日々の食卓に登場するスープ。食の原点ともいうべきこのシンプルな料理を通して、現代人が忘れがちな、生きるために必要な原始的な感覚を見つめ直したのが本展だ。
「衣類や住居が身体を外側から包むように、食は身体を内側から包むもの」と考えるのは展覧会ディレクターの遠山夏未。2003年に旅先で出合った一杯のスープをきっかけに、スープが心身を支える最小限の食であることを実感したという。「人は誕生前、胎内で羊水というおいしいスープに包まれていた」という視点も本展の軸となっている。
展覧会は12の動詞をキーワードに展開。宿る、滴る、包まれる、味わうなど受動的な感覚から始まり、次第に他者や社会と関わる能動的な行為を連想する仕組みになっている。なかでも見どころは、「包まれる」ゾーンに登場する大型インスタレーション「はじまりのスープ」だ。空間の中心に、羊水と同じ約0.9%の塩分濃度水を湛えた器を据え、そこに蚕が吐き出す繭の糸を垂らした本作は、まるで胎児がおおらかな鼓動に包まれるような没入感ある作品。サウンドデザイナー岡篤郎による音響と共鳴しながら、かつて羊水というスープに包まれていた記憶を身体で思い起こす神秘的な大作だ。
またISSEY MIYAKE+林響太朗+長尾智子による作品は、陰陽五行説に基づく五味五色の食材から作ったスープとテキスタイルの両方を制作し、同じ食材から生まれる色と味を同時に並べ、視覚化した内容に。他にも、和泉侃(かん)による「香りの記憶装置」では、視覚的なイメージと、ふと鼻をくすぐる香りが重なり合うことで、胎内で嗅いでいたはずの羊水の匂いや、土や灰の匂いを体感することができる。
会場には、展示作品にちなんだスープのレシピも用意。遠山による羊水と同じ濃度を意識した昆布と野菜の出汁スープや、料理家・長尾智子による野菜染めの布と同じ食材で作るポタージュなど、それぞれのレシピを持ち帰ることで、鑑賞後も実際に作ったり味わったり、と体験が広がっていく仕掛けになっている。
一杯のスープに自然の恵みや他者との繋がり、生きる喜びまでもが詰まっていることを改めて実感できる本展。まずは気軽に訪れて、数々のスープに「なんて美味しそう!」と心をときめかせてほしい。
Who’s Natsumi Toyama?
デザイナー。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。イッセイミヤケで衣服のデザインをするかたわら、食は身体を内側から包むものであると考え、最小限の食として“スープ” に着目しケータリングでスープを作るなど身体空間をデザインする活動を始める。著書に『ポタージュ 野菜たっぷり家族のスープ』(池田書店)。
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スープはいのち
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2 東京都港区赤坂9-7-6 3月27日(金)~8月9日(日)10時~19時(入場は閉館の30分前まで) 火曜休(5/5は開館) 一般1600円ほか TEL. 03-3475-2121
anan 2489号(2026年3月25発売)より























