悔しい思いをしながら頑張るのが、好きなんだと思います。
可憐な素朴さのなかに、ナイーブな色気を感じさせる女優・杉咲花さん。しかしご本人は「色気って自分とは程遠いもの」との評。
「色気がどういうものかと聞かれたらわからないですけれど、私のなかで色気がある方というと、宮沢りえさんのイメージがあります。りえさんは、いつもご自分のペースでそこにちゃんといらっしゃるんです。でも、自分のことばかりでなく周りの方々に対して、共演者とか、同志とか、友情とかそういうものを超えた愛情…母性のようなものも感じます。そういうりえさんの、佇まいとか雰囲気とか、しゃべり方とか匂いとか…存在そのものが、色気がある方だなという感じがします」
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』、そして上演を控えている舞台『桜の園』と共演が続くなかで感じているのは、宮沢さんの言葉がまとう魅力。
「言葉のチョイスとか言い方とか、思っていることを素直に伝えたいと思っても、それってすごく難しいですよね。りえさんをはじめ素晴らしい先輩方を見ていると、みなさんとてもまっすぐに、でも嫌みなく、言葉のなかに敬意を感じるような伝え方をされていて、とても勉強になります。私も、そんなふうに誤解のない言葉で相手に伝えられるような人になりたいと思います」
発する言葉の輪郭を慎重に慎重になぞるようにしながら、ゆっくりと丁寧に話す。その口調から伝わってくるのは、聡明さや誠実さだ。そしてそれは、杉咲さん自身の役、そして作品への向き合い方にも表れている。
「基本的にどの役をやらせていただく時も、こう見せようという思いはないんです。見せるものというより、見えてくるものだという感覚があるので…。だから、現場に行くまではいろいろと考えたりしますが、現場に入ったらいったん忘れて、生のその場で起こることを大事にしようと思っています。ただ、シーンとして描かれる部分は実際に自分が現場で体験できるので不安はないのですが、作品のなかでは描かれない役の過去を自分に染み込ませるのが苦手なんです。頭では理解しているし共感もできますが、実際に自分に起こったこととしてなかなか実感できなくて、悩むことも多いです」
そんな時の対処方法を伺うと、「考えても考えてもどうしてもわからない時は、わからんって寝ちゃいます。ふて寝です」。そう言って、茶目っ気を感じる等身大の笑顔をのぞかせる。
「私、意外とすぐに凹んでしまうんです。そんな自分に対して、こんなことでクヨクヨしちゃうなんてしょうもないなって思うことも多くて…。でも、一回落ちるところまで落ちると、自然と上がってきて、気づいたら案外ケロッとしていたりもするんです(笑)」
現在、舞台『桜の園』の稽古中の杉咲さん。これが初舞台となる。
「自分が舞台を観に行くと、役者さんが出てきた瞬間に、なぜかわからないけれど泣きそうになります。みなさんが本当に楽しみながら、自信を持ちながら公演に臨まれている姿に、圧倒されるんだと思います。そういう姿を目の当たりにしているからこそ、いま稽古している自分と比べて、私は全然ダメだなって思ってしまうんですよね。でも、りえさんをはじめ共演者の方々に、稽古は失敗する場所だから、本番で恥をかくよりも稽古場でいっぱい恥をかきなさいと言っていただいて…。そうやって開き直る気持ちで臨むと、どっしりと立つことができるのかもしれない。いまはそう言い聞かせてやっています」
それでも、一歩一歩前に進めているという実感はある。
「一回やると、何十個と課題が出てくるんです。でも、次にそこを意識してやってみると、なんだかさっきよりやりやすかったとか、少し心が動いたなって思える。まだまだすっごい怖いけれど、楽しかったりもします」
悩んだり、壁にぶち当たったりすることも含めて「楽しい」こと。
「お芝居していると、悩むことのほうが圧倒的に多いんです。それでも、勉強にならない現場はひとつもないと思うし、終わった時に、絶対にやってよかったって思うだろうっていうことは、自分のなかでわかっているんです」
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幼い頃からテレビっ子で、大のドラマ好きだったという。それがいつしか自分も演じてみたいという夢へと変わり、いまの事務所に。
「悔しい思いをしながら頑張る、っていうのがもともと好きだったんだと思います。泣きながら部活を頑張るドキュメンタリーを見て、いいなと思っていたりしましたから。たぶん私も、必死に頑張れることを探していて、それがたまたま自分の好きなお芝居だったのかもしれません」
静かななかに、熱い情熱と強い意志を秘め、清々しいほどまっすぐ誠実に役へと向かっていく。それが杉咲さんの演技に色気を感じる理由なのかもしれない。
ドレス¥54,000(ロエフ/ユナイテッドアローズ青山ウィメンズストア TEL:03・5468・2255)
ドレス¥186,000(マメ クロゴウチ フォー トッズ/トッズ・ジャパン TEL:0120・102・578)
すぎさき・はな 1997年10月2日生まれ、東京都出身。初舞台となる『桜の園』は、4月4日(土)~29日(水)までBunkamuraシアターコクーンにて上演。秋スタートのNHK連続テレビ小説『おちょやん』でヒロインを務めることも決定している。
※『anan』2020年4月1日号より。写真・三瓶康友 スタイリスト・井伊百合子(YARD) ヘア&メイク・河北裕介 取材、文・望月リサ
(by anan編集部)