社会のじかん

我慢の節電による“環境対応疲れ”も…2023年はエネルギー問題を再考する年に?

ライフスタイル
2023.01.01
ananで連載中、意外と知らない社会的な問題についてジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」の拡大版をお届け。円安や物価高、気候変動…私たちの暮らしに密接に繋がっている、社会の問題たち。2023年は、どうなっていくのでしょう? ここでは、環境問題について堀さんが解説し、五月女ケイ子さんが独自の視点から読み砕きます。

Q. 災害、気候変動、海面上昇…環境問題はこれからどうなる?

A. 目標達成のリミット間近。コロナ禍や戦争でエネルギー不足。シフトチェンジが求められそう。

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2023年は、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、気温上昇を1.5~2°C未満におさえることを目標に掲げた、150の国と地域がその進展状況を検証する年です。その後5年ごとに検証されます。

日本は原発の多くがストップしており、石炭、石油、天然ガス依存が続いて、目標達成には厳しい状況です。’23年は、日本のエネルギー問題において、原発をどうするのかという話に決着をつけられるかどうかが大きなポイントになるでしょう。

欧州もやむなく原発回帰の流れ。CO2削減、目標達成に日本はどうする?

ロシアのウクライナ侵攻により、欧州はロシアからの石油や天然ガスの輸入がストップし、深刻なエネルギー不足になっています。脱原発を掲げてきたドイツも、代替エネルギーが必要になり、方向転換をせざるを得なくなってきました。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんも、火力エネルギーに立ち戻るならば、原発を容認するという立場に変わり、流れを大きく変えるきっかけの一つになりました。

政府は今、原子力発電所の最長耐用年数60年をさらに延ばし、古い原発を使い続けようとしています。しかし、それでは安全面の不安も残りますし、1か所で大量の原子力エネルギーを作るため、無駄も出てきます。安全性も高い最新の技術を使った小型の原発を使い、必要なところに最小限投入するなど、今に適した選択肢もあるのではないかと思います。

我慢、節電だけでなく、持続可能な環境対策を改めて考える一年に。

日本は、エネルギー消費を4割減らし、再生可能エネルギーでの電力の50%を賄えば、「2030年度までにCO2の排出量を2010年度比で50~60%削減」という目標が達成できます。しかし、これは簡単に実現できる数字ではありません。

気候変動はまったなしの問題ですが、電気料金が値上がりし、経済成長も先行き不透明ななか、「節電してください」と我慢を強いられると、環境対応疲れも出てきて、反発心が芽生えてしまいます。環境よりも足元の暮らしをまず優先してほしいという気持ちになるのもやむを得ないのではないでしょうか。暖房を使うのを我慢して体調を崩してしまうというような、本末転倒なことも起きかねません。

’23年は、止めている原発や再生可能エネルギーへの展望など、もう一度私たちで環境対策、エネルギーの問題を考える年にしないといけないのだと思います。

気候変動により増える自然災害。災害に強い地域を作ることも肝要。

台風や豪雨災害など、日本では毎年のように災害が深刻化しています。東京都大島町は9年前に大規模な土砂災害に見舞われ、40人近い方が亡くなられ、まだ行方不明の方もいらっしゃいます。町では10年かけて予算を組み、復興計画を立てたのですが、この間にも災害が何度も起きて、財政的にも非常に困難な状況に陥りました。また、気候変動により、漁場や藻場が荒れて稼ぐこともできません。

この大島町は一例にすぎず、各地で同様のことが起こっています。気候変動により生業さえも失いかねない。災害に強い地域作り、また、暮らしの基盤を確保することも必要になってくると思います。

持続可能な環境対策にスーパーシティ構想が再定義されそう。

’23年以降は、“スマートグリッド”と呼ばれる電力の一体運用や、人々の消費・流通・移動などがトータルに設計管理される“スーパーシティ構想”の議論が、国会でも再開されそうです。

スマートシティ化の構想は10年ほど前から政府によって掲げられていたのですが、この数年は棚上げ状態になっていました。

しかし地域でどのくらい電力が消費されているのかが可視化されれば、その地域の発電によって、無駄なく電力を賄うことができます。また、デジタル技術を使い、移動手段も無人のEV車が地域をめぐり、送迎してくれる。農業や畜産業もデータ管理により無駄な生産をせず、食品ロスを防ぐなど、様々な問題が同時に解決できるようになります。

岸田内閣が掲げている「デジタル田園都市国家構想」にもそういった一体運用が盛り込まれています。北海道の上士幌町では、観光と畜産と暮らしと移動をデジタルで共有するような仕組み作りがなされているのです。牛の受精卵をドローン輸送と陸送を組み合わせて効率よく運び、環境負荷を軽減させる工夫も。

また、岩手県八幡平市では、ベンチャー企業が入り、地熱発電の仕組みを使ったスマート農業が始まっています。

これからは単体の環境対応というよりは、持続可能で、様々な業種がイノベーションを起こしながら、皆が豊かさを手に入れられる環境対策が花開いていくでしょう。

五月女解読員のひと言

「節電」って、全然いまっぽくないし、全然持続可能じゃないですよね。「省エネ」が叫ばれた昭和より進化したネットワークを、賢く駆使できたら、やみくもに厚着して寒さを我慢しなくても、スマートに令和っぽく乗り切れそうです。

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ほり・じゅん ジャーナリスト。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)、『ABEMA Prime』(ABEMA)などに出演中。監督作に『わたしは分断を許さない』など。

そおとめ・けいこ イラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、面白楽しいオリジナルグッズを多数、販売中。LINEスタンプも各種展開。近著に細川徹との共著『桃太郎、エステヘ行く』(東京ニュース通信社)がある。

※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 取材、文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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