対話は悲劇のストッパーになり得るか。予測不能の物語がここから始まる。
「ハードな設定だと言われるのですが、一見真逆の立ち位置に見える被害者と加害者って、実は同じような葛藤を抱えているように思うんです。誰にも自分の気持ちをわかってもらえないとか、居場所がなくて孤立するとか。それでも腹を割って話したら相容れないと思っていた相手を少し理解できたりもするのではないかと。対話せざるを得ないような状況って何かなと考えたとき、共同生活をさせようと思いつきました」
かくて浅賀が集めたルームメイトは、実斗を含めて5人。1巻ではまだルームメイトたちがどんな加害をしたのかの詳細はわからないが、交通事故加害者が交じっているらしいことや、実斗を過剰に敬遠する人間がいることなどは描かれ、今後の伏線がたっぷり詰まっている。
「誰が何をやったのかの秘密を、だいたい1巻につきひとりくらいずつ明かしていく予定です。実斗は、周囲に愛されて何の不自由もなく生きてきた分、甘ったれだろうし心も弱っていると思いますが、彼が恵まれた環境の中で育ててきた優しさとかポテンシャルが、誰かを救うこともあるかも…と期待しています。私自身の過去を振り返って、自分がこうできたらよかったなと思うことを、実斗にしてもらっているというか。あと、この作品は登場人物が多いので、パッと見の造形をなるべく変えるなどの工夫はもちろん、しぐさのクセやポーズもその人らしさが出るように意識していますね。部屋の中の生活感にも“その人”が出ると思うので、背景でも“人”を描くことができたらいいなと思っています」
実斗は亡父が遺した「人との縁を大切にするんだよ」という言葉とどう向き合っていくのか。これが本作の底に流れる大きなテーマだ。
「私自身が父に言われた言葉なんですね。孤独や絶望に囚われてしまいそうなとき、ひとりではないと思えることの安心感があったら、自棄にならないでいられるかもしれません。簡単には答えが出ない重い問いだからこそ、考えるきっかけにしてもらえたらうれしいです」
夕海『ノラの家』1 ルームメイトのバックボーンのみならず、家のオーナー浅賀の真の目的も気になる! 『ヤングアニマルZERO』にて、本作を連載中。待望の2巻は春頃発売の予定。白泉社 715円 ©夕海/白泉社
ゆみ マンガ家。東京都出身。日本大学藝術学部美術学科卒。2015年に講談社にてTHE GATE奨励賞、’16年、ちばてつや賞大賞を受賞しデビュー。
※『anan』2024年3月20日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)