――今回出演される舞台『セールスマンの死』は、70年以上前に書かれ国内外を問わず数々の名優が演じてきた有名な翻訳劇です。今作に挑もうと思われたのは?
実は“挑む”というほどの覚悟で出演を決めたわけじゃないんですよね(苦笑)。ただ、いま稽古が始まって2週間ほど経ちましたが、「しまった。もっとちゃんと覚悟しておくんだった!」と。生半可にはできない作品でした。
――どこにそう感じるんでしょう。
今は単純に、私が演じるウィリーが1幕2幕を通してほとんど出ずっぱりだということに大変さを感じているんですが…。確かにやっていると、いいホンだなぁと思います。70年くらい前の戯曲ですが、現代の日本に住んでいる私たちにもよくわかる物語で、胸を打つものがあり、不思議な吸引力があります。ただ、何が…というと稽古も途中なのでまだよくわからないんです。だからお客さんに観ていただく段階でどうなっているのかが自分でも楽しみですし、ご覧になった方がどのように受け取ってくださるのかも楽しみです。
――作品に入られるときは、いつもそういうフラットな状態で?
それは作品によって全然違います。お客さんの前で演じてみてようやくわかる、ということは毎回ありますが、台本を読んだ段階で大体の予測がつく作品もあれば、心配しながらやってみたら意外とよかったり、反対にこれはいける、と思っていたらダメだったり、ということもあります。
――妻のリンダ役の鈴木保奈美さんは、今作への出演を決めたのは、“パルコ劇場で段田さんと共演”だったとおっしゃっていますが。
それは嬉しいですが、ひょっとしたら、鈴木さんが気を遣っておっしゃってくださっているかもしれません。私はそんなに立派なもんじゃないですよ、という気持ちと、共演してみたらガッカリだったわってなったらごめんなさい、という気持ちで受け止めています。
飽きるので、役は振り幅が大きいほうがありがたい。
――昨年、『カムカム~』と『和田家~』が同時期に放送され、役柄の幅広さが話題になりました。それは段田さんの佇まいや所作に、作品の時代性や役の人生が見えるからだと思うのですが、どのように役を作られるんでしょうか。
お父さんならお父さん、じいちゃんならじいちゃんはこんな感じかなと思ってやっていたのですが、それがたまたま同じ時期に放送されたというだけなんです。ただ、私としては“いつも同じ”ではすぐ飽きるので、なるべく役の振り幅は大きいほうがありがたいですね。
――『和田家~』の役はとても色気のある人物でしたが、あの色気は一体どこから…?
普段の私は本当につまらない人間で、自分としても魅力があるとは思えないんですが…。仕事で演じるときくらいはちょっと頑張ってみようと、ちっちゃ~く自分の中にあるものを膨らませて表現しているんだろうと思います。ただ、ここで色気を出すぞとか、確信を持ってやっていることはないんです。真面目な人の中にも悪い心があるし、悪党の中にもいい心が少しはあったりします。そういうところを少し増幅させてやっているという感覚です。
――役を演じられるとき、ご自身の中で役の方向性というか的のようなものを決めて、そこに当てていくような感覚なんでしょうか。
どちらかといえば、その逆ですね。目標を決めてそこに向かっていくというよりも、台本に書かれていることを、こういう方向が面白いかなと思ってやっているうちに的が見えてきてそこに行く、という感覚です。ヘアメイクや衣装、スタッフや共演者の方々、みなさんの力を借りながらの共同作業の中で少しずつできていくものです。
――今回の『セールスマンの死』のウィリーはいかがですか?
徐々に的は見えてきてはいるんですが、まだビシッと的には当たってない気がします。
――段田さんといえば、野田秀樹さんが主宰していた劇団夢の遊眠社の看板俳優でした。当時の小劇場ブームを牽引していたのが遊眠社ですが、じつはもともとは新劇(西洋演劇の影響を受けたリアリズム劇)の俳優を目指していたそうですね。ファンタジー色の強い野田作品とは真逆というか…。
新劇の俳優になりたかったのですが、どの劇団にも入れてもらえず、ありがたいことに遊眠社に入れていただきました。ただ、東大の部室に行ったときは、失敗したと思いましたよ(笑)。学生の演劇サークルみたいな感じでしたから。それならすぐ辞めればいい話なんですが、解散まで続けられたのは、野田さんの芝居がやっぱり独特で魅力があったからです。結局、私は芝居もいろいろなものをやるのが楽しいんですね。
――遊眠社は当時の小劇場ブームの先頭を突っ走り、東大構内の小さな劇場から代々木第一体育館で公演をするほどの人気劇団になっています。渦中にいたときはどんなお気持ちでいらしたんでしょう。
大学の演劇サークルのようなところに入ったと思ったら、次の公演に伊藤蘭さんがお出になったんです。この間までキャンディーズとしてテレビに出ていた方と一緒に準備体操しているって、これは一体何だろうなと不思議な感覚でした。その頃から一気にお客さんが増えて、最初はもちろんギャラも出なかったのが、何日かやったら5000円もらえるようになって、そこから徐々にバイトをしなくてよくなって…という変化はありましたが、渦中にいると台風の目にいるようなもので、当人はよくわかっていなかったですね。
――遊眠社の解散後は、舞台のみならずドラマや映画もですし、作品もいろんなタイプのものにお出になられていますよね。段田さんが惹かれるのはどんな作品で、どんなところに惹かれるんでしょう。
今、好きな作品としてふわっと頭に浮かんできたのは『近松心中物語』とか『ガラスの動物園』…。シェイクスピアは面白いものもありますが、やっぱりわからんわって思うものもありますし。何が好きだと答えられないということは、私の中にはっきりしたものがないんだと思います。出てくるものといえば、昔観劇して好きだったものとか、これはいい役だなと思ったもので、そんな程度です。
だんた・やすのり 1957年1月24日生まれ、京都市出身。青年座研究所を経て’81年に劇団夢の遊眠社に入団し、’92年の解散まで主要メンバーとして活躍。舞台のみならずドラマや映画でも活躍。出演ドラマ『邪神の天秤 公安分析班』が現在放送中。10月には演出・出演する舞台『女の一生』が再演予定。
段田さんが主演する舞台『セールスマンの死』は現在上演中。4月29日までPARCO劇場のほか、長野、京都、愛知、兵庫、福岡にて上演。舞台は1950年代前後のアメリカ・NY。かつては敏腕セールスマンだったが、今や成績は低迷し二世社長に厄介者として扱われるウィリー(段田)の決断とは…。パルコステージ TEL:03・3477・5858
※『anan』2022年4月13日号より。写真・中島慶子 スタイリスト・中川原 寛(CaNN) ヘア&メイク・藤原羊二(UM) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)