20世紀の巨匠が遺した創作の秘密が今、明らかに。『フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる』をご紹介します。

20世紀を代表する画家として、死後もその評価と人気は高まるばかり。アイルランド生まれのフランシス・ベーコン(1909~1992)は、20世紀という時代の息吹を誰よりも敏感に感じ取りながら、独自の画風を確立した。その画風とは、本人がよく口にしていた言葉で言い表すなら“ghostly”(「ゾッとするような、おぞましい」)。

「単なる美しさではない、人間のシリアスな部分がベーコンの作品には露骨に表れていると思います。そういうところが我々の目を惹きつけてやまないのかもしれません」

と神奈川県立近代美術館学芸員の髙嶋雄一郎さん。

本展に来日するのは、彼と親交のあったバリー・ジュール氏がベーコンの死の10日前に譲り受けたコレクションの一部。ロンドンのアトリエに残されていた、まさに遺産とも呼べる約1500点の作品群で、当時、その存在が公表されるやたちまち論争に。なぜならそこには画家が描かないと公言していた素描やスケッチ、破棄されたと考えられていたごく初期の作品など、生前の言動から考えると、あるはずのないものが数多く含まれていたから。

「ベーコンは独学で、20代の頃はキュビスムやシュルレアリスムなど当時のムーブメントに影響を受けた作風でしたが、’44年の作品から突如、今のスタイルに。なぜそうなったかは謎めいているとも言っていいほど、飛躍的な進化です。ジュール・コレクションには、歴史的人物や著名芸能人、ボクシングの試合の写真の上からドローイングしたものなどがたくさん残されています。それらを見ると、彼が人の体や顔の極限の姿に深い関心を寄せていたこと、テレビや映画、雑誌など20世紀に登場した視覚メディアから得たものを自分の絵にフィードバックしていた可能性がうかがえるのです」

もしかしたら、それこそがベーコンの創作の秘密といえるのかも。

「画家が人に見せるつもりがなかったものが白日にさらされる。その生々しさに圧倒されます。ぜひ目撃していただきたいですね」

フランシス・ベーコン《『戦艦ポチョムキン』の中の乳母の写真上のドローイング》 1970年代‐1980年代頃 ©The Barry Joule Collection

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映画史上、最も有名といわれる『戦艦ポチョムキン』の乳母車が階段を落ちていくシーン。悲鳴を上げる乳母の表情は「叫ぶ教皇」シリーズのモチーフになったとされる。

フランシス・ベーコン《Xアルバム9裏―叫ぶ教皇》 1950年代後半‐1960年代前半 ©The Barry Joule Collection

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従来、神聖視されてきた「教皇」が叫び、感情がむき出しになった極限状態を描く。ベーコンは叫ぶ人物を数多く描いているが、共通しているのは“根源的な存在”として描いている点。

フランシス・ベーコン《2人のボクサーの写真上のドローイング》 1970年代‐1980年代頃 ©The Barry Joule Collection

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ボクシングやレスリングなど、運動する人体の肉眼では捉えきれない筋肉や骨格の動きに注目した。

『フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる』 渋谷区立松濤美術館 東京都渋谷区松濤2‐14‐14 開催中~6月13日(日)10時~18時(入館は閉館の30分前まで)※土・日・祝日、最終週は日時指定制 月曜(5/3は開館)、5/6休 一般1000円ほか TEL:03・3465・9421 本展は、神奈川県立近代美術館 葉山からの巡回展です。

※『anan』2021年4月28日号より。取材、文・松本あかね

(by anan編集部)

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