――台本を読んだ時の感想を聞かせてください。
堀田真由(以下、堀田):読みながら思い出していたのが、地元のお祭りでした。私は滋賀県出身なんですが、地元には伝統的なお祭りがあって、子供の頃からずっと見てきました。ものづくりとは違いますが、昔から受け継がれてきた文化を、次の世代に継承し続けている意味みたいなものが、そのお祭りと津軽塗で通じるものがあって、勝手に身近に感じていたんです。そして台本を読み込むたびに、日本人として大切にしていきたい文化を、丁寧に描いた物語なんだと理解していって。主演として出演させていただき、みなさんに届けさせていただくことが本当に嬉しいです。
――美也子のお父さんを演じた小林薫さんと共に、津軽塗の技術だけではなく、方言の中でも難しいといわれる津軽弁を習得するのは大変だったかと思います。役作りで苦労した点はありますか。
堀田:今回の役は、準備することが多かったです。セリフを覚えてお芝居するだけではなく、セリフとともに方言を自分の中に落とし込んで、さらに津軽塗をしながらお芝居をしなければいけませんから。津軽弁は、年配者になるほど聞き取れないぐらい難しい発音をされる方が多いようで、薫さんはすごく苦労されていました。娘役の私は、今どきの言葉が交ざりながらの方言で、それはそれで難しくて。滞在中のホテルでは、実際の職人さんの作業を録画したものを繰り返し見ては、持ち帰ったハケや道具で練習し、方言もひたすら覚える日々でした。
――津軽弁で印象的な言葉は?
堀田:驚いた時に咄嗟に出る「わいは」。劇中でも、吉田のばっちゃ役の木野花さんが使われています。撮影中、エキストラの方に「青森らしい言葉を教えてください」と聞いたら、やはり「わいは」とおっしゃっていたぐらい、親しみのある言葉みたいです。
――ちなみに故郷の滋賀では?
堀田:普通に「わっ!」とか(笑)。でも私が上京したばかりの時に、体調が悪いことを指す「しんどいわ」を滋賀の方言で「今日えらくて」と言ったら、伝わらなかったことはあります。
――そうなんですね。23歳の美也子はやりたいことも見つからず、スーパーで漠然と働きながら家業を手伝う毎日です。恋人も友人もいなければ、分裂してしまった家族のことなども含め、さまざまな問題に悩んでいて。年齢の近い堀田さんは、共感できる部分は多かったのではないでしょうか。
堀田:多かったですね。印象的だったのは、津軽塗の道に進むべきか悩んでいた美也子が、母親から「仕事してないの?」と聞かれるシーン。もともと美也子は発言が少なく、自己肯定感も低い内向的な女の子なんですが、美也子を通して私も心が痛かったし、頑張れ、って思っていました。
――“バカ塗り”とは、バカに塗って、バカに手間暇かけて、バカに丈夫だと言われるほど、塗っては研ぐを繰り返す津軽塗のことだそうですが、これまでたくさんの作品や役に向き合ってきた堀田さんのひたむきな姿は、勝手に“バカ塗り”に重なる気がしています。
堀田:ありがとうございます。作中にある、坂本長利さん演じる祖父の「何かを始めると、それがどんどん面白くなっていく。やり続けること、やり続けること…」と繰り返すセリフがまさにそうで、自分の役者人生について言われているようでグッときました。私の芸能生活はまだ9年目だとはいえ、数年前には感じられなかったことや、続けてきたからこそ見えてきた景色もあるんですよね。楽しいことばかりではないけれど、続けないより続けるという勇気を持って歩んでいると、想像していなかった自分に出会えたりもして。何度も塗って研いでを繰り返すバカ塗りのように、人生はいろんな失敗と成功を繰り返していく。撮影期間中は、バカ塗りは人生そのものだな、と思っていました。
幼い頃から、人とコミュニケーションをとるのが苦手で、恋人や友人もいない美也子。津軽塗の名匠だった祖父から津軽塗を継いだ父、家族よりも仕事を優先した父に愛想を尽かして出ていった母、家業を継がずに美容師となった兄…バラバラになった家族の中で、美也子が挑戦したこととは。映画『バカ塗りの娘』は9月1日より全国公開。
ほった・まゆ 1998年4月2日生まれ、滋賀県出身。『non‐no』専属モデル。2015年に俳優デビュー、数々の作品に出演する一方、’20年から3年間『ゼクシィ』(リクルート)のCMガールを務め注目を集める。近年の出演作にNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、ドラマ『CODE‐願いの代償‐』(日本テレビ系)など。映画『禁じられた遊び』が9月8日公開。
ワンピース¥85,800 カットソー¥10,450(共にオーラリー TEL:03・6427・7141) チョーカーはスタイリスト私物
※『anan』2023年8月30日号より。写真・伊藤香織(Y’s C) スタイリスト・小林 新(UM) ヘア&メイク・河嶋 希(io) インタビュー、文・若山あや
(by anan編集部)