安達祐実「過去の自分が今の自分を支えてくれている感じがして嬉しい」

エンタメ
2023.05.22
一昨年のドラマ『きれいのくに』では市川森一脚本賞を、昨年の舞台『ドードーが落下する』などでは岸田國士戯曲賞や読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。今、急激に注目度が増している劇作家で演出家の加藤拓也さん。安達祐実さんにとって、新作舞台『綿子(わたこ)はもつれる』は、3作目の加藤作品出演となる。

本物の感情でやれることが、今の私には大事なんです。

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「加藤さんと初めてご一緒したのは’20年の舞台『誰にも知られず死ぬ朝』でした。そのときは舞台出演が7年ぶりで苦手意識もあり、手応えを感じる余裕もないまま。ただ、稽古終盤、ふたりで会話をするシーンで、相手の俳優さんの芝居…セリフの言い方とか表情の作り方がいつもと少し違ったんです。そしたら、何度も演じた場面で、それまで一度もなったことのない感情になって、相手の芝居でこんなに変わるんだと驚きました。そこで自分にもまだまだ伸びしろがあると期待を持てたし、あの面白さはなんだろうって知りたい気持ちが芽生えたんです」

一見何気ない日常の中、恋慕や嫉妬、自意識のねじれや衝動が引き起こす複雑な感情の機微を、セリフの言外に描き出す。そこに見えてくるのは、人間同士の分かり合えなさだ。

「加藤さんは、作品の目指す先はここです、とは明確におっしゃらないんですよね。ただ、『このセリフはこういう気持ちを持って言ってください』とか『こういう感情を出してください』と、必要な感情を説明してくださる。だからこちらは、稽古場でひたすらひとつひとつ嘘のない感情を積み重ねて進んでいく。そうすると自然と物語が描く目的地に辿り着いている感覚です。ただ、相手のお芝居で感情を昂らせることもあれば、穏やかになることもあって…。相乗効果と言うといいけれど、没入してしまって自分を客観的に見られなかったりもするんですよね」

今回の『綿子はもつれる』は、安達さん演じる綿子を中心に、すでに夫婦関係が破綻している夫と不倫相手との危うい均衡が描かれる。

「終わっている家族の話なので、会話していても全然噛み合わないんですよ。夫役の(平原)テツさんが遠慮がちに言ってくるセリフすらイライラするくらい(笑)。でも綿子たちが特殊なわけではなく、そのときそのときに、こうするしかなかったという選択をしているうちにねじれてしまっただけで、振り返ってみたら、どうしようもないものが積み上がっていたって感じ。戻ることもできないし、進むにもそれが重たくて、綿子としては引きちぎるしかない、っていうところにいる感覚です」

ネガティブな感情を積み上げていく物語ゆえ「演じていて疲れます」と苦笑するが、どこかそれすらも楽しんでいるようなニュアンスが漂う。

「加藤さんの作品は本物の感情でやれるんです。なんなら演じているうちに辛くなるくらい。でもそれが、今の私にとってはめちゃくちゃ大事なことで、なんなら欲しいのはそれだけだと言ってもいいくらい」

俳優として、ほぼ年齢と同じキャリアを積んできた安達さんだからこその深い実感がこもった言葉だ。

「昔は、心地いいリズムでセリフを言うことを正しいと思っていました。たぶんそれは、正解を出していればOKだった子役時代の名残。でも、少しずつ、その分かりやすい正解を出していくことを面白くないと思うようになってくるんですよ。たぶん大人になるってことなんでしょうね。周りからも徐々に“正解”より“私から生み出されてくるもの”を求められるようになって、最初はどうやればいいか分からなかったです。でも徐々に、『もっと自由でいっか』と思えるようになりました。今、その自由さが受け入れられているのも、芸歴の長さゆえ。そう思うと過去の自分が今の自分を支えてくれている感じがして嬉しいですよね」

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劇団た組『綿子はもつれる』 すでに夫婦関係が破綻している悟(平原)と綿子(安達)の夫婦。しかし、綿子の不倫相手である木村(鈴木)に思いもよらぬ事態が起こり、それを境にふたりの関係は徐々に変化してゆき…。5月17日(水)~28日(日) 池袋・東京芸術劇場シアターイースト 作・演出/加藤拓也 出演/安達祐実、平原テツ、鈴木勝大、田村健太郎、秋元龍太朗、天野はな、佐藤ケイ 5月21日まで前半割/前売り4500円、当日5000円 5月23日以降/前売り4800円、当日5300円ほか 劇団た組 gekidantakumi@gmail.com https://takumitheater.jp

あだち・ゆみ 1981年9月14日生まれ、東京都出身。現在、ドラマ『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)に出演するほか7月には出演映画『アイスクリームフィーバー』が公開に。昨年より自身のコスメブランド『Upt』もスタート。

※『anan』2023年5月24日号より。写真・小笠原真紀 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)

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