
数々のオーディションが行われ、話題になり、いくつものグループが誕生している昨今。そんな“ボーイズグループ戦国時代”の中で、秋元康さんが生み出す新たなアイドル、そしてジャパンエンタメの真髄に迫ります。
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思わず口ずさむような楽曲を歌う、身近な存在を目指して
「よく『秋元さんが手掛けるものは全部ヒットしますね』なんて言われたりするんですけど、そんなわけはなくて(笑)。でも、それでも打席に立ち続けることが、僕は一番楽しいんです」
そう笑顔で語るのは、音楽プロデューサーの秋元康さん。AKB48グループや坂道シリーズなど多数のアイドルを生み出してきた秋元さんは現在、新たに「シアターボーイズグループ オーディション2025」という企画で新時代のアイドル育成に取り組んでいる。
「今は歌が上手、ダンスが上手、あるいは身長が高いなどといった本当に全てが完璧に揃っている男性アイドルが多いですよね。でも僕は、今こそもっといろいろなタイプのアイドルがいてもいいのではないかと考えているんです。
例えば1980年代の頃のような、技術よりも“自分は結局、自分でしかない”という“個性”を何よりも大切にしていた男性アイドルのような存在。音楽についても完璧なダンスミュージックだけではなく1980年代に流行った歌謡曲に近いものも、実は求められていると思っています。
というのも今はAIが音楽を作るとか、よりデジタル化が進んでメロディよりも複雑に転調するサウンドとして成り立っている楽曲の方が目立っているじゃないですか。もちろんそうした曲も魅力的ですけど、僕は見ている人たちが“歌うこと”がすごく難しくなってきているなと感じているんです。
1960~1980年代の音楽をよく聴いていた身からすると、やっぱり自然と口ずさめる歌の方が印象に残りやすいんですよね。AKB48で言うなら『ヘビーローテーション』や『恋するフォーチュンクッキー』『365日の紙飛行機』といったような曲がそうで。だから僕は、今オーディションを行っている新しいボーイズグループにも原点回帰じゃないですけど、思わず口ずさんでしまうような楽曲を作って歌ってもらえたら面白いだろうなと考えています」
秋元さんがボーイズグループのオーディションに携わるのは、2024年にCDデビューしたSHOW-WA、MATSURIに続いて3組目。その2グループとの違いとは?
「SHOW-WAとMATSURIのメンバーは年齢的にも上の方で、ファンもどちらかというといい時代のJ-POP好きというか、昭和を懐かしむような層が多い。一方で今回のオーディションで目指すのは、1980年代に10代の女の子たちが熱狂していたような分かりやすく身近なグループ。そのために今回は、まだ未来が全く見えない、より未完成な世代も対象にした形で募集をしました。
歌もダンスも初めてです、といったような候補生も多いんですけど、僕は“人はみんな、0から1になる瞬間のストーリーを目撃するのが一番面白い”と考えているので最初はそれで一向に構わない。AKB48の歴史で言うと最初はセンターに立つことを『恥ずかしいです』と言っていた前田敦子が、AKB48選抜総選挙の結果を受けて『そうか、私はここで歌っていいんだ』と自信を持った。そこにライバルとして大島優子が現れて、あるいは、それまではアイドルを見る側だった指原莉乃が大分県から出てきて今度は自分がアイドルとしてパフォーマンスをする側になり、卒業してからはプロデュースをする側にも回った。彼女たちもまた、みんな最初は自分の人生に迷う何者でもない状態から始まっているわけですから。
これから生まれるボーイズグループについても、今後ananで取材していただいた時に『あの頃は、ああ言ってましたよね~』と言ってもらえるような変化というか、ストーリーをいかに目撃していただけるかが、きっと今後の一番の見どころになってくると思います」
そう語る秋元さん自身も、これまでに多数の“目撃”を経験してきた。
「6歳の時に親父が東京オリンピックに連れていってくれて、そこで池尻大橋を走っていくアベベ・ビキラというエチオピアの陸上選手を見たのが僕の初めての目撃でした。それから1970年に大阪万博があって、そこでも親父に連れていかれて月の石を見るわけですよ。
あとは高校時代に、『キャロル』の日比谷野外音楽堂の解散コンサートもバイトで手伝いましたし、そう、あの小火(ぼや)を出した伝説の…、神田共立講堂での『かぐや姫』のコンサートにも行ったし…。それと仕事面で言えば、とんねるずと出会ったことも、美空ひばりさんと仕事をしたことも、矢沢永吉さんにドラマに出てもらうために口説きに行ったことも、それら全てが目撃。
僕は今67歳ですけど、人生って何だろうって振り返るとやっぱり『何を目撃してきたか』という問いが一番に出てくるんですよ。だから、これからエンターテインメントの世界で起こることをananを通して楽しんでいただきたいです」
劇場で行われる定期公演で確実に“人気”を集めていく

その目撃の場の大きな一つとして用意されたのが、今夏に東京・お台場に新設するシアターボーイズ劇場。オーディションで勝ち抜いたメンバーたちが約300席を有するその専用劇場で定期公演を実施する。
「“この子は絶対に売れると思っていたんだよね”と感じた子のライブを実際に劇場に足を運んで観てもらったら、きっとさらに面白い目撃の毎日になると思っています。今は何か会議をすれば、みんなが『SNSでバズらせて』なんてことを言うけれど、僕は全くそこを気にしていないんですよね。だって、世界中の人が常にバズらせたいと思って動いているわけなんだから。そこに無理に入っていこうとしてもあんまり意味がないし、そういった思索というか作為は長続きしないものだとも思うんです。
特に今の時代は“人気”と“認知”の違いが大きく出ている。今回も、ただ認知を広げるためだったら最初からテレビなどのマスメディアを活用した方が圧倒的に早いと思うんですけど、狙いはそこではなくて。ファンの一人がお台場の専用劇場に『すごくいいから行こう』と言って誰か友達を引っ張ってくることの方が、はるかに最初のコンテンツとしては刺さるし大きな意味があるんです。
もしかしたら初めは10人程度しかお客さんがいない状態になるかもしれないですが、それがいつしか20人になり、40人になり、やがては80人になるかもしれない。そうした過程を共に目撃していくことこそが、きっと一番人気を高めていくことにつながるんだと、僕は考えていますね」
来てくれるお客さんの人数が増えていくために行うべきこととは。
「それはもう、やり続けるってことしかないと思います。“いつ行ってもライブをしている”ということが、話題性が広がる一番の大きなきっかけになると思っています。ただどれぐらいの時間で広まっていくかは、今のところ僕も全く予想がつかない状態。
AKB48の場合は今のようにSNSが盛んな時代じゃなかったこともあって、口コミで広がっていくまでに恐らく2~3年はかかるだろうと考えていました。それで2005年の12月8日にオープンしたんですけど、翌2006年の2月ぐらいには、もう劇場が満員になっていましたね。理由は、ちょうど2005年の12月ぐらいにブログなどをやり始めた人たちが『秋葉原にすごい秘密基地を見つけた』というようなことを書いてくれたこと。それが火を付けるきっかけにつながったんですよ。
だからもしかしたらこのボーイズグループも、それこそSNSの力が働いてもっと早くに劇場が埋まる日が来るかもしれない。レッドオーシャンで他にも男性グループはいっぱいいるのでそんなに簡単なことではないだろうとは思っていますが、ファンではない人に興味を持ってもらう“きっかけ”が大切なんですよね。この先のストーリーが分からないからこそ面白いんだと思うんですよ。
AKB48選抜総選挙が行われていた時も本当は発表の30分前に集計が終わって結果が出ていたんですけど、スタッフがそれを僕に届けようとした時にはいつも『要らない』と返していたんです。やっぱりファンの皆さんと一緒に開票をドキドキしながら見るからこそリアリティがあるし楽しいわけですから。
この新ボーイズグループも最初にファンになってくれた1人が他の誰かを連れてきてくれて、さらにその人がまた新しい誰かを誘ってきてくれる。そんなふうに広がっていくことを想像しながら、こちらはいろいろなことを仕掛けてやっていければいいなと思っています」
“認知”を広げて世界へ。大事なのはまず信じること
しかしながら劇場が埋まっただけでは、やっぱりいわゆる“国民的アイドルグループ”にはなれない。
「確かに村の中にいる1万人がずっと同じところをグルグル回っているだけでは、絶対に広がらない。それどころかやがて飽和状態になって、他の村に行ってしまう。じゃあ、どうすればこの新しいボーイズグループが国民的アイドルになることができるのか? 一番の理想は、ここで“認知”が広がっていくこと。
例えば『365日の紙飛行機』が2015年の朝の連続テレビ小説の主題歌になった時に“AKB48のことを全く知らないけどいい曲ね”と、AKB48の村の住人じゃない人たちが知ってくれることになってCDも手に取ってもらえるようになった。『恋するフォーチュンクッキー』もYouTubeで見た踊りが面白いから踊ってみようとなったり、あるいはブルーノ・マーズが2024年の来日公演で『ヘビーローテーション』を歌ったことでまた全くAKB48のことを知らなかった人たちが“あれは何の曲?”となったり。そういうことが実現していくと、村から世界が徐々に広がっていって国民的な認知度につながっていくわけです」
そうやってチャンスをつかんでいくために必要とされる要素とは?
「人間はみんなダイヤモンドの原石なんです。どんな職人(プロデューサー)が磨くかで輝き方も変わってきます。だから、AKB48や乃木坂46のオーディションに落ちても他のアイドルグループで活躍する人はいっぱいいます。大切なのは、自分を磨いてくれる職人(プロデューサー)と出会えるかですね。
何を行うにしても、まずは“自分はできる”と信じることが大事。だって初めから運がないと決めつけてしまったら、そもそも運試しすらしないじゃないですか。例えば僕は何の根拠もないんだけどジャンケンがすごく強いと自分では思っていて、大学時代の友人は逆に弱いと思っているんです。そんな2人で『ジャンケンで5回早く勝った方が勝ち』っていう勝負をすると、僕は相手が4連勝していても次から一気に5連勝できる気がしていて、でも相手は自分が弱いと思っているから僕が2連勝しただけで『やっぱり秋元には勝てないよ』と言って諦めてしまうんです。
そんなふうに“自分は運を持っている”と信じ切るかどうかで何にでもチャレンジできるし、全ての行動に勇気を持つこともできる。だからこのオーディションについても、最終的には受けることによって自分の何かが変わると信じている人が残っていると思っているんです。逆にオーディションに落ちたとしても、“この審査員たちは見る目がないな”と思えるかどうかが大事。そういうふうに思っていればたまたまこのオーディションでは落ちたけど、別のオーディションではちゃんと見る目がある審査員やプロデューサーが自分を引き立ててくれるかもしれないじゃないですか。
現に僕も過去に自分が考えた企画が不採用になろうがクビになろうが、全然気にしなかったです。だってきっと人生というのは一筆書きのようなもので、一度もペンをその紙から上げることがなくずっと書き続けているわけで。だから自分が一見、遠回りに見える道を歩いていたとしても、いつかこれがきっといい方に転がるんだと思って過ごしていましたね。だってほら、そこでいちいち落ち込んでしまっていたらペンの流れが止まってしまうじゃないですか。
ただ、もちろん運だけで道を切り拓いても98%にしかならないわけで、そこにはやっぱり1%ずつの努力や才能も必要になってくる。そうした100%を、いかに諦めず発揮し続けることができるか。僕はそれが一番大切だと思っています」
Profile
秋元康
あきもと・やすし 1958年生まれ。作詞家。東京藝術大学客員教授。「川の流れのように」「恋するフォーチュンクッキー」など数多くの国民的ヒット曲を生む。作詞数5000曲超え、トータルシングルセールス1億9000万枚(2025年末オリコン調べ)。テレビ番組の企画・監修、ドラマや映画の企画・原作・脚本も手掛けるなど、幅広く活躍。2022年紫綬褒章を受章。
information
シアターボーイズグループ オーディション2025
2025年6月時点において満12~26歳の男性を対象としたオーディション。2次審査で400人から100人程度に絞られ、2度にわたる合宿審査とレッスンを経て新ボーイズグループのメンバーを決定。その後は秋元康さん総合プロデュースのもと、2026年夏に東京・お台場に新設する専用劇場での定期公演や配信などが予定されている。
anan 2485号(2026年2月25日発売)より













