エリイ
アーティスト。2005年、6人組アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom」を結成。社会問題にユーモラスかつ独自視点で介入し、さまざまなプロジェクトを実践。著書に『はい、こんにちは─Chim↑Pomエリイの生活と意見─』(新潮社)。
ゆっきゅん
1995年生まれ、岡山県出身。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」を開始。EP『OVER THE AURORA』が配信中。映画パンフレットへの寄稿、アイドルへの詞提供などマルチに活躍する。
世界観の強度、それは“心”じゃん
エリイさんとは最初の出会いから、もうヤバいエピソードが多すぎで。出会いの時期から、二人の記憶に食い違いがありましたよね(笑)。
私が「2年前だよね?」って言ったら「1年前です」って。両者一歩も譲らぬ時間感覚。そのあと真剣に考えたけど、1年前だった。
そうです(笑)。でも、エリイさんの存在が強烈だから、私も緻密な時間軸がバグったのかとも思って。それくらいインパクトがありました。あとはお花見。
人生で息を吸うようにお花見をしてるから、どのお花見かわかんなくなるよね。
でもゆっきゅんと会った時のお花見はよく覚えてるよ。
あの時もエリイさんはお花見を3つぐらいハシゴしてました。それでエリイさんは急に「ゲームを20年ぶりにやるんだ」って隣の桜の木の下に一人で座って、ゲームに没頭してたんですよ。充電が切れるまでやっていて「あれ、みんなは?」みたいな。
ね。私、春夏秋冬、超大好きなんだ。季節の行事って体感あっていいよね。
桜が咲いてるだけで「マジ感謝」みたいな気持ち。花を見ながら飲むとか最高すぎる。
冬はスキー。全部楽しい。何かに感動したい、何かやりたい、みたいな気持ちが強いんだ。
私は毎日、結局何もできなかったなと思って過ごしてます。
そう? この前ライブ拝見したけど、振り付けの腰の動きとかすごくて、何かしてないとあのクオリティは出せないと思ったよ。
ありがとうございます! ダンスは練習で習得できますけど、私の「動き」は「元来の気持ち悪さ」で、練習とかじゃないんです。自分でもどうなってるかよくわかってないっていう。でも、こう魅せたいという意識はあるんです。誰にも妥協を許さない姿勢でやっていますが、最終的には結構笑ってほしいんですよ。
なんかね、周りのみんなに愛されてる感じがした。ゆっきゅんの世界観にみんな惚れてるんだよ。世界観の強度、それは「心」じゃん。心の機微をすくって、ブレずにあの表現ができてるんだね。
’90年代の渋谷とTKが生んだDIVAたち
青春時代に「この人の存在が特別だった」と感じるDIVAはいましたか?
やっぱり安室奈美恵ちゃん。奈美恵のことを常に考えてた。TK(小室哲哉)ミュージックは走馬灯のように思い出すから、外せないな。
私、世代が下なのでリアルタイムではないんですよ。globeは4年前くらいに聴き出してハマりました。声とサウンドはもちろん、歌詞も好きなんですよね。
TKが他の人に提供した曲よりちょっと歌詞が大人だよね。
わかる。深刻な歌声で歌われると、泣けてくるんですよね。あんな深刻に「キーホルダー」って発音した人、この世にいない。
めちゃ大事。かわいいし。TKワークスの中ではやっぱりglobeが一番ですか?
globeがとっても大好き。TKの他の曲と比べると、globeは少し変じゃん? 曲調が好きなんだよね。もちろん、安室ちゃんも超歌ってたよ。
超世代! 10代の時センター街とか、ずっとTKの曲流れてたよ。安室ちゃんはちょっと上の「憧れのお姉さん」みたいな感じ。
今振り返ると、あの時間だけが超特別だったと思う。自分が若いからと思ってたんだけど、時代がやっぱりすごかったんだと思う。
なんだろ。ネットもなかったから文字文化なんだよね。若い子たちのプリクラとかポケベルの番号を集めてるおじさんとかがいて、カラコ(カラーコピー)して売ってて、出会い系のはしりだよね。
マジで不思議です。私はスマホとともに東京に来たので、すべてが未知の世界。
本当に地図なしでどうやって暮らしてたんだろ。待ち合わせとかは案外上手くいってた気がする。
何をしてるとかじゃなくて、ただただ溜まってる、みたいな。センター街のファーストキッチン前で。私は一人でいたかな。
最高。それってもう「SWEET 19 BLUES」じゃないですか!
たしかに。ため息をついてたかはわかんないけど。でもクラブとかも一人で行ってたな。
好きすぎます! 私やっぱり孤独な人の匂いに敏感なのかも。
学校行事で人生を変えた人はかっこいい
高1ぐらいに美術予備校に通い始めたんだよね。現代美術は知らなかったけど、絵は好きだったんだ。
高校の美術選択の授業で先生が「横浜トリエンナーレ2001」に連れてってくれて、「何コレ」みたいな。普段私が考えていることがお金になるんだと思って。
エリイさん、やっぱり真面目。学校の行事で人生を変えられてるって超かっこいいです。全部の機会を無駄にしない。そういうの適当にやり過ごす人も多いから。
使った時間や体験を回収したい気持ちはある。違う環境だったとしても創作してるはず。美術は生まれた時から好きだったな。その先生とは今でも仲良しで、展覧会に来てくれて嬉しい。
大切な先生に出会えるかどうかって、でかいですよね。
メンバーもそうだし、私は人との出会いが鍵。マジで感謝。あと精神的にも知識的にも、考えの幅とか態度でも、自分より強い存在がいると助かる。
昔は「私が寝ている間にも安室ちゃんはダンスを練習してる…」、みたいな感じで、ベッドでゴロゴロしてた。
最後のライブ、日本で観るのはなんか癪で、中国まで奈美恵のライブに行ったのが珍道中だった。チケット取るところから。また話したい。
わざわざ海外なのヤバい。ていうか今さらですけど、私の中のギャルのイメージって、エリイさんなんですよ。会田誠さんと一緒に表紙に出ていた2008年の『美術手帖』で初めてエリイさんのことを知ったんですけど、私の中で見た目も喋りもギャルといえばエリイさん。
真のギャルは渡辺かおるちゃん。山田さゆきちゃんと青木のあちゃんも可愛い。
元eggモデルだよ。あの頃は『egg』とか『ストニュー』(『東京ストリートニュース!』)とか、高校生が出てる雑誌がめっちゃあったんだよね。「自分最高」って言ってたまみちゃんは元気かな。
もはやググれない情報…。『ストニュー』のバックナンバーを探すしかない。
ネット以前の出来事だからさ、概念の宝箱で、時代の転換期が雑誌に詰め込まれていた。文章も濃かったな~。
アートで釣り上げた“思考”は未来まで残る
さっき、聖書を読んでて、「時は満ち、神の国は近づいた」って。
書き手も2026年の読者は想定してないですもんね。エリイさん、結構古典も読んでる印象。
そう、紀元前はグッとくるなあ。書き残してくれてマジでありがとうだし、今も昔もあんまり変わることってないなって思う。飯うまいとか、あの人好きとか。
今から2000年後もそんなに変わらないんでしょうか?
環境破壊もあるし、文化が生きられないかも。でも、本とかがそんな過酷な状況下で土から掘られて希望になることもある。
アートの2000年後がどうなっているかとか、考えます?
人間が生き延びられるような環境だったらいけるのかな。Chim↑Pom from Smappa!Groupの作品で考えたら、環境が保たれたら200年~500年以上は残ると思う。思考はもっと残ると思う。
エリイさんが作品で残しているのは「思考」ってことですか?
残したいとか残したくないとかいうよりも、残るだろうな、って感じ。
そうだね。必然的に残らざるを得ないだろう、みたいな。
ずっと考えていたことを掴む感じかな。たまたま川に魚がいて、あれを捕まえたいなぁと思ったものを釣るの。
「あれ釣りたい」っていうのを仲間に伝えたりもある。協力して引っ張って、釣れたら今度はどう調理するか考える。生か焼くか煮るか。
今、結成21年目なんだけど、うちはメンバーが6人いるから、今まで私はどこか漂う空気みたいな気持ちでやってたんだよね。
いや、私がいなくても全然いけるっしょ、みたいな気持ちはあったんだけど、この間、結構制作を頑張ったわけ。そしたら、超いいじゃんってなって。私ももっとやったほうがいいなと思った。
✍️ ゆっきゅんのまとめ
人に疑いを持たせない自分にとっての真実
エリイさんをまだ写真や映像でしか見たことがなかったときから、迷いのなさ、淀みのなさ、揺るがない確信を持った瞳をした人だと思っていて、その印象は著書『はい、こんにちは』を読んでさらに強まりました。
異なる者たちとの対話に開かれた姿勢を持ちつつも、自分の発言や思考が自分にとっての真実であるってことに、疑いを持たせないような強さがありました。もちろん迷いや悩みや揺らぎがない人間なんていないでしょうから、エリイさんの中ではっきりしていることについて発信すると決めているってことなのかもしれません。
文章を読んでいても、大きく目を開いて、こちらの目を見て力強く話しかけてくる様子が想像できたのですが、対談でも予想通りでした。討論でもないのに一匹狼感があって、さすが’90年代のセンター街にいつも一人で行ってた人だなと感銘を受けました。数年前にエリイさんのインスタライブを見たことがあって、「好きな食べ物はなんですか?」とフォロワーに質問されて「寿司と焼肉はー、毎日食べてるー!」と言っていたのが忘れられません。
嘘だろと思うけど、エリイさんに確認したら否定していなかったので、やっぱり寿司と焼肉を毎日食べているのかもしれない。コロナ禍のインスタライブで誰も外に出ていない時期には「外に出たい。だって私はピンヒールが履きたい。早くヒールを履いて街を歩きたい」と、当時の空気の中では聞いたことがない不満を発信していました。エリイさんのそういった孤高と喋り方が、私にとってギャルなのです。
そう伝えたら「本当のギャルは渡辺かおるちゃんだよ」と言われました。世代の違う私は「わたなべ、かおる、ちゃん…?」と首を傾げましたが、「ゆっきゅんにあの頃の本当のギャルを見せたい」と言ってくれて、対談後日、年末に国立国会図書館で「あの頃のストニュー(『東京ストリートニュース!』)とeggを読む会」が開催されました。
ストニューとは、’90年代当時の関東近郊のイケてる素人高校生が載っている雑誌で、eggは’90年代半ばに誕生したギャル雑誌(読んでみると下ネタばっかりでびっくり!)です。リバイバルされているY2Kの元ネタっぽいものから本当に失われた文化まで、雑誌の時代の情報過多なギャルパワーに圧倒されました。「エリイさんは載らなかったんですか?」と尋ねたら「学校禁止されてたから」と言っていたのもなんかカッコよかったです。