撮影直前に「今日はこっちの気分かも」と衣装を私服のジャケットにチェンジした渡辺大知さん。撮影が始まるとモニターを面白そうに覗き込み、ちょっとファニーな表情を試してみたり。バンドマンであり、俳優としても多面的な魅力を見せる彼。インタビューにも、音楽と映画を好きになった少年がそのまま大人になったんだなあ、という素敵なエピソードが満載です。
――バンドと俳優の両方をこなすのは、スケジュール的にも大変そうです。
渡辺:昨年は4月からドラマ『毒島ゆり子のせきらら日記』が始まって、10月に舞台『かもめ』が始まったんですけど。今回のアルバムはその間の8月にレコーディングしました。実は以前、バンドのことを考えて俳優の仕事は全部断ろう、と決めた時があったんです。でも『バンドのため、と言って俳優をやめないでくれ。今やりたいと思う気持ちがあるんやったらやってくれ』とバンドのメンバーに言われたんです。それで自分自身、ふっきれたところがありました。
――心強いメンバーがいるからこそ役者としても頑張れるんですね。
渡辺:僕の場合は職業としてはバンドマンだと思ってるんですけど。でも活動としてはバンドマンが役者をやっても本屋さんをやっていてもいいと思うんです。音楽以外に興味を持っていたのが映画で、映画がどう成り立っているのか、映画って何なんだ、というのを知りたくて。おこがましいですけど、役者としてオファーしていただいてるから、撮影現場が見られるチャンスだと思って行っているようなところがあって。演技したいと思ったことはあんまりないですし、こんな演技をしたいという欲もそんなにない。感動する映画と、そうじゃない映画の何が違うのかが知りたいというか。
――さっきもカメラマンさんに、「撮られるのが好きというより、どんなふうに撮ってるかを知りたい」っておっしゃってましたね。
渡辺:そうなんですよね(笑)。僕なんて、さっきも言いましたけど、どこにでも転がってる石みたいなもんですよ。だから自分を出したいとか、思ったことない。それは初めて映画『色即ぜねれいしょん』に出させてもらった時からそうで、関わった映画が良い作品になればいいと思って一生懸命やりますけど。いい映画に出合いたいっていうだけなんです。もしかしたら自分が出ることでそれに出合えるかもしれないから。
――音楽と映画には、いつ頃から興味があったんですか。
渡辺:僕の場合は幼い頃から徐々にです。最初は絵本だったり、家で流れていた音楽だったり。そういうものから始まった感じです。
――幼少期に良い絵本や音楽を与えてもらった実感がありますか。
渡辺:そうですね。母親に読み聞かせをしてもらっている風景を今でも覚えているくらい自分にとっては強烈だったのかもしれないです。宮沢賢治とか、今もお母さんの声で蘇るくらい(笑)。特に田島征三さんの絵本が好きで、有名な『ちからたろう』をはじめ全部読んでるんですけど、最初に読んでもらったのは5歳の時。『しばてん』なんて人間の恐ろしい部分が全部出ちゃってるような話で、そういう絵本を子供のうちに読んでおいて良かったなと思います。
――小さい頃から感受性が強かったんですね。
渡辺:そうなんですかね。絵もよく描いていたみたいで、1冊200ページのらくがき帳を1日で全部使ってたっていう話を、つい先日聞きました。親が上手に描いたクワガタムシを見て、何とか自分でもこんなふうに描きたいと。それで近所のコンビニに置いてるらくがき帳だけじゃ足りなくて、電車で都会に出て束で買いに行っていたらしいです。
――すごい!
渡辺:今の僕はクワガタムシを上手に描けるんですけど(笑)、描きたいという欲は大人になったらなくなりました。小説家になりたかった時期もあったし、でも残ったのが音楽と映画だったんです。音楽と初めて出合った時は「これは一生飽きないものを見つけたな」という感覚がしたので、もう変わらないような気がしています。中学生で音楽に出合って、高校生で映画に出合って、“やべえ、好きな人、ふたりできちゃった”と思いましたね(笑)。それで今も、ふたりともにいい顔をして、ふたりともと付き合おうとしているような状態です。
――ということは、今はどちらとも付き合ってないという感覚?
渡辺:今はまだ両方に片想いしている感じです。どちらのことも大好きなんですけど、例えば音楽に俺が愛されるようなところまでは、まだ行けてないですし。いつか両方に自分が愛されるようなことがあるなら、もう死んでもいいくらいのことだと思ってるんで。だから死ぬまで音楽と映画に恋していたいなと思ってます。どっちとも、恋で終わっていいな。だって振り向いてくれないから、追いかけたいし知りたいんですよね。二兎を追う者は一兎をも得ず、って言いますけど、僕は得られなくていい。二兎を追いかけ続けたいです(笑)。
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