「パエリアは基本的にお米を食べるものだと思ってます。どれだけごはんに出汁を吸わせておいしいお米に仕上げるかが要で」。’23年10月にオープンしたスペイン料理店『コングスト』のオーナーシェフ・坂田慎吾さんは言う。コース料理の〆に登場する魚介のパエリアは具材が一切見当たらない。潔いまでのお米へのフォーカスだ。「この料理の名前は厳密にはアロスアバンダ。“お米は別に”という意味で、魚の煮込みを食べた後に残った出汁でお米を炊いたのが始まり。うちでは他の料理で使った魚の、骨や頭などで出汁を取ります」。魚介の旨味にパプリカパウダーの奥行きある香りをたっぷり纏い絶妙にお焦げの風味が広がるパエリアは、コースが終盤であることも忘れさせる魅惑の仕上がり。坂田さんの郷土料理愛が伝わる逸品だ。
とはいえクラシカルなお皿だけでなく、オリジナルなツイストが効いたお料理も続々現れるのが『コングスト』のコースだ。ピキージョピーマンの詰め物はタラの塩漬けを用いる印象が真っ先に浮かぶが、この日は馬肉を詰め、馬肉のコンソメに浮かべた凛とした姿が印象的。鎌倉『アンチョア』、銀座『スリオラ』、神楽坂『エルプルポ』など、郷土料理からハイエンドなレストラン、人気のバルまで、スペイン料理を一本貫きながらも多種多様な食の風景に出会った集積が、坂田さんの今の料理を輝かせている。
コース(8800円)より、右・ピキージョピーマンの詰め物(単品900円※中身によって変更あり)、左・魚介のパエリア(2人前3000円~)はパスタを使ったパエリア「フィデウア」を選択することもできる。遅めの時間は、アラカルトでの注文も可能。ドリンクはチャコリ(900円)。
コングスト 東京都中央区日本橋小網町16‐19 大都ビル1F TEL:070・1247・2468 18:00~23:00 月曜休、不定休 予約は電話またはインスタ(@congusto_nihombashi)で。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)など。
※『anan』2023年1月3日‐10日合併号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)