澤部渡
さわべ・わたる 1987年生まれ。2006年、「スカート」名義でソロプロジェクトをスタート。スカートCDデビュー15周年記念スーパーライヴ「超ウルトラハイパーウキウキスペシャル優勝パレード2025」が12月14日、Zepp Shinjukuで開催される。
ゆっきゅん
1995年生まれ、岡山県出身。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」を開始。EP『OVER THE AURORA』が配信中。映画パンフレットへの寄稿、アイドルへの詞提供などマルチに活躍する。
人生が大きく変わった藤井隆さんとの共演
澤部さんとはこれまでご挨拶する機会はあったけど、こうやってじっくりお話しするのは初めてですよね。
僕の中でDIVAの概念は、コロナ禍に『ル・ポールのドラァグ・レース』を観て整ったという感じなんです。そのホットな時期にゆっきゅんの存在も知りました。あの時、「白湯もDIVA」と歌ってくれていたのは大きかったです。自分のDIVA解釈がより明確になったというか。
ドリンクバーで白湯を飲む選択をしてもいいっていう。
自分の自由の範囲を広げるのがDIVAなのだなと思いました。
そうなんですよ。では歌手で好きなDIVAはいましたか?
振り返ると、自分の人生にあまりDIVAという存在はいなかったんです。子どもの頃、プリンセス プリンセスやLINDBERGは好きでしたが、バンドだから歌姫という感じでもないし。父の影響で山口百恵さんを聴いていたからそれが原体験か? とかいろいろ考えてみたんですけど、今回改めてDIVAについて妻と話し合った結果…、私のDIVAは藤井隆さんでは? という結論に至りまして。
わかります! そして私も澤部さんが作詞作曲された藤井さんの楽曲「踊りたい」大好きです!
ありがとうございます。本当に藤井さん最高ですよね! ライブのMCの煽りも、DIVAにしかできない立ち居振る舞いというか、熱狂してしまいます。
tofubeatsさんのライブゲストでそれぞれ出ていて、ご挨拶して帰ろうかなと思っていたところ、藤井さんの楽曲「未確認飛行体」のバックダンサーをする流れになって(笑)。あれは自分の殻を破ったという意味で、僕の人生が大きく変わった瞬間でした。
澤部さんの“DIVAポイント”ですね。やはり藤井さんすごい!
どうやったらあんなに軽やかに、上品に狂ったことができるんだろう。ああなりたいです。芸人としても最高ですしね。
芸人DIVA! 私にとっては藤井さんとともに黒沢かずこさんも憧れの存在なんです。
僕も大好き! 同じイベントに出たことがあるんですけど、完全に場を掌握するDIVAでした。
素敵なDIVAの洗礼をしっかり浴びているじゃないですか!
僕もいつかDIVAのように誇らしい自分を手に入れたい!
カバー曲は歌の解釈をそのまま塗り替える力がある
最近、私はカバー・トリビュートアルバムを偏愛してきたことに気づいたんです。たとえば松本隆さん作詞の有名歌も新譜で聴いていた世代ではないから、カバーからの入りが多くて。「木綿のハンカチーフ」は椎名林檎さんの歌で聴いていたり。そして不思議と、歌うとちゃんとその人の歌になってるんですよね。
みんなの知ってる歌の解釈がそのまま塗り替えられる体験ですよね、わかる気がします。
以前、松本隆さんの作詞活動50周年記念コンサートで、吉田美奈子さんが「瑠璃色の地球」を歌われていたんです。松田聖子さんの歌が「燈台の立つ岬で暗い海を見ていた」人物側だとしたら、美奈子さんはむしろ「瑠璃色の地球」側。つまり、包み込んでいる大地そのものに感じました。
歌い手がどう表現するかによって、聴く方の意識や歌詞の捉え方もまた変わってきますよね。
なんかもう、宇宙を感じましたよ。本当にすごい体験でした。
これまでほかには、どんなカバー曲を聴いてきましたか?
今年の夏は「なごり雪」ばかり聴いていたんですよ。その中で改めて「ふざけすぎた季節」という歌詞にグッときてしまって。イルカさんが有名だけど、これももともとは伊勢正三さんが手掛けたかぐや姫の曲ですよね。ほかに、鬼束ちひろさんや八代亜紀さんもカバーされています。私はこの夏、ひたすらJUJUさんのカバーを聴いていました。
それに、歌手のトリビュートアルバムを勝手に考えるのが好きなんです。誰が何を歌うか。
ちなみに、近年いいトリビュートアルバムには高確率で坂本美雨さんが参加されている法則に気づきました。TM NETWORKのアルバムでは「TIMEMACHINE」、globeのアルバムでは「Precious Memories」…。今のトリビュートアルバム界で最も注目すべき存在なんです。
なるほど、トリビュートアルバムのバランスを、坂本美雨さんが整えてくれているんですね!
本当そうです。最近、松田聖子さんのトリビュートアルバムも発売されたことで、トリビュート界がますます盛り上がってます。ちなみに、聖子さんのトリビュートアルバムに参加できるなら何を歌いたいですか?
必ず文章を書き終える、それぞれの「約束の丘」
僕の場合、曲もアレンジも完成させてから書き始めることが多いんです。
たまにあります。もとは詞を先に書くほうが得意、というか好きだったんですけど、徐々に変わってきました。
というのも、以前、歌詞を集中的にたくさん書いていた時期は、ちょうどアルバイトをしていた頃で。バイト中に暇な時間がよくあって、そういう時に思いついた言葉を書き連ねておき、後でそれをもとに曲を書いていました。
そうです。今でも言葉を思いついたらメモは取るようにしていて、歌詞を書く時はそこから引っ張ったりしています。
簡単な言葉のヒントはスマホにメモすることもあるけど、1曲全体の歌詞を書く時はノートに手書きをしていますね。
私はいったん一気にノートに書いてみて、最後のまとめる作業はパソコンでしています。たぶん最初の、頭の中が散らかった状態をそのまま勢いで出せるのが、手書きの良さなんでしょうね。
あとデジタルだと消してしまったら思い出せなかったりして、やっぱり手書きだなと。
私、澤部さんの歌詞に出てくる「!」が好きなんです。あれを効果的に使えるのは本当に選ばれた人だと思います。
「!」が入る位置もサビ頭とかではなく、澤部さんらしいタイミングなんですよ。それに言葉として絶対必要な箇所にあるからすごいなと思って。意外と「!」を使う人は少ないし、澤部さんの歌詞の特徴の一つだと思います。
「!」って発音できないし、歌詞で視認しないと伝わらない箇所なんですよね。それは作詞の楽しさでもあって。はじける感じがして、僕は好きなんです。
だから行きつけのロイヤルホストで書いているんです。
ファミレス作詞家だ。私も書き仕事や作詞をする時に行く喫茶店があるんです。そこに行けば書く気になるから、私はそこを「約束の丘」と呼んでいます。
本当の反抗は、ポップスで居場所を作ること
作詞をする時に傍らに漫画があることも多いです。漫画には特有のコマ割りがあるじゃないですか。僕は曲においても、コマを割るようにコードチェンジをしたいと思っているんです。コード進行で一瞬にして曲の景色が変わるのが理想です。
そうですね。物語ももちろん好きなんですけど、どういうふうに目線が移るとか、場面の転換なんかを気にしているかもしれない。漫画がすごく好きなのに自分では描くことはできないから、憧れはすごくあります。そういうものを曲で作れたらいいなって。
実際、一曲の中で風景を描くみたいな試みはよくします。本当は歌詞も物語的に書けたらいいんだけど、いまだにそれは照れくさくて。自分の中では20年経っても変わらないものを書きたい気持ちはあるんですが、それを意識すればするほど、だんだん歌詞が抽象的になっていくんですよね。
でもそれがまさにスカートの楽曲の良さだと思います。
恋愛体質の人だったらストレートに恋愛の歌とか作れるんだろうけど、僕はそうじゃないから。あくまで淡々と風景を描いていくしかないかなと。
たしかに澤部さんの歌詞って「今のストレートな気持ち」というより、過去のことを深く考えてようやく言葉にできたみたいな、自身の感情にも一歩距離を置いた言葉な感じがします。
日記を書いていても「あの時こう思った」と書いていることが多いから、本当にそうかも。
僕は昔からロックが性に合わなくて。中3ぐらいからもうポップスに傾倒していました。本当の反抗は単に「周りの大人なんて信用ならない」と叫ぶことではなく、ポップスを通して自分で居場所を作ることだと思ったんです。
でも当時はサブカルをこじらせてもいたので、流行りのJ-POPにも馴染めなくて。戸川純を聴く青春を選んでいました。
私は2000年代ポップスにセンスを育まれたんですけど、その時代は抜け落ちているんですね。
好きになるのは2000年以前の音楽ばかりだったので、いま思うともったいないことをしました。
大丈夫です、澤部さんの分も、私が聴いておいたので!
✍️ ゆっきゅんのまとめ
他者に見出されることもある美しきDIVANESS
澤部さんと初めて会ったのは2022年冬から2023年秋に、赤坂に伝説的に存在したY2K Music Bar『パシオン・アカサカ』でした。バーとしてだけではなく、TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のライブコーナーの中継スタジオとしても使われていました。私はそのお店でアンバサダーという名の店員を務めていて、澤部さんはラジオに弾き語りで出演するためにその店を訪れてくれたのです。
対談記事には載せきれなかったけど、その店にはオーナーでもあり、アーティストのライブ制作などをしたり、誰かと誰かを繋げたりしている、裏方を超えた黒幕のようなDJの人がいて。その人に提案されて澤部さんは初めて藤井隆さんのライブでダンサーとして踊り、それが人生が大きく変わった“DIVAポイント”だったという話を聞いてハッとしました。
その人は無茶振りをするわけではなく、「やれる」「やったらとてもいい」から提案するわけです。つまりDIVAとしての目覚めは、自分の内側からのみ湧き起こってくるものではないのだと思いました。人に見出されて花咲くDIVANESS…それもまた美しいです。
対談中、私は特に難しい質問や鋭い指摘などをしたつもりは全然なかったのですが、何度も何度も「いや~~難しいんですよね~~」と難しい顔をしていたことが印象に残っています。私だったら素直にヘラヘラと受け止めたり、思ってることだけ言って終わってしまうところでも、澤部さんはきっと自分以外の考えや、自分の中の様々な見解が浮かび上がって、さらに考え続けて、一概には言えないってことになっている事柄が多いのだなと感じました。複雑なままでここに存在してくださってありがとうございますと思いました。スカートの音楽を聴いていると、たしかに、複数の存在が複数のままでいられるように思えます。
そして作詞ノートを対談に持ってきてくださったのは澤部さんが初めてで、私は嬉しくて最高の状態になりました。めっちゃ綺麗なノートで、上から下に一曲の歌詞が書いてあって(もっとメモみたいな段階もあるのかもしれないけど)、たしかにこれはロイヤルホストで書かれるべき作詞ノートだなと感動しました。ノートの直筆文字から時間や空間を想像すると愛おしさが押し寄せてきます。
ちなみに私はとっ散らかった部屋でとっ散らかったノートを書くことがとても多いです。でも澤部さんも部屋にノートを広げられる場所がないからロイホに行っていると言っていて嬉しかったです。私も今度ロイホで作詞しよう。