それが恋愛における会話だと思います」
そのなかから“発見”が生まれやすいのも、恋愛における会話の醍醐味とも。
「それほど相手としっかり向き合い、会話を重ねていれば、その人の深い部分がだんだん見えてきますよね。例えば一緒に映画を観に行って感想を話し合うと、相手がどういうところに反応するのかがわかり、そこから相手の価値観や、普段考えていることが見えてくる。つまり、会話の先にあるのは“発見”です。相手のことはもとより、『私はこんな言葉を使うんだ』など、それまで気づかなかった自分の一面を知ることもあると思います。確かボブ・ディランの言葉に『人は本当は男や女を探し求めているわけじゃなくて、自分の内側に潜んでいるものを目覚めさせてくれる人を探しているんだ』という一節があったと思いますが、他者によって潜在的な何かが引き出されることを、誰しもどこかで期待しているのではないでしょうか。その可能性を多く含んでいるのが、恋愛なのでは」
こうして会話を深めていくなかで、相手との違いに気づくこともあると思うが、一致しないからその人とは合わない、ということではないという。
「同じものを食べても、自分はおいしいと言って、相手はおいしくないと言うこともあると思います。そこに決定的な相容れなさを感じるなら話は別ですが、そうでないなら、相手の好き嫌いが知れるというポジティブな経験になる。そんなふうに体験や時間、空間を共有することで関係性は育まれていく。むしろ会話の内容は、その時に目にしたものなど何でもいいと思うんです。好きな人とふたりで集えば、他愛のない話でいつまでも盛り上がっていられる。それって人間に与えられた、すばらしい文化ですよね。そして一緒にいるだけで楽しいなら無理に話さなくてもいいという関係になっていくのも美しい。そういう人こそ、長く付き合える自分にとって本当にいい相手だと思います」
恋愛会話基本の心得
自分にとって幸せな恋愛につなげるにはどんな会話を意識するといいのか、まずはそのベースとなる心得を紹介。相手への関心と少しの勇気がポイントに。
心得その1:恋愛相手であると認識してもらう。
相手と楽しく会話ができたとしても、それが世間話レベルでは恋愛は始まらない。
「そこから一歩踏み込むには、“温度感”のある会話を心がけるといいと思います。例えば、理想のデートなど恋愛にまつわる空想の話は、相手が恋愛対象であるという意識の変化につながりやすいんです」(恋愛ジャーナリスト・おおしまりえさん)
心得その2:「決めつけ」「値踏み」、自分がされて嫌なことはしない。
「相手との精神的な境界線を不用意に越えないこと。とくに人格を決めつけるような発言はNG。自分がされて嫌なことと置き換えて考えると明白です」(おおしまさん)
「相手は自分に相応しいのか、値踏みするような会話も男性が引く一因。自分を大事にするのはいいのですが、人間関係は半々。お互いに尊重を」(漫画家・山田玲司さん)
心得その3:自分で自分を説明できるようにする。
いい恋愛をするためには、自分という人間を相手に理解してもらうことが大切。
「そこで身につけたいのが、自分が感じたことや考えを言語化するスキル。感情が動いた時、どうしてそう感じたのか。また、映画の感想などでも何が自分の心を動かしたのか説明できると、本当の意味で自分を知ってもらえるように」(おおしまさん)
心得その4:相手の物事のとらえ方がわかる質問を心がける。
長く付き合える相手を探すなら、表面的ではなく、深い部分を知りたいところ。
「まずは相手の話に興味を持ち、例えばキャンプが趣味と言われたら、キャンプをするとどんな気持ちになるのかなど価値観に触れる質問をしてみて。共感できれば盛り上がれるし、できなくても視点が面白ければ、魅力に感じるはず」(おおしまさん)
心得その5:恋愛関係に踏み込む勇気を持つ。
「傷つきたくない気持ちから、好意を見せるのが怖いという人もいると思いますが、それではいつまでも友達止まり。相手の素敵なところを褒めるなど、ラフな内容でいいので好意を伝えられると、恋愛の可能性が広がります」(おおしまさん)
「好意を見せると、自分から相手を選べる立場になれますよ」(山田さん)
心得その6:ダメだったらあきらめる。
「自分と置き換えて考えてみると、気のない相手からアプローチされても面倒なだけですよね。あまりにリアクションが薄い場合は、引くのが賢明かも」(山田さん)
「相手の価値観で相容れない部分は、見なかったふりをせず、早めに見切りをつけたほうが効率的。無理して付き合っても、あとあと問題に」(おおしまさん)
みしま・ゆきこ 1969年生まれ、大阪府出身。映画監督。12人の映像監督による12本の短編映画製作プロジェクト「DIVOC‐12」に参加。短編映画『よろこびのうたOde to Joy』が今秋公開予定。
おおしまりえ 恋愛ジャーナリスト、漫画家。自分にとってベストな相手と関係性を深めるためのコミュニケーション法を提唱。「ananweb」でもコラムを執筆中。著書は『デキたら婚 ダンナより先に子どもが欲しい』(小学館)。
山田玲司 漫画家、恋愛コンサルタント。代表作は『Bバージン』(小学館)、『モテない女は罪である』(大和書房)など。TOKYO FMの音声サービス「AuDee」にて恋愛大肯定プログラム『山田玲司とバグラビッツ』が配信中。
※『anan』2021年8月25日号より。イラスト・momokoharada 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)