湊かなえさん
次々とヒット作を世に送り、高い評価を得ている湊かなえさん。この5年の間に記憶に深く刻まれた出来事を振り返ってもらった。
5年前といえば、日本もコロナ禍に見舞われ、外出自粛や非接触など規制が厳しかったころ。そんなタイミングで2020年から約2年間、FM大阪のラジオ番組でパーソナリティを務めたのは忘れがたい出来事だという。
── そのラジオ番組で名物企画となったのは、湊さんとリスナーの方々とで短編小説を作るコーナーでしたよね。
最初は自分の声が好きではないのでお断りするつもりだったのですが、コロナ禍の影響でサイン会など、対面のイベントが難しくなりました。新しいことに挑戦してみたいという気持ちと、読者の方と本以外のつながり方ができるのなら楽しそうだと思い、引き受けたんですね。リスナーの方にお題を出して、序章の「あなたとわたしの物語」に続く、原稿用紙5枚、約2000字の短編小説を書いて投稿してもらったんです。その試みには、私も毎回わくわくしていました。
── どんなお題を投げたんですか。
猫と飼い主の生まれ変わりの物語です。2000字ピッタリで書いてくる方もいましたし、だんだん投稿レギュラーになる人も出てきました。作品を講評する立場ではありましたが、みんなで連作短編を作ることを純粋に楽しむ。そんな気持ちでした。ラジオの面白さを感じたのは、偶然がつながっていくことです。
私はSnow Manのラウールくん推しで、娘は阿部亮平くん推し。Snow Manの曲をかけてそんな話をしていたら、ファンの方が今度はSnow Manのラジオ番組に「湊さんがラジオで…」という話を伝えてくれて、コメントをもらったり。こんな交流ができるんだなって。
また、関西発のラジオ番組なのに北海道からメッセージを送ってくれる方もいたし、大阪のサイン会でラジオネームを名乗ってくれた方もいました。コロナ禍だったからこそ、それまでにやったことがない経験ができたなという手応えが生まれました。
2025年、55周年を迎えた雑誌『anan』。anan の YouTube では、誌面を彩ってくださったスターのみなさんに anan の思い出を語っていただく動画を公開中!
── それが2020年、2021年あたりですね。そのあとで印象的だったのは。
私は、新人賞を取った年と単行本が出た年が1年違うんですね。なので、2022年と2023年をデビュー15周年イヤーとしました。文庫版『告白』の新しい幅広帯のイラストを大好きな『呪術廻戦』の芥見下々(あくたみ・げげ)さんに描いていただき、全国の書店さんに店頭陳列コンテストをしてもらって、サイン会ツアーに回ったりと盛りだくさん。読者の方たちと久々に対面でき、再スタートを感じる忘れがたい思い出となりました。
── いま2025年ですが、5年以内に、あるいは5年後の2030年に、やってみたいことは何かありますか。
デビュー10周年のときに、47都道府県を回るサイン会ツアーをやったんです。楽しいイベントは都市部ばかりであるけれど、本好きの人は全国各地にいるぞ、と。車で2時間かけて来ましたと言われたり、私の本は読んだことがないけれどサイン会に興味があるという理由で来て「他の作品も読みます」と買ってくれたり。なので、デビュー20周年イヤーになる2027年、2028年に、またやりたいです。県庁所在地中心だった前回より、さらに田舎を目指すツアーにしたいと思ってます。
── 連載なども続けながら、サイン会で各地を回る……超人的です。
その最中は忙しくて大変だったとは思うのですが、過ぎてしまえば、楽しいことしか覚えていない性分なので(笑)。20周年には「王国」が文庫化されているころだと思うので、『王国』を持って並んでもらえたら嬉しいですね。
── 5月に連載開始した「王国」も、いよいよ佳境に入りつつあります。
せっかくananで連載するので、誌面を飾っているスターやアイドルたちを重ねて読めるようなストーリーがいいなと思いました。男子が団結して目標に向かう話にしようということは最初の段階で決まりましたね。
── 章ごとに、9人の視点人物がリレーしていく形式で書かれていますね。
やはり男の友情の舞台といえば“海”じゃないですか(笑)。自分たちの住んでいる港町を世界中の人が癒しと再生を求めて訪れるような場所にしたい。一人一人が役割を持ち、みんなで力を合わせてプロジェクトを作り上げる。そんなイメージが浮かびました。私自身、学生のときに登山やスキューバダイビングをしたり、青年海外協力隊でトンガ王国に赴任したりした経験もあるんですね。そうした体験から得たエピソードなども盛り込んでいこうと決めました。
── 連載にあたり、取材もされたとか。
ananの編集部にウェルネス・ツーリズムの展示会に申し込みをしてもらい、見学をしてきました。釧路で丹頂鶴を見るための展望台を作って町おこしをしようという観光誘致のブースがあって、そこの方に、どんな条件が必要かとか、第三セクターや役所との連携の仕方とか、すごく丁寧に教えていただきました。自分がそれまでアンテナを張ってないところに取材に行くと、創作の扉が大きく開く感じがします。
── 最後に、「王国」をより楽しむためのアドバイスをお願いします。
すでにお気づきの読者もいると思いますが、登場人物たちの見た目についての描写をほとんど入れていないんです。私の中ではみな一応、思い浮かぶ姿はあって、もちろん私の推しもいます。ただ、外見を描いて、読者の想像を狭めたくないと思ったんです。私も毎月語り手に据えている人物がいちばんの推しになっていますから、読者のみなさんも読んでいるうちに「自分は陽気で元気な男子がタイプだと思ってたけれど、こういう不器用系も案外好きだな」と推しの変化が起きるかもしれません。脳内シアターを存分に楽しんでほしいですね。
information
雑誌『anan』で連載中! 『王国』
白珠湾の海を守る ── 生まれ故郷の白珠湾を愛する母と、国際協力事業団で海を守る父を見て育った浜崎朔也は海洋学部で学び、旅行代理店で経験を積んだのち、満を持してウェルネス・ツーリズム会社「海の王国」を興した。幼い頃からの夢がようやく形になりかけた矢先、悲劇が起きる。
Profile
湊かなえ
みなと・かなえ 1973年、広島県生まれ。デビュー作『告白』で2009年本屋大賞を受賞。2012年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、2016年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。2018年『贖罪』がエドガー賞にノミネートされた。小誌で「王国」を連載中。
anan 2474号(2025年12月3日発売)より
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MAGAZINE マガジン

No.2474掲載
創刊55周年記念号
2025年12月03日発売
黒柳徹子さん、林真理子さん、酒井順子さん、江原啓之さん、SixTONES、Snow Man、岡田准一さん、山田涼介さん、timelesz、乃木坂46、劇場版『名探偵コナン』、ちいかわ、なにわ男子、Travis Japan、Aぇ! group、辻村深月さん、湊かなえさん、青山美智子さん、加藤シゲアキさん、稲垣吾郎さん、中島健人さん、Perfume、小島秀夫さん。伝説の連載、村上春樹さんの「村上ラヂオ」も一号限りで復活。創刊55周年記念号だからこそ叶った、超豪華ラインナップ。最強のときめくスターが大集合した、お祝いムードあふれるまさに日本トレンドの歴史書、永久保存版の一冊です。


























