「そうくるか」の連続!? 型破りな誘拐劇を描く『午前0時の身代金』

エンタメ
2022.06.06
誘拐犯の要求は「身代金調達をクラファン(クラウドファンディング)で行え」!? 型破りな誘拐劇は、IT企業を巻き込んで事態が二転三転。ページをめくらせるアイデアがぎゅうぎゅうに詰まった『午前0時の身代金』の著者が、京橋史織さん。
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「クラファンを利用するアイデアは、イスラム国が外国人を拘束して身代金を要求する事件が多発したころに浮かびました。当時スイスに住んでいたのですが、人質事件をめぐる報道の温度が、欧州と日本では全然違ったんです。ヨーロッパの人たちはテロリストに怒っていて、日本では自己責任論が強かった。また、先の米国大統領選でSNSを介して世論の操作が行われ、社会の空気が一変するのも見ました。人にとって、社会にとって、人命がかかったときに何を優先すべきなのか。それが物語の出発点であり、テーマにもなりました」

新人弁護士の小柳大樹は、振り込め詐欺に加担させられていた専門学校生・本條菜子から自首したいと法律相談を受けていた。目を離した隙に菜子が拉致されてしまい、深く悔やむ。犯人が犯行声明を送りつけたサイバーアンドインフィニティ社は、大樹の先輩・美里千春が顧問弁護士を務める企業だ。微妙な立ち位置で事件と関わることになった大樹と美里が、事件解決に奔走する。

「実はプロットは割と早くできたものの、書く段になって、私自身が法律知識ゼロなことに気づいて(笑)」

一念発起し、早稲田大学の法律講座を聴講。執筆に活かした努力家だ。

「ITの知識も、一から勉強した身。専門知識にさほど詳しくない人間と同じ目線に立って書いた方が読者にもわかりやすいだろうと思い、生まれたのが大樹です」

早々に誘拐犯の目星はつく。だがその情報を、職業上の守秘義務があるため、大樹は警察に漏らせない。

「そういうジレンマに葛藤する場面はそれ以外にもかなり盛り込みました。土壇場の踏み絵で何を選ぶか、どう行動するか。そういうシーンこそ、登場人物の人間性が書けると思っているところがあるんです」

犯人は誰か。身代金は集まるのか。もっとも、それはこのジェットコースター的ストーリーの入り口だ。この先に待つのは、既存のミステリーでは見たことのない展開。「そうくるか」の連続で、読んで損なし。

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きょうばし・しおり 1972年、徳島県生まれ。第39回創作ラジオドラマ大賞入賞。脚本家として活動したのち、スイスに転居。小説を書き始めて8年目、本作で新潮ミステリー大賞に輝く。

『午前0時の身代金』 青くさい正義感を持つ主人公の大樹。企業法務中心の「新倉美里法律事務所」でプロボノ(公益性を重んじ社会貢献を行う)部門に配属され…。新潮社 1650円

※『anan』2022年6月8日号より。写真・北尾 渉 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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