
津田寛治さん
津田寛治に撮休はない──そんなタイトルを聞けばドキュメンタリーかと思うけれど、紛うことなきフィクション。津田寛治さんが津田寛治を演じる不思議な映画が完成した。
こんな現場に関われて幸せだなって思います
「監督から送られてきた台本を読んだとき、あまりに僕の日常がそこに書かれていてびっくりしたんですよ。人にはそんなに言ったことがないけれど、腰が低いわりに空気が読めなくて失礼なことを言っちゃうとか、家族に対して優しく接してるつもりでどこかAIっぽいとか(笑)。目の前のことに夢中になって周りが見えてなくて、後々になってふと気づくんですよ。ひょっとしてあのとき失礼なこと言ってたかも…って」
映画の津田寛治もまた作品に入ると猪突猛進。売れっ子の若手俳優の芝居に物申したりも。そんなある日、周囲で不可解なことが起こり始め、次第に妄想と現実の境目が曖昧に。
「とにかく現場が本当に楽しくて、ずっと続けばいいのにと思っていたくらい。あの気持ちはなんだろうと考えると、だんだん映画の中の津田寛治に自分が取り込まれていくような感覚があって、それが気持ちよかったのかもしれない。小さい頃から映画が好きで、ずっとスクリーンの向こうに行きたい、非日常に入り込みたいと思って俳優になったんですけど、その感じがすごく強い現場でした。この作品のスタッフさんも映画の中でスタッフ役として出ていますが、撤収している最中に録音部の方が『今、どっちが現実かわからなくなってました』とおっしゃったとき、めっちゃ感動したんです。スタッフさんもそこまで深く物語に入れてしまう現場に関われているなんて幸せだなって」
監督のこだわりの強さゆえ、時には何十テイクも重ねたシーンもあったとか。
「最初の長回しのシーンは、汗だくの中で20テイクくらいやって、後半はもうボロボロでした。でも、この監督は、何回もやっていけばいつかは自分の理想の画(え)が撮れると信じて妥協しないんだって思ったんです。現場の空気はとんでもなくどんよりしてくるんですよ。それでもそこを信じられるって、なかなか難しいことで、僕的には嬉しかったし、信頼度は上がりましたよね」
そう言えるのも、津田さん自身がいつ訪れるともしれない奇跡の瞬間を信じているからだろう。映画は、シュールな虚構が徐々に現実を侵食し、思わぬ方向へと展開してゆく。
「ジャン=リュック・ゴダールの『映画というのは1か月くらいかけて大勢の人間で同じ夢を見ること』という言葉があるんですが、この映画はまさにそれだと思っています。夢なんだから、すべてが理屈で片付けられなくてもよくて、その余韻がフィルムに焼き付いていればいい。それはきっとお客様に届くはずだと、僕も監督も信じているんです」
Profile
津田寛治
つだ・かんじ 1965年8月27日生まれ、福井県出身。1993年に映画『ソナチネ』でデビュー。映画やドラマで活躍し、出演映画は300本を超える。4月17日に公開を控える映画『人はなぜラブレターを書くのか』にも出演。
information

『津田寛治に撮休はない』
撮休のない多忙な日々をおくる俳優・津田寛治(津田)。しかしある日を境に身の回りで不可思議な出来事が起こり…。監督・脚本/萱野孝幸 出演/津田寛治ほか 3月28日より新宿K's cinemaほか全国順次公開。Ⓒ映画『津田寛治に撮休はない』製作委員会
anan 2489号(2026年3月25発売)より


















