国立新美術館で行われる展覧会「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」をご紹介します。
1990年代の英国美術とその革新の軌跡を辿る
イギリスを代表する美術館のひとつ、テート美術館。同館のコレクションを中心に、当時ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)と呼ばれた若手アーティスト集団や、同時代の作家が1980年代後半から2000年代初頭にかけて制作した英国美術を紹介する展覧会が始まった。
1990年代イギリスの美術が世界的な注目を集めるきっかけとなったのが、「YBA」の躍進。1988年、ロンドンのゴールドスミス・カレッジで学んでいたダミアン・ハーストは、学生や卒業生の作品を発表する展覧会「フリーズ」展を企画し、大成功を収める。1980年代後半の英国は、当時のサッチャー政権が推し進めた新自由主義経済の結果、格差が広がり不安が漂う時代だった。そんな中、若い作家たちは、例えば日常品や廃材、動物標本など作品素材の常識を覆すだけでなく、政権の住宅政策で家を失う人々や未完成の家、広告やファッション、また当時拡大したHIVの感染、自らの性に関してまで、斬新な視点で素材やテーマを選び、発表の機会を積極的に開拓していった。
本展では、それまでの美術の枠組みに疑問を投げかけ、従来とは違った手法での作品制作やインスタレーションを通して時代を切り開いてきた、約60名のアーティストのおよそ100点もの作品を6章に分けて紹介する。フランシス・ベーコンにはじまり、ダミアン・ハースト、ジュリアン・オピー、ヴォルフガング・ティルマンスなど、アート史に残る作家の作品が一堂に会する。
1990年代の英国美術は、社会や音楽、ファッションなどのUKカルチャーのムーブメントとも密接だったため、会場では作品と同時代の出来事も学べる趣向に。各章をつなぐのに重要な作品は「スポットライト」としてピックアップ。インスタレーション作家のコーネリア・パーカーや、映画監督のスティーヴ・マックイーンなど、ジャンルを超えて共鳴するアーティストたちの概念を打ち破る作品は、挑発性や自由さ、そして社会への鋭い視点を感じさせるものばかりだ。
既存の美術の枠を壊すことに全力だったYBA世代。彼らの作品を観れば、社会の矛盾をえぐるリアリティや勢い、反骨精神など、1990年代UKカルチャーの爆発力とともに、無名だった若者たちが、世界を変えようとする熱を感じられるはずだ。
ヴォルフガング・ティルマンス

雑誌『i-D』『ザ・フェイス』でクラブシーンを捉えた写真で注目を集める。/ヴォルフガング・ティルマンス《ザ・コック(キス)》2002年、テート美術館蔵 (C)Wolfgang Tillmans, courtesy of Maureen Paley, London; Galerie Buchholz; David Zwirner, New York

ヴォルフガング・ティルマンス《座るケイト》1996年、テート美術館蔵 (C)Wolfgang Tillmans,courtesy of Maureen Paley, London; Galerie Buchholz; David Zwirner, New York
ダミアン・ハースト

《後天的な回避不能》や薬棚シリーズなど、死と価値を問う挑発的な作品で知られる。/ダミアン・ハースト《後天的な回避不能》1991年、テート美術館蔵 Photographed by Prudence CumingAssociates (C)Damien Hirst andScience Ltd. All rights reserved,DACS/Artimage 2026
ジュリアン・オピー

ブラーのベスト盤アルバムのジャケットデザインで、広告と美術の垣根を越え世界に衝撃を与えた。/ジュリアン・オピー《ゲイリー、ポップスター》1998-99年、テート美術館蔵 (C)Julian Opie
コーネリア・パーカー

日常のものを大量に集め、時に変形させ、天井から吊るすスタイルの彫刻作品などで知られる。/コーネリア・パーカー《コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ》1991年、テート美術館蔵 Photo: Tate (C)Cornelia Parker. Courtesy Frith Street Gallery,London
テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート
国立新美術館 企画展示室2E 東京都港区六本木7-22-2 開催中~5月11日(月)10時~18時(金・土曜は~20時。入場は閉館の30分前まで) 火曜休(5/5は開館) 一般2300円ほか TEL. 050-5541-8600(ハローダイヤル)
anan 2485号(2026年2月25日発売)より












