“F”で始まる3つの展示。堀内作品を探究する。
「堀内さんがデザインしたananやポパイのロゴを駅のキオスクで目にするように、みんなの生活の場でアクティブに生きている作品がある。形を変えて進化し、次の時代につながっていくものもたくさんある。堀内さんの作品のビビッドで現在進行形の輝きを感じてもらえたら」
とキュレーターの林綾野さん。FASHION展では堀内さんが携わった創刊から49号までの『anan』をテーマに、アートディレクターの有山達也さんが展示構成を担当。FANTASY展ではファンタジーの薫り高い9タイトルを選び、一つ一つの世界観を体感できる仕掛けを設置。各界で活躍する100名強が選んだ自身の好きな堀内作品が並ぶFUTURE展には、現代美術家の大竹伸朗、編集者の都築響一、文章家の山崎ナオコーラらが名を連ねる。
「堀内さんは14歳で伊勢丹の宣伝課で働き始め、デザインにとどまらず自分を磨き続けた人。谷川俊太郎さんも『あれほど教養のある人と会ったことない』と話していました。たくさん本を読んで旅をして、絵本を描き、世界はこんなにおもしろいと伝えたくて、ananを作っていたのではないでしょうか」
FANTASY展のゾーンには3mの拡大絵本が並び、1冊ずつのブースを形作る。『雪わたり』では山の中で狐と幻燈を見るシーンにちなんでスライドで絵本の場面を映したり、『くるみわりにんぎょう』ではチャイコフスキーの音楽が流れる中、原画を見たり絵本を読んだり。異なる画風の世界に浸ることができる。
「『雪わたり』を描くときには、実際に長野県へ雪景色をスケッチしに行ったといいます。宮沢賢治のファンタジーの世界を届けるにはどんなタッチや色彩がいいのか、丁寧に考えを重ねて描く。その結果、いろんな画風が生まれたんですね」
絵本の世界をめぐって、最後に広場に出ると高さ3.7mのぐるんぱ像がお出迎え。すっかり子ども心に返ってワクワクしそう。
「あと2つの展覧会でもファンタジーの感覚を味わってもらえると思います。堀内さんは想像することは人間最初の創造行為とも言っています。今はお笑い番組にテロップが出て、笑う場所まで決まっているような時代。いろんな物語と出合い、絵を見ることで自分で感じ、考える力を養えるといいですよね。展覧会の空間で堀内さんの作品と向き合って、感じて、大人たちも空想したり自分の心で感じてもらえたらと思います」
PROFILE プロフィール
お話を伺った方・林 綾野さん
はやし・あやの キュレーター、アートライター。展覧会の企画、美術書の執筆を手がける。2/20刊行予定の本展公式アートブック『世界はこんなに 堀内誠一』(ブルーシープ)で解説を担当。
FASHION展
創刊号から49号までの『anan』が登場。アートディレクターの有山達也さんが約8000ページの中から見どころをセレクト、再構築した壁面展示が圧巻! 1周年記念号のオールページ展示も見逃せない。勢いあるエディトリアル・デザインを体感して。
FASHION展を担当するにあたって、有山達也さんは創刊号から49号までのおよそ8000ページに目を通したという。世界各地でロケを敢行したファッションフォト、新進のカメラマンやイラストレーターたちのチャレンジングな仕事ぶり。賛否両論を巻き起こしたファミリーヌードなど問題作もあまた含まれる中、感じたのはつくり手たちの「熱」。
「インタビューにしても当時の人たちはストレートに答えたし、質問から外れた話もそのまま載せて、そのとき盛り上がった空気や初期衝動を大事にしている。まさにザ・雑誌だなと。その熱がうらやましい」
なかでも注目したのは、7号の冒頭に書かれた“宣言文”。布を身にまとうことだけがおしゃれじゃない、脱ぐこともまたおしゃれ、というセンセーショナルな一文に《リズムをとること、踊ること、話すこと、どんなものをどんな風に食べるかということ、住むこと、旅すること、みんなファッションです》と続く。
「ananをよく表していると思う。ファッションっていうのは着ることだけじゃないっていうこと」
FASHION展ではこの宣言文からとった「身にまとう」「旅する」「踊る」などをキーワードにページをセレクト。実物と最大幅2mの拡大印刷を組み合わせて、壁面いっぱいに展示する。もう一つの目玉は創刊1周年記念号を全ページ、約20mにわたって展示する試みだ。
「タイアップページもそのほかのページと見分けがつかないくらい自由。そういう部分も含めて一冊丸々見せたほうがおもしろい。はちゃめちゃなんだけれど、バランスとかそんなのどうでもいいと思える初期衝動や勢いみたいなところを見てほしい」
最後は堀内さんが携わった雑誌を読めるコーナーも。実は『anan』は日本で最初の大判ビジュアル女性誌のため、輪転機を輸入するところから始まった。紙の雑誌をめくって読む行為自体が減った今、ここでしか見られないアートディレクションがあるといえるかもしれない。
「今の若い人たちが読んでどう思うのか、それを聞いてみたいですね」
PROFILE プロフィール
お話を伺った方・有山達也さん
グラフィックデザイナー。1993年アリヤマデザインストア設立。2002年の創刊から75号まで雑誌『ku:nel』のADを務めた。
FANTASY展
手がけた絵本約70冊の中でも、ファンタジックなテイストの色濃い9冊を紹介。名場面が描かれた大型絵本の森を巡り、音楽、映像の演出とともにたくさんの原画や絵本に触れ、それぞれの世界観に浸って。高さ3.7mの大ぐるんぱ像にも会える。
FUTURE 展
各界のクリエイター100名強が「私の好きな堀内さん」として選んだ作品が一堂に。海外から友人に宛てた絵手紙、パリの手描き地図、最晩年の著作などジャンルはさまざま。現在、そして未来へつながる宝物のような作品と各人のコメントが並ぶ。
PROFILE プロフィール
堀内誠一
ほりうち・せいいち 1932年、東京都生まれ。デザイナー、アートディレクター、絵本作家。『anan』創刊時のアートディレクションを手がけ、ビジュアル雑誌の黄金時代を築く。’58年『くろうまブランキー』を皮切りに70冊を超える絵本を刊行。旅行記などの著書も多数。'87年没。
INFORMATION インフォメーション
堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE
PLAY! MUSEUM 東京都立川市緑町3‐1 GREEN SPRINGS W3棟 2F 開催中~4月6日(日) 10時~17時(土・日・祝日~18時。入場は閉館の30分前まで) 2/16休 一般1800円ほか TEL:042・518・9625