いま、日本茶の世界が劇的に、そして自由に進化しています。かつての「お茶=伝統的で敷居が高い」というイメージは過去のもの。今回は、お茶を愛してやまない3人のスペシャリスト──渥美さん、辻さん、藤森さんをお招きし、最新のトレンドから秘境の茶園まで、いま私たちが知っておきたいお茶の最前線をたっぷり語り合っていただきました。
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お話を伺った方々
Profile

渥美慶祐
創業178年の製茶問屋「鈴和商店」6代目。「現代の茶屋」「暮らしのなかの寛ぎとしてのお茶」をコンセプトにしたショップ「茶屋すずわ」の店主も務める。

辻せりか
静岡のスタートアップ「AOBEAT」代表。全国の茶農家から仕入れるクラフトティーブランド『aardvark TEA(アードバークティー)』では、ティークリエイターとしてブレンドの味づくりを担う。絶景茶畑でのプライベートティーテラス『茶の間』も手がける。

藤森陽子
お茶、コーヒーをこよなく愛し、昼間のカフェインを夜のお酒で洗い流す嗜好系ライター。〈Hanako〉2022年11月号「新しいニッポンのお茶。」特集をはじめ、多くの中国茶&日本茶の特集を担当・執筆。
本物の香りを味わう「ブレンドティー」がアツい
── 本日はよろしくお願いします。いま、お茶を取り巻く環境がすごく面白くなっていますよね。まずは皆さんが感じている「お茶のトレンド」について教えてください。
藤森 プロのおふたりと並んでお話しするとは恐縮なのですが、お茶愛好家としての記憶を辿ると…2010年代初頭、お茶の売れ行きが伸び悩んだ時期に、紅茶のスタイルを踏襲したような香料を使った緑茶が出回ったときがありました。その後2016年ごろからかな、天然素材を使った「本当においしいブレンド」が世に出てきて、世界がガラッと変わった気がします。
渥美 ハーブや薬膳を含めブレンドという技術自体はあったのですが、そもそもお茶の売り場自体が百貨店やスーパーにしかなかったので、広がらなかった。いまはセレクトショップなどに置かれるようになり、手に入りやすくなりましたよね。そして辻さんのような新しい方たちが入ってきてくれて、日本茶を新たに定義するブレンドがどんどん増えていったように思います。
辻 私がブレンドに惹かれたきっかけは、「富士山まる茂茶園」の本多茂兵衛さんとの出会いでした。煎茶にバラの花を浮かべて出してくださって、そのおいしさに感動したんです。それが原点になって、いまでは全国の農家さんを回って出会ったお茶や果実でブレンドをつくっています。

静岡県富士市「富士山まる茂茶園」の茶葉を使用した「ボタニカルティーHANA 薔薇と生姜の煎茶」30g ¥1,780。公式サイト

富士山麓の爽やかな緑茶に、ローズ、千葉契約農園のショウガ、ラベンダーをブレンドした、緑茶ベースのボタニカルティー。
藤森 辻さんのように、お茶そのものの質にこだわりつつ、天然素材を組み合わせる技術もかなり進化しましたよね。
辻 例えば、ほうじ茶にコーヒーやカカオを合わせると、コーヒーやチョコレート好きの方に興味を持ってもらえるので、裾野が広がっていきますよね。
ワインのテロワール、コーヒーのシングルオリジン
辻 最近では、お茶のシロップをよく見かけるようになったと感じます。コーヒーベースのようにミルクや炭酸で割って飲めるものです。それからシングルオリジンの流れも。ワインのテロワールのように産地で選んだり、コーヒーのように品種で選んだりする楽しみ方が増えています。
バーテンダーの方の素材の組み合わせも勉強になりますね。静岡にある「NO'AGE concentré(ノンエイジ コンセントレ)」の井谷さんは、ティーカクテルの先駆者といえる方。お茶を使ったカクテルはもちろん、ペアリングも毎度驚きの組み合わせなんです。

静岡市の「NO'AGE concentré」が提供する、煎茶にひとしずくのコニャックとキンモクセイの香りを使ったカクテル「雫茶〜彩霧〜」。他にも「玉露マティーニ」「焙じ茶のスモーキー・マルティネス」など気になるティーカクテルが多数。公式サイト
いま改めてスポットライトが当たる「発酵茶」と「焙煎茶」
藤森 いままで日本茶の世界ではあくまで脇役的な存在だった、発酵茶や焙煎(ほうじ茶、番茶)に注目が集まっているように思います。限りなく日本茶と中国茶の垣根が緩やかになっている感じがしますよね。
辻 半発酵である、烏龍茶に近いつくり方をしている日本の茶農家さんの存在感も増しているように思います。
渥美 自分も静岡産の和烏龍茶をベースにして、薬膳茶を出していますよ。比較的歴史の新しい審査会である「日本茶AWARD」では、「発酵茶」部門もありますね。
高知の「村田園芸」さんは、「日本茶AWARD」発酵茶部門を烏龍茶で受賞した、注目のつくり手です。例えば「花香烏龍」は、高知名産の文旦の花を摘み取って、ジャスミン茶と同じような手法でウーロン茶に香り付けをしているんですよ。
藤森 文旦の花ですか!
渥美 しかも自分たちで育てた文旦の、いちばんいい状態の生花を混ぜて、香りが移ったら取り除く…という作業を繰り返すんです。ドライフラワーではなく「生の花」を使うタイミングは、生産者自身じゃないとまず見極められない。
藤森 生花をかぶせて「着香」させる、とてつもなく手間がかかる作り方ですよね。まさにつくり手にしかできない、贅沢な手法です。

「【村田園芸】花香烏龍 リーフ」15g ¥860。公式サイト

5月に咲き始める土佐文旦の花。香りが強い咲く直前の蕾をひとつずつ摘み取り、お茶に吸わせ、蕾をまたひとつずつ取り除く。
藤森 クオリティの高いほうじ茶や番茶も、以前よりたくさん流通してるように感じます。
辻 ほうじ茶はカフェインが少なめなので、特に女性で選ぶ方が多いようです。
渥美 番茶でぜひ飲んでいただきたいのが、岡山の美作番茶さん。若手のつくり手なんですが、夏の熱いうちに収穫するいちばん茶をあえて獲らずに伸ばして、枝から切った葉っぱを大きな鉄鍋で煮込み、乾燥させてまた煮汁をかけるという大変な手間のかかりようで…。
藤森 わたしも愛飲してます。しかもこちらが心配になるくらいお手頃価格なんですよね。

「美作番茶」100g ¥864。岡山県美作地域のみで製造される伝統茶。公式サイト
在来茶のロマン
藤森 在来茶(品種改良されていない、その土地に古くから根付いた種から育った茶樹)はいかがですか。私はもともと納豆の取材で「在来大豆」の奥深さを知ったのがきっかけで、お茶の在来種にも惹かれるようになりました。以前、渥美さんに教えてもらった「SOTTO CHAKKA(ソットチャッカ)」さんとか。
渥美 やっぱり在来がいちばん土壌に影響されます。茶畑の形もすごくかわいい。市場価値が高くない時代でもずっとつくり続けてきたという、農家さんの人柄やロマンを感じますよね。
辻 最近、広島の「世羅茶」という在来茶を初めて飲みました。標高400mぐらいのところでつくっている、地域で小さく伝えられてきた希少なお茶です。高原らしい軽やかな味わいと、スッキリしているのにハーバルな葉っぱの香りがして、とてもおいしかったです。広島の「TEA FACTORY GEN」さんでは、世羅のお茶を潮風に当てて天日乾燥させた「浜茶」というユニークなお茶もあるんですよ。
藤森 ちょっと面白いものでは、高知の「松崎冷菓」が、福岡の「楠森堂(くすもりどう)」の在来茶を使った「茶の葉アイスもなか」をつくっているんです。「楠森堂」は在来種のみの茶葉を育てている全国でも希少な茶園で、広く流通する商品に在来茶を使うのはとても珍しいのでは。そしてこのアイス、お茶の風味が爽やかですごくおいしいんです。

「松崎冷菓」の「自然派PREMIUM 茶の葉アイスもなか」300円(参考価格)。公式サイト
秘境に息づく産地の物語
── まだあまり知られていない、注目のつくり手を教えてください!
辻 これから新茶の季節。日本一早い新茶と銘打っている、種子島の「射場(勇)製茶」さんはぜひ一度飲んでみていただきたいです。種子島ならではの少しソルティーな感じと、葉っぱの伸び伸びとした香り。まろやかで濃く、優しい甘みを楽しめます。

日本一早い新茶として知られる種子島の「射場(勇)製茶」。写真は希少品種の「くりたわせ」。一番茶新芽だけを使った100g ¥1,300で現在予約受付中。公式サイト
渥美 長野県天龍村の最南端にある「中井侍(なかいさむらい)」という集落があるんですが、「ヨアケ茶園」を営む前田さんという方が、高齢化する集落の茶園を守っているんです。天竜川を見下ろす景色も本当に素晴らしい場所で。
ここの煎茶はあえて「揉み込み」を強くしないスタイルなんですが、それが逆に1杯の急須で1日中楽しめるような、芯のある味を生んでいる。市場の論理ではなく、暮らしの中にあるお茶。その純粋さに惹かれます。
渥美 沖縄伝統の「ブクブク茶」も面白かったなあ。さんぴん茶を大きなうつわに入れて、大きな茶せんで泡立ててアイスみたいにするお茶なんです。

渥美さんが保存会の方に体験させてもらったという「ブクブク茶」。

抹茶のような道具で泡を立てる新鮮なビジュアル!
渥美 静岡市玉川地区の「平岡商店」さんが手がける萎凋煎茶も、ぜひ体験してほしいです。なんと和梨のような瑞々しい香りがするんですよ。
藤森 梨のような香りですか、気になります。萎凋と聞くと烏龍茶のつくり方が思い浮かびますし、梨山茶(台湾を代表する高山烏龍茶のひとつ)のイメージも湧きますね。
渥美 はい、ここは煎茶ではしない萎凋(いちょう=葉を萎れさせて香りを出す工程)の工程を入れて製茶します。それによって若干発酵するので、お湯を注ぐと1メートル離れていても香りが漂うほど。

全国に30人しかいない茶師十段の兄・平岡佑太さんと、山あいの茶園管理を担う弟・宏太さん、そして代表を務める父・陽一さんがお茶をつくる「平岡商店」。和梨のような香りの「萎凋煎茶 やぶきた」50g ¥1,080(2025年度産) 公式サイト
職人技が光る「和紅茶」
辻 和紅茶も近年人気がありますよね。 私、「釜炒り茶 柴本」の柴本さんがつくる紅茶が大好きで。去年、柴本さんはベトナムへ行かれていたのですが、帰国後、お茶づくりにさらに磨きがかかっていらっしゃって。神の領域に近づいていると感じました(笑)。1杯の中に蜂蜜のような甘みや花の香り、フルーティーさもあり、最初から最後までドラマチックな味わい。
それから、駄農園さんの「かなやみどり」でつくった紅茶も個人的にすごく好きです。
渥美 宮城県・石巻にある「お茶のあさひ園」というお茶屋さんがあって。震災で被災された後、石巻市の桃生(ものう)町に伝わる煎茶「桃生茶」を和紅茶としてつくることを志した。そのときに国産紅茶の第一人者といわれるレジェンド、故・村松二六さんのもとへ通い詰めたんです。
藤森 丸子紅茶の二六さんですね。遠いですよね、宮城からだと。
渥美 ええ、車で片道8時間くらいかけて。自分たちで育てた茶葉を摘んで二六さんの工場まで通い、そこで揉ませてもらって、また帰る…というのを何年も、何度も繰り返してつくり上げたのが、「kitaha」という素晴らしい和紅茶のブランドです。
藤森 二六さんの教えを受け継いだ彼らが、北限に近い地で完成させた味なんですね。

紅茶独特のえぐみがなく飲みやすい「お茶のあさひ園」の「kitaha - 和紅茶」リーフ ¥648、ティーバッグ ¥702。公式サイト
藤森 それから、中国で学んだ製茶アドバイザーの徳田志保さんを中心に、中国茶の手法を取り入れて和紅茶の品質を磨く「CLUB-T」という若手生産者のチームがあるのですが、わたしはその中でも茨城・さしま茶のふたりのつくり手「吉田茶園」と「長野園」をそっと応援しています。小さな茶の生産地・猿島を和紅茶で盛り上げようとしている方々で、品評会でも例年入賞を果たしているんですよ。
どんどん試して「推し茶」を見つけよう!
── 最後に、皆さんが考える「これからの日本茶の楽しみ方」を教えてください。
藤森 最近は1回分ごとに楽しめるティーバッグが、形や素材の研究によって劇的に進化しています。そうした個包装系から試すのも入門編としていいですよね。
辻 現代人は忙しいし、ペットボトルは確かに便利なのですが、やっぱりリーフで飲んだお茶がいちばんおいしいなと思うんです。それを手軽に飲んでほしくて「急須ボトル」を開発しましたよ。
渥美 新しいスタイルの「茶飲料」も面白いですよね。「nokNok(ノックノック)」という、大手飲料メーカーから独立したふたりが立ち上げたブランドの缶入りドリンクがすごい。埼玉の「奥富園」さんの看板茶である「鬼の白骨」に、いちごをブレンドしたりとか。

「nokNok CRAFT TEA SODA」1本 ¥990。左2本が静岡県の茶産地「竜爪(りゅうそう)」の茶葉、右2本が狭山で江戸時代から続く茶園「奥富園」のベストセラー「鬼の白骨」を使用。国産果実やスパイスをフレーバーに加えた新しいノンアルコールドリンク。公式サイト
渥美 これからは世界も視野に入ってきます。例えばヨーロッパの硬水でもおいしく飲めるよう、水の硬度まで計算したブレンド。日本茶がコーヒーやワインと同じように、世界の共通言語になっていくのが楽しみです。
── ポテンシャルに満ちた日本茶の世界。飲んでみたいつくり手をたくさん知ることができました。ありがとうございました!

























