哲学者・谷川嘉浩さん、振付演出家・竹中夏海さんが考えるエンタメの魅力

ワクワク、キラキラ、ドキドキ…今、私たちの心を掴む、エンターテインメントをあらゆる角度から深掘り! 胸が高鳴る、ときめき成分の正体を解き明かします。


印象に残ったこと、心が揺れたものを読み解いていくことが大切

今や誰もがスマホやSNSを使いこなし、私たちは常に誰かと繋がっている“常時接続社会”を生きています。それゆえに、キラキラしていることや面白いことが溢れていて、日常的にときめきを感じやすい時代になりました。

ただ、誰かと何かで接続している時と接続していない時で、得られるときめきの感じ方には違いがあるはずです。接続している時は、文脈を知らなくても、パッと共有できるオーバーで明快な表現が多いので感情を大げさに揺さぶられる“一瞬のときめき”。一方、接続していない時は、ひとり何かに思い焦がれるような愛しさや温かさに溢れた“しみじみできるときめき”。どちらも素敵な感情ですが、前者で得られるときめきは一瞬だからこそ記憶に残りづらい。次から次へとどんどん欲しがってしまい、それがなくなった時に焦燥感や不安に駆られ、心がざわつきやすくなる。逆に後者のときめきは、SNS上の大げさな刺激に基づく感覚ではなく、「自分ならでは」のものなので、それを感じる機会が多ければ多いほど、心が満たされて、人生が豊かになると思います。

そういった固有のときめきを得るようになるには、自分はどんなことが好きで、何をしている時が楽しいかを、じっくりと探す時間を設けることが必要です。その手段として、今は多様なエンタメコンテンツが根付いているので、その中からときめきのカギを探してみるといいでしょう。映画、ドラマ、アニメ、音楽、本……など、グッときたシーンや心に残った言葉、その人の立ち振る舞いなど、自分の中で印象に残ったことや心が揺れたものを細かく読み解いていくと、「自分」が見えてきて、本当のときめきを感じる心を育てることができるかもしれません。

もしすでに好きなことや推し活の対象を持っているならば、それに派生したことを追求していき、知識を深めていくのもおすすめです。たとえばヒップホップ音楽が好きならその歴史を調べてみたり、韓国ドラマにハマっているなら韓国語を学んでみたり…。

単なる「好き」で終わらせずに、その一歩先に進んで、自分なりに「好き」を拡張している人は、消費以上のものを体験しているでしょうし、一瞬ではないしみじみとした固有のときめきを感じることが増えていくと思います。また、そういったときめきに溢れている人は、自身も周りの人から自然とときめかれる存在になれるのではないでしょうか。

哲学者

Profile

谷川嘉浩

京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。『増補改訂版 スマホ時代の哲学 なぜ不安や退屈をスマホで埋めてしまうのか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がベストセラーに。

“共感”できるという心強さ、嬉しさがときめきに繋がる

エンタメ業界専門の産業カウンセラーとしても活動し、コレオや演出、コント歌劇団のプロデュース、Podcastのパーソナリティ、と様々なエンタメに関わる作り手として大事にしていることは、一方向から発信して終わりではなく、点と点が繋がるような体験を共有すること。そういった安心感や共感の上に生まれるものが、ときめきだと思うんです。

以前のエンタメは、「女の敵は女」という空気を含んだ作品が多かったように感じます。それが2017年に急速に拡大した「#MeToo」運動や、多様性を尊重できる時代になり、見る側のリテラシーが成熟してきたことで、最近はステレオタイプな描き方をする作品が減り、一面的ではない人物像を描く作品が増えてきました。

その流れを感じられる作品のひとつが、現在放送中のドラマ『銀河の一票』。バディを組んだ女性ふたりが政治家を目指すという物語なんですが、SNS上では、こういうドラマを待っていたとの投稿が続出したんです。ふたりの魔女を描いた映画『ウィキッド 永遠の約束』や、2年前に放送されたNHKの朝ドラ『虎に翼』を見た人からもそういった声が多く挙がったんですが、それらに共通するのは「こんな作品が見たかった」と感じさせてくれること。自分でもうまく言葉にできなかった思いを、作品が先に見つけてくれたような感覚に、自分を受け入れてくれたようなときめきを感じるからだと思うんです。

最近話題のリアリティショーやオーディション番組にもその波を感じます。登場人物たちの恋愛模様だけを追ったものや、デビューを目指すライバルたちがバチバチにやり合うだけの番組はなかなか受け入れづらくなってきた。作り手や演者へのリスペクトや安心感がないと、ときめきは生まれない。だから、ゴールやルールに縛られずに、限られた時間の中で様々な思いや葛藤を抱えた者同士が分かち合ったり、切磋琢磨している姿に“尊さ”を感じるんです。その姿に自分の想いが重なり、「わかる」「自分もそうだった」と感じられることがある。同じ気持ちを抱えた誰かの存在に出合えることが、ときめきに繋がっていくんだと思います。

また、エンタメは「知らなかった」よりも「知らないままでいたくなかった」に気づかせてくれるものでもあると思っています。ぜひ多くのコンテンツに触れて、自分ならではの“ときめきの種”を見つけてほしいです。

振付演出家

Profile

竹中夏海

数々の振付や演出を担当。エンタメ業界専門の産業カウンセラーとしても活躍。chelmicoのレイチェルさんとのPodcast番組『我々は安心してエンタメが観たい』が話題に。

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取材、文・鈴木恵美

anan 2497号(2026年5月27日発売)より
Check!

No.2497掲載

ときめきカルチャー 2026

2026年05月27日発売

今、胸をキュンとときめかせるモノ・コト・ヒトの最前線を集めた特集。ぷくっとしたプラバンの素材感に魅了される、話題のストップモーションアニメや白熱のオーディションコンテンツなどをピックアップ。それぞれの魅力に迫ります。

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